ゴウ
クインは息を呑んだ。
「・・・誰?」
「彼は私の願いをなんでも叶えてくれるらしいの」
クインはエレナの言葉が理解できない。
「えっと、てことはエレナの彼氏?」
「ちがう」
エレナの即答にクインは瞬きをするしかなかった。
「じゃあ、親戚の人?」
「それもちがうわ」
「あ、わかった!家にきたお手伝いさんとか!」
「そんな余裕うちにはないわ」
「じゃあ誰なのよ!」
エレナは、にっと笑った。
「さあ」
エレナのその答えにクインは呆れて言葉がでない。
(さあって)
「ただ分かっているのは、彼はあいつの元から来たってことだけ」
「あいつ?それってまさか」
「Mr.S。あいつはそう名乗ったわ」
「なによそれ、ふざけた名前」
エレナは、ふふっと笑った。
「Mr.Sは帳消しにしたいんだって。私への罪を」
クインはエレナの言葉の意味が理解できていないようで次のエレナの言葉を待っていた。
「Mr.Sは私の願いをゴウが何でも叶えることで、自分の罪を帳消しにしようとしているの」
「何でもって」
クインは運転席を見つめた。
「こんな素性もわからない男に何ができるって言うのよ」
エレナは、にこっと笑ってひざに置いていたバッグを持ち上げた。
クインは、ゆっくりと口を動かした。
「その・・・バッグ、昨日の授業中断・・・・このリムジン」
「そ。全部ゴウに叶えてもらったの」
「エレナまで何言って・・・」
「クイン、本当のことなのよ」
クインは、ぽかんと口を開けたまま運転をしているゴウへ視線を戻した。
「ほ、本当に?この人が?」
「彼が言うには人間じゃないらしいけどね」
クインはもう訳が分からず何と言葉をかけたらいいのかすらわからない。
エレナはバッグを見つめた。
「この街でいちばん高価なバッグ・・・別にほしかったわけじゃないけど、ゴウの力が本当かどうか試すために。次の願いごとは学校を午前中で終わらせてって願い。ちょっと無茶な願いを試してみたくて。で、今。リムジンで迎えに来てって願い。さすがに私ももう信じたわ」
クインはエレナをまっすぐに見つめた。
「全ては・・・Mr.Sの罪滅ぼしなの?」
クインは膝に置いていた拳をぎゅっと握り締めた。
「エレナのお父さんを殺した罪を?」
そんなクインの言葉にエレナは顔を綻ばせた。
「もう、クイン。私はMr.Sに父が殺されたとは思っていないわよ」
「でも」
「本当よ。私が許せない人間は、今も昔も変わらないわ」