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好きならそれくらい出来るでしょ?

「な、なんてこと……」


 私は、目の前にある光景に強烈な胸騒ぎを掻き立てられていた。


 昌芳くんが看病してくれたお陰でその日の内に体調が良くなった私は、今日、上尾藍としての仕事の関係で府内某所にいた。


 内容は単純に私の作品を特集した取材のため。


 正直乗り気ではなかったけど、昌芳くんに相談したら『先輩が有名になるのは嬉しいこと』と言ってくれたから受けることにした。


 その後は古書店にしか置いていない資料を購入する為に大阪駅で降り、古書のまちに寄って帰ろうとしたのですが――


 不意に、本来いる筈のない香りに誘われて、足を向けてしまった先にいたのが昌芳くんとあの女だったのでした。


「あの女……また昌芳くんを……」


 今すぐにでも割って入ろうと思ったけど、昌芳くんを危機から救うのであればもっと決定的な場所を抑えないといけない。


 図書室の女といい、昌芳くんはあまりにも無自覚に女を魅了してしまう、だからこそ私が守ってあげないと……。


 暴走しそうな気持ちを必死に堪えながら、私は数メートル後ろから追跡していると、二人はファッションビルへとそのまま入っていく。


 私も中へと入り、そのまま追いかけていると――ある場所で二人の足が止まったのでした。


 その瞬間、私は行くことを決意する。


「昌芳くんの貞操が奪われちゃう……!」


       ◯


「……この観覧車って、大阪に来ると必ず目につくけど、乗ろうと思ったことは一度も無かったんだよなぁ……」

「何というか……あまりにも当たり前過ぎるのもあるし、それなら遊園地行けばいいじゃんってなるもんね……」


「だよな……」

「う、うん……」


 なんて言ってはいるが、如何ともし難い緊張感が走りまくっているせいで到底目を合わせることが出来ない俺は、真正面を向いたまま平静を装いつつ話をしていた。


 いや……これはあくまでそういう体であって、別に深い意味は何もないから……15分遊覧して何万ドルかも分からない夜景を見て、それで終わりだから。


 しかし周囲の雰囲気が一層落ち着かなくさせるのだろう、あれだけ喋ってくれていた山中もいつの間にか口数が減っている。


 だがもうチケットも買って列んだ以上逃げ場はない、終始言葉数少ないまま係の案内に促されると俺達はゴンドラへと乗り込んだ。


「な、列んでた人、殆どカップルしかいなかったね……」

「そ、そうだな……ま、まあ観覧車ってそういうもんだから……」

「もしかして……わ、私達もそういう風に――」


『ちょ、ちょっと!? お客様!?』


 そう山中が何かを口にしようとした時、乗車口がやけに騒がしいことに気づき、俺は窓に向いていた視線を反対側へと向ける。


 すると――そこにはまさかの黒芽先輩がいて、何なら既に俺達のいるゴンドラに乗り込んでいるのであった。


「な――――!? く、黒芽先輩!?」

「ちょ――! 何であなたがここにいるんですか!?」


「扉を締めて頂戴、代金は払ってありますから」

『ひぃ――! わ、分かりました……!』


 そして黒芽先輩の尋常ではない睨みにより怯えてしまった係の人は、ここが地獄の密室になるにも関わらず容赦なく扉を閉めてしまう。


 いや別に何も疚しいことなんてしちゃいないんだぜ? でも何というかこう……ゴンドラに乗り込まれている時点で何が起こるか大体分かるよね。


 山中とは向かい合わせで座っていたのであるが、黒芽先輩は俺の横にあるスペースを一瞥するとそこが定位置だと言わんばかりに自然に隣へと座られた。


「昌芳くん……」

「は、はい……」


「いつもでも言ってくれれば良かったんですよ……この身体は昌芳くんの物なんですから」

「はい!? いや黒芽先輩何を言って――」


「ちょっと待って、勝手に割り込んで来ていきなり何を言っているんですかこの先輩は」

「どうだか、ホテルに入れる年齢ではないことを考えれば観覧車を利用する可能性は十分に考えられましたけど」


「ウケる、思考力猿なんじゃないですか」

「では貴方はデートはしても昌芳くんとエッチしたくないんですね」

「は、はあ!? 何でそんな話に――」


 山中の言っていることは至極真っ当なのだが、黒芽先輩の飛躍し過ぎた理論に流された彼女は、直球すぎるワードに顔を赤くしてしまう。


 まずい……これはヤバい予感しかしない、早く黒芽先輩を止めないと――


「いやあの、黒芽先輩……」

「私は昌芳くんが望むのであれば何でもしてあげたいと思っています、勿論情事も、貴方はそれぐらいの想いで臨んでいないのですか?」


「そ、それは……」

「中途半端な気持ちで昌芳くんに近づこうというなら彼がが許しても私は許しませんから、真剣な想いがあるなら今ここで私に証明して――」


「あ、あるから! 私だって半端な気持ちでやってないから!」


「や、山中……?」


 山中の呼気を強めたその言葉に一瞬目を奪われそうになるが、黒芽先輩は平静を崩すことなくこう質問する。

 

「ふうん、じゃあどうやってそれを証明するの?」


「しょ、勝負下着履いてるから! 赤のヒラヒラのついたセクシーな!」

「え゛っ!? ちょっと山中さん!?」


「へ、へえ……そういうことなら私も黒のスケスケ履いてますけど」

「スケスケ!?」


 一切躊躇なく下着の色を告白する二人に俺も余裕が無くなってしまう、それに山中も黒芽先輩の挑発に乗ってムキになり始めてるし……。


 だがそんな俺をよそに二人の会話は更にヒートアップしていく。


「な、なにそれ、三国くんに会う予定もなかったのに黒のスケスケ履くとか変態じゃん」

「いつでも昌芳くんに抱かれる準備が出来ているだけの話です。突然世界が滅んで私と昌芳くんだけになっても、黒のスケスケなら子孫を残せるでしょ」


「それどころじゃない気もしますけど」

「そんなこと言って……どうせ見栄を張って嘘ついてるだけでしょ」


「なら今ここで見せて確認しますか? 私はその自信がありますけど、どうせ貴方の方こそ黄ばんだ白パンなんじゃないですか」

「はぁ!? 上等よ! どっちが三国くんの好みか勝負しようじゃないの!」

「望むところよ、じゃあ勝った方は――」


「だぁああああああああああ!!!! ストップストップ! 山中も! 黒芽先輩も落ち着いて下さい! このままじゃただの公然猥褻ですって!」


 既にお互いスカートの裾を握りしめ睨み合っていたので、俺は堪らず待ったをかける。


 いや見たいよ!? 見たくないと言ったら嘘になるけどこれは流石に洒落になってない、観覧車で女の子二人がパンツ見せてくるって純の欠片もねえよ!


「昌芳くん……ですが――」

「お気持ちは嬉しいですけど冷静になって下さい……客観的に見たらシチュエーションもへったくれもあったもんじゃないですよ」


「そ、そうだよね……ご、ごめん三国くん、私どうかしてた」

「く、黒芽先輩もここは穏便に……」

「昌芳くんがそう言うのでしたら……」


 山中も少し冷静になったのか、顔を赤くしつつもスカートの裾から手を離してくれる。


 彼女は気が強い所があるのは知っているが、特に黒芽先輩のことになると何かと張り合おうとする部分がある、でもだからってパンツの見せ合いは最早勝負ではない。


 あまりにも想定外過ぎる状況に気づけば時間は大いに過ぎ去っており、こちらの都合など関係なしに回っていた観覧車はいつの間にか頂上へと差し掛かっていた。


「…………ねえ、知ってる?」


 ようやく場の空気が少し落ち着き始め、しかしこの状況からどう話を持っていこうかと考えていると、座って床を見ていた山中が口を開いた。


「この観覧車ってね……実はジンクスがあるんだ」

「ジンクス?」


「そう……付き合っているカップルがこの観覧車に乗ると別れるんだって」

「はあ……? 何ですかそれ、そんなのその二人の愛が温いだけ――」


「でもね、観覧車でキスをするとそのジンクスは破れるらしいの」

「成る程……結果として二人の愛を深められるって寸法か」

「ただこれは付き合う前の二人には適応されなくて、何なら付き合う前だと付き合えるなんてジンクスもあるらしいんだけど――」


 と、そこまで言って頭を上げた山中の顔を見て、俺はしまったと思った。


 何故なら、その表情は妙に含みをもたせた笑みだったから。


 だが、話を聞いてしまった時点で、時既に遅しである。


「だったらさ――今の私達の状況って、どうなるんだろうね」

「ど、どうって……」



「何なら、キスなんてした日には、私達どうなっちゃうんだろうね……?」

同級生ちゃん、暴走。


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