Mr.Sの屋敷その5
◆ゴウ◆
「大丈夫か?」
思わずゴウは後部座席に座るクインにそう声を掛けた。
クインはその言葉で我に返ったようで、きょろきょろとあたりを見回した。
そこはゴウが運転するリムジンの中だった。
ショーンの城からリムジンに乗り込んだところでクインは疲れが出たのかそのまま眠ってしまったのだ。
車の外の景色は少しずつ街の中心地へと戻りつつある。
「ああ、そっか」
そう言ってクインは大きく息を吐いて、シートにもたれた。
「これまで聞いたこともないぐらい自分勝手な頼みごとを聞いたんだった」
クインは先ほどまでのMr.Sとの会話を思い出しているのだろうとゴウは思った。
「クイン」
クインは運転席を睨んだ。
「何よ?」
「巻き込んで悪かった」
その言葉にクインが拍子抜けしたような顔をしているのがルームミラー越しにわかった。
「え?」
「エレナへの願い事とは別にMr.Sにエレナと近い人間を連れてくるように頼まれていたんだ。まさかあんな頼みごとをするとは思わなかったが。それにあいつと会話をすると普通の人間は大抵くたびれる。お前もそうだろう?」
クインは吹き出した。
「なんで笑う?」
「いや、心配してくれるんだと思って」
クインはゴウに微笑んだ。
「ありがとう。でも、大丈夫よ。言ったでしょう?こういうことには慣れてるって」
ゴウがルームミラー越しに、クインの顔を再び見つめたとき、クインと目が合った。
クインはゴウに、にっと笑いかけた。
「なぜ・・・慣れているんだ?」
思わずゴウの口から疑問がこぼれた。
クインは困ったような笑みを浮かべた。
「それは、私の才能とこの街のおかげ」
ゴウはその言葉の意味が理解できなかった。
「ねえ、ゴウはウォーキンシティは初めて?」
「ああ」
「じゃあこの街のこと全然知らないのね」
「この街のこと?」
クインは運転席に身を乗り出した。
「ゴウ、あなたは私がやっかいなことに巻き込まれた可哀想な女の子とでも思っているでしょ?」
ゴウは何も答えなかったが内心ではそう思っていた。
そんなゴウにクインは言葉を続ける。
「でもそんなこと私にとっては日常茶飯事みたいなもの。だってここは、世界最大の都市ウォーキンシティ。ここに住んでいる人間にはひとりひとり違った生き方がある。容姿も性格も誰ひとりとして同じ人間なんていない。もちろん私もそのひとり。そして誰もが主役なのよ。だから・・・」
クインの言葉が理解できないゴウは車を止めて、後部座席へと振り返った。
「だから何だ?何が言いたい?」
ゴウと目が合ったクインは再びにっと笑いかけた。
「私の愛すべき街、ウォーキンシティへようこそ」