Mr.Sの屋敷その4
「まあいい。君はこれからエレナが願いごとをする度に私に報告してくれ」
「エレナが・・・願う度に?」
「もし、君が報告しないというならば、私に対して害を与えようとしている願い事と判断して、エレナを全力で止める。どんな手を使っても」
クインはMr.Sの胸ぐらを掴む手に力がこもった。
「ゴウは人間じゃないのよ。いくらこの街で詐欺を働いてきたあんたでも敵わないに決まってる」
Mr.Sは驚いたように目を見開いてクインを見つめた。
「信じていないのに?」
その言葉にMr.Sの胸ぐらをつかむクインの手が弱まった。
全てを見透かされているような気持ちになったからだ。
「それにゴウは人間じゃないって言っても魔法が使えるわけでもなんでもないんだから」
そう言われたクインはちらりとゴウを見た。
ゴウは表情を変えずまっすぐにクインを見つめ返した。
Mr.Sは胸ぐらをつかまれたまま、そんなクインの耳元に顔を近づけた。
「私を止めることは誰にもできない」
そう囁いたMr.Sの顔は、無邪気な子供の顔でも、詐欺師の顔でもない。
全てを見通している顔、この人の前では何もできない、何一つ太刀打ちできない、そう思わせる顔をしていた。
クインは本能的にMr.Sの胸ぐらから手を離した。
そして自分の手が震えていることに気がついた。
(な、なんで)
クインはMr.Sの顔を見つめたが、またあの無邪気な笑顔に戻っていた。
それが尚更クインには怖かった。
「たのんだよ、クイン。自称エレナの友達さん」