Mr.Sの屋敷その3
Mr.Sはかつて、エレナの父親が勤めていた会社を潰した男だ。
それも真っ当な方法なんかではない。
それはそれは大掛かりな詐欺でエレナの父親の会社をはめたのだ。
そのことでエレナの父親は責任を問われ、会社を追い出された。
会社を追われたエレナの父親は復讐に囚われた。
自分をはめた人間を自分と同じような目、いや、それ以上にひどい目にあわせてやろうと考えていたのだ。
目には目を、歯には歯を、詐欺には詐欺を。
エレナの父親は詐欺師になった。
Mr.Sをはめるためだけに。
だが、Mr.Sの正体は世界一の詐欺師だったのだ。
それをエレナの父親は死んでから気づいたことだろう。
結局、彼はMr.Sに返り討ちに合い、警察に追われ、パトカーとカーチェイス中に事故に合って崖から落ちて死んでしまった。
間抜けな詐欺師のまま。
「何言ってんの?」
クインはようやくMr.Sに言葉を返せた気がした。
Mr.Sの顔からは笑みが消えた。
クインはMr.Sの顔を睨みつける。
「意味がわからないのよ。あんたはエレナへの罪を帳消しにしたい。なのに自分への危害を加える願いごとをしないかどうか監視しろって。そのうえ私に!エレナは私の友達なのよ」
「君はわかっていないね。私は自分がいちばん大切だ。だから自分に危害が加わるようなことは起こって欲しくない。エレナへの罪も帳消しにしたいが、私に危害を加えるようなら全力で阻止するよ。エレナを不幸にしてでもね」
クインは呆気にとられた。
Mr.Sの言葉は矛盾している。
エレナを救いたい一方で自分は一切傷つきたくないなど。
だが、子供のワガママにしか聞こえないその言葉にクインは寒気を感じた。
「だったらあいつに聞けばいいじゃない」
クインはゴウを指さした。
Mr.Sは、ゴウを見つめて言った。
「ゴウはエレナの願いごとを叶える。だからもし、エレナに口止めされていたら、真の願い主である私にも言わないだろう?」
Mr.Sは再びクインに微笑んだ。
「あいつはそういう奴だから」
それは無邪気な子供のような顔をやはりしていた。
「本当に馬鹿で単純だ。そんなこともわからないなんて」
発する言葉と顔は全く一致していないが。
「あんたねえ」
クインは、怒りに任せてMr.Sの胸ぐらをつかんだ。
「あんたはエレナのお父さんを殺した。その罪が帳消しになると思ってんの?しかもこんなやり方で」
「君は本当にエレナの友達?」
Mr.Sは、小さくため息をついた。