Mr.Sからの罪滅ぼしその2
リムジンの中は静かだった。
「あの、ゴウだったっけ?私の家の方向知らないわよね?」
「ああ」
「私の家はこの通りじゃなくて」
「少し寄り道をする」
「もう一つ向こうの・・・え?」
「少し寄り道をすると言ったんだ」
クインは固まってゴウを見つめた。
「寄り道って何よ?私家に帰りたいんだけど」
「すぐ終わる」
「ねえ、あなたはエレナ願いを叶えるんでしょ?だったら私を家まで送らないとだめなんじゃないの?」
「寄り道をするなとは言われていない」
(うん、まあ、そうなんだけども)
クインは大きなため息をついてシートにもたれた。
“あいつは、帳消しにしたいんだって。私への罪を”
(帳消しにねえ)
“Mr.S。あいつはそう名乗ったわ”
(Mr.Sか)
「おい」
唐突にゴウがクインに声をかけた。
「何?」
「お前、どこへ向かうのか気にならないのか?」
「別に。こういうことに巻き込まれるのは慣れてるし。そんなことより、私はまだあなたのこと信じたわけじゃ」
「じゃあどうして抵抗しない?」
あんたが言うか、という言葉が出かけたがクインは飲み込んだ。
「エレナを信じてるから。エレナがあなたを信用しているなら私も信じる」
その一言に納得したのか、ゴウはそれ以上何も聞いてこなかった。
外の景色はだんだんとクインの見慣れない景色へと変わっていく。
(にしてもどうやってこの街一番のバッグやリムジン、それに授業を中断させることができたのかしら)
「俺がどうやってエレナの願いごとを叶えたのか知りたいのか?」
クインは驚いて運転席を見つめた。
「私が考えていることわかったの?」
「エレナから聞いただろ?俺は人間じゃない」
「人間じゃないって言われても、どう見てもあなたはどこにでもいる男の人にしか見えないわ」
「見た目はな。ただ俺は人間と違って勘や運、そして身体能力が極限にまで冴え渡っている」
「それでエレナの願いを叶えてきたっていうの?」
「運が少し変わるだけで、時として欲しいものは簡単に手に入る。勘が冴え渡れば相手の思考が読めて自分の思うままに操れる」
「じゃあ運良く高級バッグとリムジンを手に入れて、思考を読んで校長を操ったってこと?」
「まあ、簡単に言えばそういうことだ。だから、たまに人間の考えていることがなんとなく分かるときがある。単純な人間なら尚更」
(私は単純ってことね)
クインは窓の外の次々と流れていく景色を見つめた。
「なんでMr.Sはあんな願いごとを・・・エレナのための願い」
「エレナへの罪を帳消しにしたい」
「エレナへの罪を帳消しにしたい」
思わずクインとゴウの声がハモった。
だが、クインはもう驚かない。
そして自分が今どこに連れて行かれているのかもなんとなくわかっていた。
「私はこれからMr.Sに会う。そうでしょ?エレナのお父さんを殺したMr.Sに」
「彼は殺しなんてしない。ただ、手違いで死に追いやってしまった」
「同じことじゃない」
その言葉にゴウは口を閉ざした。