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前に倣う私と倣わない君

 三国みくにくんは皆から怖がられている存在だ。


 多分それは彼の顔が少し仏頂面なのと、後は怖い噂があるからだと思う。


 だから誰も彼に近づこうとはしないし、三国くんもあまり積極的にクラスメイトと関わりを持とうとしないから、彼との間には大きな隔たりがある。


「あ、今日は三国くんいるんだ――」


 最近お昼休みになると彼は姿を消すことが増えたから、もしかして迷惑だったのかな……と思っていたけど、いつもみたいに自分の席でうつ伏せになって寝ている姿を見て少しホッとする。


「? つぐ? 何見てんの?」

「三国くんだよ? 今日もぐっすり寝てるなーって思って」

「つぐまたアンタ……最近三国に話し掛けたりしてるみたいだけど止めたほうがいいって、ヤバい話しか聞かないんだから」

「えー? でもそんなに悪い人じゃないよ、話してみても普通だよ?」


 寧ろ話慣れてない感じがあるというか、こんな言い方は悪いけどちょっと挙動不審にすら見える時がある。


 だから私はあんまり三国くんを怖いとか、そう思ったことはない。


 それに――


「いやいや……、つい最近なんて屋上に女子生徒を無理やり連れて行って良からぬことをしていたって話だよ」

「あはは、屋上は立ち入り禁止だし、そもそも鍵が掛かってるんだよ? まず入れる訳ないじゃん」

「アンタはホント危機管理能力が希薄というか……フランクな性格は良いことだけど、もっと相手を選んだ方がいいと思うよ私は」


 呆れ返った表情を浮かべたキヨはお弁当のタコさんウインナー口の中に頬張るともう片方の手でスマホを操作し、最近流行りの動画をチェックする。


 私も購買で買ってきたタマゴカツサンドを全て口の中に入れると、パックのミルクティーでそれをぐいっと流し込む。


 そしてふう、と息をついて立ち上がり、右手で左胸をトントンと叩くと三国くんの元へと歩き出した。


「あーあー知らない、私は何も見ていない、興味もない」


 背後からそんな声が聞こえてきたけど私は構わずその歩を進め、三国くんが座っている席の前の座席で腰を下ろした。


「全く、寝てばっかりだねえ三国くんは」


 思わずそんな言葉がポロリと漏れる。


 みんな怖がっているけど、もっと彼の寝顔とか見た方がいいと思う、こんなに優しそうな顔をして寝ている人は中々いないよ。


「さてと――今日はどんなお話をしようかな」


 三国くんって、テレビとか見たりするのかな? 丁度昨日のドラマが面白い展開だったからその話が出来れば一番いいんだけど……。


 でも学校で今話題になっている話とか絶対知らないだろうし……困りましたなぁ……と、いざ彼の前に座ると何から話していいのか分からなくなる。


「ん……んん……?」

「お、三国くんおはよ! 今日は自分で起きれましたねー!」

「うおおっ!? く、くろ――何だ、山中か……」

「むっ、何その言い方! 私じゃ不満みたいに聞こえるんだけど」

「い、いや違うんだ……ただその……何と言えばいいか――」

「?」


 別に全然カチンと来ていないというか、寧ろ冗談で言ったつもりなんだけど、何だか妙に慌てふためいた様子になる三国くん。


 よく見ると凄く疲れた顔しちゃってるし、何かあったのかな。


「あ、もしかして悪い夢でも見たとか?」

「髪の長い美人に追いかけ回される夢を見た……気がする」

「あははなにそれ、それって別に怖くないじゃん」

「けどどんなイケメンでも毎日求愛されて追いかけ回されたら身の危険を感じるだろ」

「うーん、1回あったけどねそういうの」

「え」


 1年生の頃だったかなぁ、部活の関係で知り合った他校の男の子(名前は忘れた)に告白されて断ったらストーカーまがいのことされたことあったし。


 まあ「死ね」の一言でなんか喜んでそのまま二度と来なかったけど。


「あー……あれか、山中ってモテそうだもんな、それくらいあるか」

「そんなことないよぉ、それなら三国くんの方がモテモテでしょ」

「そりゃ面白い冗談だな、お世辞を通り越して皮肉にすら聞こえてくる」


 ……ほらね。


 やっぱり三国くんの怖い噂は誰かが勝手に作ったまやかしだ。


 とは言っても実は謙遜していて、本性を隠しているっていうなら流石に分かりようがないけど、多分それはないと私は踏んでいる。


 なにせこれでも人並み以上に色んな人と遊んだり会話したりしてるから、言動を見れば大体のことは察しがつく。


 だから三国くんは多分怖い人じゃない、でもそんなことはどうでもいい。


「あ――水槽の水、三国くんが掃除してくれたんだ」

「うん……? ああ、ちょっと汚れてたからな、やることなくて暇だったし」

「うんうん、感心でございますね、私も今度掃除しなきゃですな」


 私達のクラスには小学校かよと言いたくなるけど水槽が置いてある。


 担任の先生が『教室に癒やしを』とか言って勝手に用意したもので、理不尽にも週に一回出席番号順に掃除をさせられているのだ。


 この週に1回っていうのが絶妙に面倒臭くて、大体皆水だけ替えたりとか、何なら掃除をしてないのにしたって言う子もいるくらい。


 ただそんなことを注意してもからかわれるだけだから口にはしなかったけど、面倒の連鎖で金魚ちゃんが死ぬのは嫌だなぁという気持ちはあった。


 でも、ある時三国くんが順番でもないのに水槽を掃除をしていた日があったのだ、それも嫌な顔一つせずに黙々と掃除に勤しんで。


 その姿があまりにも意外で――その時初めて彼に興味を持った。


「三国くんはさ、よく一人でいるけど辛くなったりしない?」

「別に。学生社会に溶け込むことが学校の全てじゃないだろ」

「でも溶け込まないと色々と大変じゃん」

「溶け込まないといけないと思うから大変なだけであって、溶け込まなくても今の時代なら意外となんとかなるもんだよ」

「ふうん……斜に構えてますねえ」

「まあ最近斜に構えさせて貰えない気がしてるけど……」

「……?」


 本当に三国くんは不思議な人だ。


 掃除に限らず皆が嫌がる、面倒なことを誰に言われるでもなくやるし、なのにそれを褒めて貰おうと思っていないし、何なら孤立している事を好んですらいる。


 まあ、孤立している理由は噂のせいが大きい気がするけど……でもこうやって彼と話をしているとどんどん彼の魅力に取り憑かれてしまう。


 そして、同時に嫉妬もしてしまうのだ、羨ましいなって。


 だから、私はいつしか自分でもとんでもないことを思いついたのだった。


 それを実行に移そうと思って、今日も彼のもとに訪れた。


「ねえねえ、三国くん」

「?」

「明日の放課後って暇だったりする?」

「んー……? 別に何もないと……思うけど」


「じゃあさ! 一緒に遊びに行かない? 私と三国くんの二人で!」


「は…………う、うそだろ……?」


 これある意味、人生を賭けた大勝負なのである。


 私が三国くんと一緒にいることで、私が三国くんのような人間になれるのか、それとも私が三国くんを引きずり込んでしまうのか、はたまたそれ以上の何かがあるのか――


 それ程までに私は彼に惹きつけられつつあったのかもしれない。


 まあ、どっちに転んでも私は損をしないんだけどね。


「俺……本当に寝てるだけだよな……?」

「? 三国くん?」

これでプロローグと言いますか、彼らの立ち位置の説明は終わりです。

ここから先頭を独走する先輩ちゃんに二人がどう肉薄するのか、諸々と書いていく予定です。


面白い、可愛い、先輩ちゃんもっとやれと思って頂ければブクマ、評価、感想、レビューして頂けますととても嬉しいです!いつも励みになっています!

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