エレナの予言?
クインはエレナの言葉の意味がわからないまま、午前最後の授業を受けていた。
頬杖をつきながら教壇の前でこの国の歴史を一心不乱に説明する先生を見つめた。
(先生に特に変化はない)
それから教室を見渡した。
熱心にノートをとる子、小さな声で隣の席の子と会話をする子、自分のベッド以上に寝心地が良いのか机の上で熟睡をする子。
(みんなにも変化はない)
クインは、小さなあくびをした。
(授業が本当に午前中で終わるなら、この授業を受ければ今日は帰れるってことよね。でも、まったくそんな感じしないけど。それに、バッグと授業の関係性って何よ)
ふとクインは斜め前のエレナの席を見つめた。
(エレナ?)
エレナは教科書をバッグの中にしまい始めていた。
(なにやってんのよ)
その時だった。
突然、ピンポンパンポンと放送を告げる鐘が鳴った。
「えー、校長室からのお知らせです。校長室からのお知らせです。急遽本日の授業は午前中で終了します。繰り返します。本日の授業は午前中で、今の時間をもって終了とします。以上」
再び、ピンポンパンと鐘が鳴って放送は切れた。
教室は一瞬静寂に包まれた。
先生もチョークを握ったまま固まっている。
「え、午後休みって」
「校長いいのかそれで?」
教室がざわついてきた。
「静かにしなさい~!」
先生は生徒たちに教室で待機するように指示をすると、教室を飛び出していった。
「どうなってるのよ、一体」
戸惑うクインの前に、帰り支度万端のエレナが立っていた。
「帰りましょ。クイン」
「え、でも、先生は待機しろって」
「いいから」
そう言ってエレナはクインに背を向けた。
クインは急いで教科書をバッグに詰め込むと、エレナと一緒にまだ騒然としている教室を飛び出した。
廊下には誰もいなかった。
教室の中でまだ生徒たちがざわついているのがクインにはわかった。
皆、状況がつかめずなかなか行動に移せなかったからだ。
(そりゃそうよ。いきなり午前中で授業が終わりだなんて)
クインは目の前をさっさと歩くエレナを見つめた。
「エレナ、待って、ちょっと待ってよ!」
エレナは立ち止まって、くるっとクインに振り返った。
じっとエレナがクインを見つめる。
「何?クイン。その目は?」
「何か知ってるんじゃないの?こうなることわかっていたみたいだし」
エレナはクインから視線を床に落とした。
何かを考えているようにクインには見えた。
ちらほら教室から生徒が出てきた。
きっと廊下で帰り支度をしているクインとエレナの姿を見て帰ってもいいと判断したのだろう。
エレナは視線をクインに戻してこう言った。
「明日・・・明日話すわ。だから今日はもう帰りましょ」
クインが口を開く前に、エレナはクインに背を向けて再び歩きだした。
クインは、しばらくエレナの背中を見つめ、後を追おうとしたが、足が止まった。
これ以上聞いてもきっとエレナは明日になるまで教えてくれないと長年エレナの友人をやってきたクインにはわかったからだ。
立ち止まったクインの脇を教室から溢れ出してきた生徒たちが通り過ぎて行く。
この街の子どもたちは早く街に繰り出したくて仕方がない。
だから、クイン以外の生徒はもう学校がなぜ午前中で終わったかなんて考えてはいなかった。