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ウォーキンシティへようこそ  作者: 十八谷 瑠南
プロローグ
16/65

メルにはわかる

◇メル◇

ジンクス。

それは人が自分の運命を見定める方法のひとつ。

靴ひもが切れたら縁起が悪いだとか。

黒ネコが前を横切ったら、不幸になるだとか、人はジンクスを気にして生きている。

メルはそんなジンクスを無意識に感じ取ることができる少女だった。

目の前で起こったなんともない出来事を自分の幸運、不運の前ぶれとして感じることができるのだ。



例えば今日の朝の出来事。

目覚ましが鳴り、寝ぼけた顔のままベッドからおりて、リビングに向かう。

眠気を少しでも覚まそうとコーヒーを飲み、朝食を食べながら、ふとテレビを見つめるといつも見ているモーニングショーの司会が変わっていた。

司会が変わったくらい特に何の問題もない。

このモーニングショーを見ている大半の人間はこう思うだろう。

ふうん。司会変わったんだ、とか。

前の司会者の方が好きだった、とか。

そんなたわいもないことを思うはずだ。

だがメルは違う。

思わず、スクランブルエッグをフォークで突き刺したまま固まってしまった。

「行かなきゃ」

メルは感じたのだ。

このなんてことのない出来事に幸運のジンクスを。





いつからだろうか。

メルがジンクスを瞬間的に感じることができると気がついたのは。



一番初めに感じたジンクスはなんだったのだろう。

そんなことメルはずっと昔すぎて忘れてしまった。

だが、小学校に入った頃には自然に自分の才能を無意識に理解していたようにも思えるのだ。

メルのジンクスは、はっきりと未来がわかるものではない。

自分にこれから訪れるのは幸運か不運かのどちらかなのかが無意識に感じ取ることができ、自分がすべき行動を判断できる。



例えば、ベッドに入る直前に聞こえた犬の遠吠えに自分の不運のジンクスを感じるとする。

そんな不運を感じながら学校に向かうと、クラスではウイルス性の風邪が流行っていたり、席替えのくじ引きがあって、とんでもないいじめっ子の隣の席になったり、大嫌いな科目の抜き打ちテストがあったり、それはもう踏んだり蹴ったりな一日を送るはめになる。

逆に、早朝に聞いた美しい鳥のさえずりに幸運のジンクスを感じるとする。

そんな幸運を感じながら学校に向かうと、クラスでは発表会の役決めの最中ですんなりと自分がしたかった役に決まったり、つまらない授業を中断して先生がゲームをしてくれたり、勘だけで解いたテストで満点を採ったり、それはもうとにかくいいことづく目な一日が訪れる。



こんな調子で日常を繰り返してきたものだからメルはいつから自分がこんな生活をし始めたのかがわからない。

家族や昔からの友人に聞けばわかるかもしれないが、みんな長い付き合いだ。

メルと同じようにいつからなのかきっと忘れてしまっているだろう。

だが、だからこそメルのことをよく理解している。

メルの両親はもうメルの両親を16年も務めているだけあって、メルのジンクスを感じ取る才能を信用していた。

昔は、外に出たくないと言っても無理やり外出させたりしていたが、そのたびに怪我をしたり、はたまた大きな事故に遭遇したりすることが何度も続いたため、次第にメルの才能の存在に気がついてきたのだ。

だからメルが外出をしたくないと言い出しても、すんなりと受け止めてくれる。

メルの友人も同じだ。

小学校の頃からメルが学校を休む度に、不運なことが起こり、メルが学校にいるときはいつもいいことばかり起こるのだからメルがジンクスの話を打ち明けてもいとも簡単に信用してくれた。

そんな人々に囲まれて高校生になったメルの生活は順風満帆だった。




自分で自分の幸運不運を見定めることができるなんて人生勝ち組である証拠なのだから。

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