エレナの答えその2
クインは言われるがままエレナと一緒に教室を出た。
いつもの放課後よりも学校の外が騒がしいことに気がついたのは、校門の前にふたりが来た時だった。
学校を出てすぐの道路の前に人だかりができている。
「何?何かあったの?」
クインは、人だかりの後ろから背伸びをして覗き込んだ。
「ん?よく見えない、なんだろ・・・くるま?わっ!」
クインはエレナに腕を引っ張られた。
「どうしたの?エレナ?」
「こっち、こっちに来るわ」
「え、来るって?」
ブルンという低いエンジン音がしたかと思うと四方八方に人だかりがバラけた。
クインとエレナに向かってピカピカの巨大な黒い塊がやってくる。
クインはその黒い塊を見て、目を見開いた。
クインとエレナの前で止まったその塊は、車体が異様に長い巨大な車だった。
「エ、エレナこれって」
「リムジンよ」
あまりにもあっさりと答えるエレナをクインは見つめた。
「え」
「今日の帰りに送ってもらおうと思ってリムジンを呼んだの」
「え?」
理解が追いつかないクインの目の前で、リムジンの巨大なドアが開いた。
「クイン、とりあえず帰りながら話しましょ」
「え、乗るの?」
あたりまえでしょと言ってエレナはリムジンに乗り込んだ。
「ちょっと」
「いいから、クイン、早く。また人が集まってきてるわ」
クインはまだ自分の目の前で何が起こっているのかわかってはいなかったが、とりあえずエレナの言うとおりにリムジンに乗り込んだ。
クインが乗り込んだ瞬間、バタンと大きな音をたててドアがしまった。
エレナとクインは向かい合っていた。
普通の車なら、人と向かい合うことなんてできないだろう。
だが、この車では可能なのだ。
更に
「あ、なんか飲む?」
そう言ってエレナが自分の横にあったミニ冷蔵庫を開けた。
「コーラにオレンジジュース、お酒まであるわ。何がいい?」
何も答えないクインに、エレナは振り向いた。
クインは下を向いて俯いていた。
「どうしたのよ、クイン」
どうしたの?じゃないわよ、と小さくつぶやいた声が聞こえた。
「え?何?」
クインは、ばっと勢いよく顔を上げた。
「リムジンよ!!これリムジン!お金持ちとかが乗る車!」
エレナは首をかしげた。
「そうだけど?」
「そうだけど???」
クインはもう訳がわからなさすぎて、驚く感情を通り過ぎて怒りだしていた。
「なんでエレナがリムジン持ってるのよ!?ごく一般的な家庭だったわよね?それに、学校で起こったこと説明するっていうのにリムジンに乗せられるし、わけわかんないわよ!もう疑問ばっかり増えて、ひとつも答えてくれないじゃない!」
そう言って怒鳴り終えたクインは肩で息をしていた。
そんなクインを教室の時と同じようにぽかんとした顔で見つめていたエレナは、ぷっと吹き出した。
(こ、こいつ・・・)
「ちょっとエレナ!私は本気で」
「わかってる。本当に今から説明するから。運転手が」
「運転手?」
「あなたからクインに説明してよ。ゴウ」
(ゴウ?)
ウィィィンと音が鳴ってエレナの後ろにあった壁が吸い込まれるように下がっていった。
クインは驚いて言葉がもう出ないような顔をしてその瞬間を見つめていた。
壁の向こう側は運転席になっていた。
「クイン、紹介するわ。彼はゴウ」