乙女ゲーだけどさ?
思いつきの産物です
生暖かい目で見ていただけるとありがたいです。
その日独特のBGMが私の記憶を叩き起こした
寂しげなオルゴールの音が頭に鳴り響き映像が再生される。
正にテンプレのように一瞬で脳に叩き込まれた記憶は私に容赦なく告げた
私は乙女ゲームの世界に転生したのだと
しかもヒロインのロザリアに
ゲームの名は『マグノリアが咲いたなら』フリーホラーゲームから始まり人気を博し大手企業から商品化されシリーズ化した物だった。
何を隠そう私も大ファンだった
このシリーズにどんなにときめいた事か
魅力的なキャラ達、あの笑顔の破壊力に画面越しで何度悶えたか!
まぁホラーゲームなだけあって脅かし要素が容赦なかったけどまぁそこはイチャラブで回復できるから問題なし!ないったらない
……いや舐めてかかるとマジ泣きを見る私は初見で硬直したものだ
まぁそこはいい、そこまではいい。
私が転生したのはドット絵の世界だった。
そう、元祖だフリーゲームの方だ
あああぁ‼︎なんでぇ⁉︎
赤ちゃんだから視界がアレなのかなぁなんて思ってたけど違うのね
うおぅ…ドットだよ指の境目がわからないよ
かなり荒いタイプのドットだよ
私の顔を覗きこんでいる
両親であろう方々よ、白目はどこですか?
攻略対象のご尊顔もこうなるのかと思うと生きる希望が薄れていく、回復要素もなくあの悪夢のようなシナリオを生き残れる気がしない。
最早日常生活すら不安でしかないし
ドット絵を否定するつもりはないが
荒いドット絵が視界全体に広がるのだ…あっ目がチカチカする。
結局私はドット絵世界に慣れぬままノイローゼ気味で前兆じみた怪奇現象に悩まされながら15歳となってしまったのです
何を隠そう、未だに幼馴染と幼馴染の弟の見分けがつきません
無事ド天然ちゃん認定入りました
不思議ちゃん認定からは免れたよ⁈
やったね!でも私にはみんなが
優しい目で見守ってくれてるのか
可哀想なものを見る目なのかわからない
うぅっ…泣いてない、断じて泣いてなんかいないわ。
そんなこんなで、ゲーム通りなら
もうすぐストーリーが動き出す時期になってしまった。
ヤバイ攻略対象を見分けられる自信がない愛が足りないとかじゃなく物理的に無理よ
だってフリーゲームってだいたい会話の時はイラストと共に名前が出てるじゃない!
ないのよ!こんな非常識な世界のくせに
ないのよその機能!
転生神!!
いるなら私のクレーム受け付けてぇ!!
…折角好きなゲームなのに
見分けがつかないなんてファンとして不甲斐ないし、なにより表情がわからないなんて
攻略のしようがないじゃない
お願い…照れてたりはにかむ時は
せめて頬を赤くしてよ…
そした多少はわかるから。
あぁ誰か助けて…。
さて、僕の幼馴染の話をしよう
彼女の名前はロザリア・レーガン
僕の両親は彼女の家の庭師だ
昔から両親の手伝いがてら来ていたら
よく向こうから話しかけてきたんだ
まぁ大半は彼奴の人違いだったけど
そう彼奴はとてつもない天然ちゃんだ。
湖のような澄んだブルーの大きな目で
人の目を真っ直ぐに見てくるくせに
いつもすっとぼけた事を言う。
怒ってない?とかいつも何処か不安気だ
鏡の前でふわふわの髪を一生懸命とかして
難しい顔をしてる整える癖に
遊んでる途中でボサボサになってもケロっとしてるし後たまに服が裏返しだ。
性格は真面目な方だし
そこそこのお嬢様の筈なのに
どうもドジなんだ、
あぁ、あとよく段差につまづく
もう言い出したらキリがない
そんな彼女も今年で15歳になり
貴族様恒例の王都の学園へと行くことになった。
こんなドジが馴染めるわけないし
言ってしまえばド田舎貴族だ
絶対、風当たり強いだろうし
ぶっちゃけ心配しかない
このド天然様が生き抜ける環境じゃないだろうなぁ。
と、思ってはいたが。
そりゃないぜ
オドオドお嬢様は、不安を拗らせたのか
旦那様に、俺を連れては行けないかと頼み込みやがった。
旦那様は可愛い愛娘にデレデレだ
断る筈がないのに、彼奴はそれはもう怯えた様子で必死に懇願したらしく、それはもう可哀想で可愛くてとデレつきながら旦那様はすぐに俺を呼び出しやがった。
「って事でさ、ナディーくん
学園にも庭はあるんだ」
その整いきった笑顔は有無を言わせる訳がない俺の親父も昔はよくこの笑顔で無理難題を押し付けられていたものだ
加えて旦那様は目に入れても痛くないような猫っ可愛がりのお嬢様の事となればテコでも動かない、つまりは問答無用だ。
「承知致しました」
こうして、晴れて僕は
彼奴の学園生活の道連れとされた
…勉強もさせてもらえるようだし
珍しい植物もあるしと、自分に言い聞かせながら泣く泣く自分の庭から離れるのだ
そうして未練タラタラに僕は学園へロザリオと一緒に向かう事になった。
「ナディー…ごめんなさい
やっぱり怒ってるかしら?」
「いや、むしろ感謝してるよ王都で庭仕事ができるんだ良い経験になるさ」
ナディー、いやナディー様
いつもよりお声が低くありませんか?
鎌らしき物の勢いがいいっすねっ
ザシュザシュいってるよ⁈怒ってるやん!
私は怖いお父様に泣きつき
なんで、怖いかって?
…なんかすごいガン見してくるし
あの人だけなんか笑顔なのよこう…ピエロみたいなグニっとした笑顔デフォなのかしら?怖くない?
まぁとにかく必死に頼んだ甲斐あってか
私は無事にナディーを学園生活の道連れにした。
予想はしてたけど
やっぱり学園もドット絵よね
…窓どこ?あれは階段?
白いレンガっぽい外壁のおかげで
遠近感がつかみ辛いせいか
美しいと評判の校舎も私には良さがわからなかった。
だけど一つ利点があるとすれば
リアルなホラーを見ずに済む事だけが救いだ
それなら大丈夫…大丈夫…多分。
「ねぇ、ナディーこの前お願いしたものなんだけど…」
「あぁアレか、ほら」
「ありがとう!助かるわ」
私と共にドナドナされた彼だが
正式には生徒や庭師と言う訳ではなく
どっちかって言えば用務員さんだ
今のところ学園の隅々まで雑用に借り出されているらしいので
これは使わない手はないと
彼には地図の作成を依頼していたのだ
ドジっ子幼馴染の頼みだ
お人好しな彼は断らないだろうと思ってね。
よし…これで迷子になる確率は下がる筈だ
入学からすでに色々やらかしたせいか
親切な友人に助けられてつつなんとか
過ごしてはいたが、流石に毎度毎度は申し訳ない。
そしてこれで怪奇現象に遭遇する頻度が下がる筈だ、早速イベントのある部屋に印をつけ絶対に一人では行かないと心に決めた。
ん?何をやらかしたって?
まぁ…入学式でちょっとね。
ちなみにこの学園の制服は
男子は赤い長めのブレザーに黒か白のズボン
女子は赤いブレザーの下に赤いスカートだ
人によっては黒いストッキングを履いている
そうつまり、私は
髪が長めの男子を女子に
まとめ髪の女子を男子間違えるのだ。
うん、やり込んだゲームだもの
制服がどんなものか分かってはいたわ
でもね、いざ目の前となってはやっぱ違うわ
無理…分かりません。
本当、攻略どころじゃないのよ
声まであるゲームじゃなかったから声で探せないし推しですら見分けつくか自信がないしもう難易度が半端ない
私の推しキャラどこ⁈彼がミステリアスキャラな事もあり神出鬼没でゲームでもマジでほぼランダム配置なのだ
そんな確率ゲーに挑む気はない何故なら挑もうものなら怪奇と遭遇する確率が爆上がりする彼の現れる確率が高い場所はイベント場所だからだ
推しに会えぬどころか発狂ルートもありうる
あぁ…泣いてない泣いてないったら。
あぁもうっどうしてこうなった!
「ロザリア?」
「あぁナディーなんでもない
なんでもないわ気にしないで」
表情こそ分からないが
幼馴染の声色くらいは分かる
大丈夫よ、けして貴方の地図に文句があるわけじゃないわ心配しないで。
だって貴方のおかげでなんとか
学園生活はどうにかなりそうだもの
…攻略は無理だと思うけど。
イベントを起こさず無事に卒業を目指し
あわよくば!推しに…会いたい!
「あっそうだロザリア」
「なぁに?ナディー」
「なんか三年の先輩が探してたぞ?えっと…赤い髪のあの派手な人話があるだかなんだかって」
思わぬ人物から早速フラグが降ってきたのでウフフと笑顔でゴリ押す。
「きっと人違いだわ!」
「そうか?…じゃ俺仕事戻るけど迷子になるなよ」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべたナディーがくるりと廊下の方を向く。
「あっ待ってナディー!そっちの廊下は一人で通っちゃ駄目!」
「は?」
「あっえっと…床が脆くなってるから危ないのよ一人の時にもし足を挫いてしまったら大変でしょ?」
「なら尚更行かないとな、生徒に怪我される前に直してやらないと」
「あぁぁ!待って…そうだわ私まだ一人で教室に帰れないのお願いナディー連れてって
ね、いいでしょ?迷子はもう嫌だわ」
あんな一人で渡ると床から手が湧いてくる廊下に親切な幼馴染を送り出せる訳がないし
目の前でそんなイベントを起こされたくもない。
頭の上にクエスチョンマークを出しているナディーにダメ押しで、拝み倒す。
自分で巻き込んだとは言え、ナディーに発狂なんてされたくないし出来れば何事もなく無事に卒業したい。
もう推しの攻略は諦めた、
自分とナディーをイベントフラグから守りつつ、この魔の三年間を平穏に生き延びる事…それが私の悲しき目標だ。
命あっての物種…推しよ
不甲斐ない私をどうか許してください
攻略以前の問題過ぎるよ!
あれ?うっそ⁈今までで一番評価貰ってる⁈
読んでくださった皆様、評価ブクマくださった皆様ありがとうございます。