カフェにて
「うわあ!」
メルは思わず大きな声で叫んでしまった。
「ちょっと、どうしたのよ。メル」
メルが驚いて後ろを振り向くとそこにはクインが立っていた。
「ク、クイン?」
メルは大きく息を吐いた。
「ああ、なんだ、クインかあ」
「なんだとは何よ。失礼ね」
「ごめんごめん。急に肩なんて掴んでくるからびっくりしちゃって。でもどうしたの?」
クインは、えっと、と小さく呟いてからにこっと笑顔を作った。
「最近メルの姿学校で見ていなかったなと思ってね。ねえ、どっかでお茶しない?久しぶりに」
クインとメルは学校からひと駅離れたビジネス街にある“ダミアンの店”というカフェに来ていた。
暖かな黄色い明かりに包まれた店内はビジネス街の喧騒を全く感じさせない。
ウォーキンシティには数え切れないほどのカフェやレストランが存在するというのに、
仕事に疲れたOLやサラリーマン、遊び疲れた若者、退屈を持て余したお年寄り、老若男女問わずウォーキンシティの住人はここが大好きなのだ。
それは、ここのサンドに秘密がある。
焼きたてのパンにはさまれたサクサクのカツ、カツにかかったソースがパンとレタスに染み込んで、それはそれは口の中に広がるソースの旨み。
ここのサンドを一度食べると他のサンドを食べることなんてできない。
そんなダミアンの店を、生まれたときからウォーキンシティに住んでいるクインやメルは学校帰りによく寄っていた。
だから久しぶりに話をするのならば、ダミアンの店でということになったのだ。
静かなクラッシク音楽がゆっくりと流れ、コーヒーの香りが漂う。
「ここの店久しぶりね、あ、すみません!ホットコーヒーふたつ!あとサンドも」
そう言いながら向かいに座ったクインをメルはまじまじと見つめて思った。
(本当に久しぶりだわ)
クインはメルと小学生の頃からの付き合いだ。
だからもちろんメルの才能のことも理解している。
クラスも今まで何度か同じだったが、女子特有のグループでは同じグループには属していなかった。
(クインは確かエレナと仲が良かったのよね)
だが、何度かこうしてお茶する仲ではあったのだ。
クインとメルはそこまで仲が良い訳でなないのだが、同じグループじゃない女の子というのは、同じグループの女の子よりも何かと相談や本音を言いあえたりするものだ。
(そういえば昔、クインとエレナにここで)
そこでメルは、クインの目を見つめた。
「クイン、エレナの話聞いたわ」
クインの目が悲しそうに光った。