休校
顔に優しく触れる風が気持ち良くてメルは思わず顔をほころばせた。
久しぶりの太陽の光を浴びながら、鼻唄を歌って。
そう。
メルの外出は実に一週間振りだった。
不運のジンクスを感じ取っていたメルは、外出を控えていたのだった。
(ずっと嫌な感じがしていたけど、今朝のあの司会者のおかげでそれもなくなったわ)
一週間前、いつもどおり学校に向かおうと玄関を開けたときだった。
ドアの横に掛けてあった傘が落ちた。
ただそれだけだったがメルにはそれが寒気を感じるほどの不運がこの先に待ち受けていることを感じたのだった。
すぐにドアを閉めて自分の部屋に戻った。
そこから一週間メルは家にこもりっぱなしだったのだ。
とは言ってもここまで外出しなかったのはメル自身も初めてだった。
(一週間もこんな嫌な予感がするなんて、学校で何かあったのかしら)
確かに学校ではちょっとした騒ぎが起こっていたのだった。
メルは学校に着くやいなや校門の前が異様な雰囲気であることに気がついた。
大勢の人だかりが、校門に一枚貼られている張り紙ただ一点を見つめていたからだ。
(なんだろう?)
メルは人だかりをかき分けて張り紙の文字が読める距離まで近づいた。
本日休校に致します
その一言が小さなコピー用紙にでかでかと書かれていた。
「え、休校?」
メルはあまりにも驚きすぎて思わず心で思ったことが口に出ていた。
周りの生徒たちもメルと同じ思いだったのだろう。
口々に文句を言い始めていた。
「いったいいつから再開するんだ?」
「いいかんげにしろよ!」
「校長出てこい!」
メルは呆れて張り紙を見つめた。
(今日は確かにいいことがありそうに感じたのに。これがいいこと?)
しばらくそうして張り紙を見つめていたが、次第に校門の前の人だかりは小さくなっていった。
ここで張り紙を見ていても仕方がない。
肝心の学校が休みならメルがすることはひとつだ。
(私も帰ろ)
来た道を戻ろうと振り向いたメルはふと視線を感じた。
メルが横に振り向くと、そこにはメルより5つか6つは年上に見える男が立っていた。
その男はメルと目が合っても全く表情を変えることなくこちらを見つめている。
男の視線はあまりにもメルだけを見つめていたものだから、メルは知人の誰かなのかもしれないと思い記憶を張り巡らして思い出そうとした。
しかし、どう考えてもこんな男見たこともない。
見れば見るほど見たことのない男。
メルは、そんな男のまっすぐな眼差しが気持ち悪くて、男から視線をそらし、足早に校門の前から去っていった。
(やっぱりおかしい。今日は幸運のジンクスを感じて外に出てきたのに)
メルは足を緩めることはなかった。
あの男が追いかけてきているような気がしてしょうがなかったからだ。
確かにメルの足音ともうひとつ足音が聞こえる。
メルの足音はどんどん早くなる、もうひとつの足音もどんどん早くなる。
曲がり角を曲がろうとしたその時、メルの肩がうしろから勢いよく掴まれた。