メルにはわからない
クインとは店の前で別れた。
1週間ぶりに友人と話すことができてメルは嬉しかったが、学校が休校になったことがメルの中で引っかかっていた。
休校の理由が知りたいというわけではない。
メルは家へと戻る道の途中でふと立ち止まりポケットに入っていた携帯を開いた。
受信ボックスを見つめるが、ここ最近メールは誰からも来ていない。
メルはそんな携帯を真顔でじっと見つめた。
(学校が今日まで休校だったこと誰も教えてくれなかった)
メルと同じクラスの同じグループの子たちは、クインと同じで小学校の頃からの友達だ。
もちろん、メルの才能のことも理解しているし、クイン以上にわかり合えている存在とメルは思っている。
だからこそメルが学校を休むたびに最初こそは大丈夫?だとか、連絡をくれたのだがここ最近はメルの行動にも慣れてきたのか連絡をしてくれることは激減していた。
(もう私の行動はあの子たちにとっても当たり前の行動になったってことよね。それは私にとってもありがたいことなのかも)
メルは小さくため息を付いて携帯を閉じた。
(でも少し寂しいな。学校が休校していることぐらい教えてくれてもよかったのに)
そんなモヤモヤとした気持ちをメルいつもこうして振り払う。
自分の才能があるじゃないかと思いうことで。
メルのジンクスを感じ取ることができる才能はいつも自分を正しい道に導いてくれる。
(だから大丈夫。幸運のジンクスを感じた限り、きっとこれからいいことが起きる。きっと)
そんな風に自分にいい聞かせていたメルが再び歩き出そうとした時、
(誰かに見られている・・・)
後ろから視線を感じた。
メルが後ろを振り向くと、そこには今朝、校門の前に立っていたあの男がいた。
あの時と同じようにじっとこちらを見つめている。
顔は整っていたが感情のないその顔はメルにとって恐怖でしかなかった。
しかしメルは、その場から逃げ出すどころか思わず男の顔をじっと見つめ返していた。
怖くて足が動かず、逃げ出すことができなかったのだ。
男は相変わらずこちらを見つめている。
メルの脳裏にひとつの疑問が浮かび上がった。
(もしかしてこの人、私を尾けていた?)
そう思った瞬間メルの足はやっと動き出し、男に背を向けてその場から走り出したのだった。
リビングにいたメルの母親が顔をのぞかせて、メル、学校は?と玄関にいたメルに問う前にメルは自分の部屋に飛び込んで扉を閉めていた。
心臓がバクバクと音をたてて体中にものすごい速さで血を送っている。
だからメルはまだ家に帰っても落ち着くことができなかった。
「何なの。あの男」
あの男の顔がメルの脳裏に焼き付いて離れない。
じっとこちらを見つめる大きな瞳。
ようやくメルは落ち着いてきたのか、小さな息を吐いた。
そんなメルが顔を上げて部屋を見渡した時だった。
本棚に飾っていたぬいぐるみが床に落ちていることに気がついた。
きっと窓を開けていたから、風か何かで落ちたのだろう。
大抵の人間はそう思う。
だがメルは違った。
(嘘でしょ)
メルはその光景に、ただ単に部屋の床にぬいぐるみが落ちているというその光景に不運のジンクスを感じた。
こうしてメルの幸運は終わった。
だから、メルは次の日からまた家に閉じこもった。
その次の日も、またその次の日も。
あの日からメルは幸運のジンクスを感じることができない。