表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

六作目 こんなはずじゃなかった!


 蛍光灯がちかちかと点滅を繰り返す。かつては栄えていたであろうビル群は植物に侵食され、一種のオブジェのようだ。

 東京・新宿ダンジョンは、文字通りのダンジョンと化したのだ。それは現在の日本であれば、どこに行こうとそうなっている。

 それに加えて、創作の世界でしか出ないような化け物――ゴブリンやオーガなどの人型から、東洋、西洋それぞれのドラゴンを目にすることもあった。災厄と恐れられるそれらに、現代兵器は通用しない。


「あのときは本当に、やっちまったなぁ……」


 上等な漆黒の法衣を纏い、いくつもの装飾品をつけている骸骨――初代統一王・コウこと綾辻あやつじ ひかるはつるつるの骸骨のでこを撫でる。

 ふと、あの時のことを脳内に浮かべた。

 あの時とは、そう。

 彼がこの地球に帰ってきたときのことだ。

 新宿ダンジョンの最奥部、ボスの間の様々な骨でできた玉座に座りながら、本来のボスに話しかける。


「なあ、お前もそう思うだろ?」


 前世界では一般的に、地獄の炎を自由自在に操り、人を恐怖に陥れていた獄炎の竜と呼ばれていた。紅蓮の鱗で体を覆う、体長二〇メートルはあろうかというドラゴンが体を震わせた。


「は、はい。まさに、その通りかと!」


「だよなぁ。世界統一して、隠居して千年ぐらい放浪して。転生する前にいた地球に帰る魔法を編み出してさ」


「……はい」


「実際に使ったら、あっちの世界とこっちの世界が融合するなんて思わないだろ?」


 失態だ。

 ゲームをプレイしていたら異世界にキャラクターとして土を踏み、帰ってこればゲームキャラのままで世界を融合させてしまった。

 挙句の果てに、骸骨だから人間と仲良くできない。


「どうしたもんかなぁ……」






 新宿ダンジョンを、油断なく前進する一団があった。

 全員が光り輝くような全身鎧と身に着け、杖や剣、槍など様々な武器を持っている。……一人を除いて。


「おい! 本当にいるんだろうな!?」


「はい! 智の結晶はこちらだと言っております!」


 その返答に、武器を持っていない唯一の二〇にも満たない人間――第六二代統一王の孫、レイセルは安心する。

 このよくわからない世界になってから、統一王は日本とかいう新興国家の相手をしているのだ。しかも相手は、科学という武器を持っているため、こちらと戦力が同等なのだとか。

 そこで統一王が考えたのが、初代統一王の帰還だった。

 統一国・バシュローゼ神聖帝国の歴史書では、初代統一王は圧倒的な力で瞬く間に世界を統一したとある。その力は神にさえ至るのではないかと言われたほど。


「国宝まで持ち出しているんだ。必ず、国に連れて行かねば。お爺様を、国を守って見せる」


 日本という国は、統一国民やその土地を日本に吸収すると言っているのだ。世界に冠たるバシュローゼ神聖帝国が、そんな要求をのめるはずがない。

 レイセルの祖父である統一王は、全面戦争になることさえ考えているらしい。


「最奥に到着しました」


 声をかけられ、考え事をしていたレイセルは顔を上げる。

 目の前には巨大な扉があり、凄まじい存在感と重みを感じさせた。


「開けろ」


「はっ!」


 一声かけ、部下に開けさせる。

 ここまでの道中、さすがは近衛兵というべきか、地獄の番犬や地獄の餓鬼といった強力な化け物を相手にしても、死者を出さずに来られた。


 ……が。


 やはり、レイセルには一つの疑問があった。

 魔法や文化は、常に進化する。初代統一王は千年も前の人物だ。当時の技術力は相応に低いと考えるべきであり、当時の圧倒的な力は、現代の一般的な力なのではないか。

 実際に会ってみなければわからない堂々巡りの疑問が、とうとう解消されるのだと。レイセルはあまり期待しすぎないよう、高揚を抑える。例え一般的な力だとしても、初代統一王は誰もが憧れる人物。ドキドキしながら、彼は開いて行く扉の先を見つめた。







 音を立てて少しずつ開いて行く扉を、コウは眺めていた。融合後二ヶ月、ここに攻略者が来るのは初めてのことだった。


「モンスターであれば狩れ。人間であれば、話し相手に連れて来い」


 彼はずっと、獄炎の竜としか話していなかった。ここに来て話し相手が増えるのは、とてもいいことだ。退屈でなくなるし、人間と話せるし。もしかしたら遊び道具も持っているかもしれない。


「かしこまりました!」


 獄炎の竜は脱兎の如く、扉までの距離五〇メートルを一秒かからず走破する。

 開いている途中の扉の動きが止まる。


「お、おい! 獄炎の竜だ! 隊列を組め!」


「待て! それが初代様かもしれないだろ!」


「しかしレイセル様! もし違えば、我々の被害は計り知れません!」


「……くそ。一度扉を閉じろ! 協議するぞ!」


 扉向こうから喚く人間の声が聞こえる。獄炎の竜は慌てて口を開く。


「主人が話し相手を所望している!」


 一度扉を閉められては、どれだけの時間がかかるかわからない。

 今も殺気を放たれている獄炎の竜としては、なんとしてでも連れて行きたかった。一人でも多く。


「おい、主人だってよ!」


「獄炎の竜の主人ってなんだよ聞いたことねぇよ!?」


「むしろ獄炎の竜が主人じゃねぇの!?」


「みんな、静まれ! ――獄炎の竜に問う。主人とは誰のことだ!」


 扉向こうでの騒がしさがなくなり、凛とした通る声の問いかけに、獄炎の竜は至極単純に答えた。


死の神(テゥランダイモーン)であるコウ様だ!」


 それを聞き、扉向こうはまたしても騒がしくなった。


「待てよおい! 死を司る神がなんでこんなところにいるんだよ!?」


「て、撤退しましょう!!」


「殿下! 撤退の許可を!!」


 早くそちらの話を終わらせて、こっちに来てくれ! と、背後からビンビン感じる殺気を受けながら思う獄炎の竜であった。







 扉を開けている最中に、おそらくボスであろう獄炎の竜が走ってくる。そんな恐ろしい事態に遭遇すれば、すぐに扉を閉じて逃げるか、討伐したくもなるだろう。

 レイセルにもそれはよくわかる。が、初代は人間ではなかったと言い伝えがある。だから二代目は養子だし、なんなら血の繋がりは皆無だ。


「死の神……」


 彼は呟く。

 圧倒的な力と、初代がこれまで生きながらえていることを踏まえて。

 超長命種であれば、ドラゴンが一番可能性としてはあった。だからレイセルは、獄炎の竜が初代かもしれないと思ったのだ。

 だが、死の神ならどうだ。

 歳をとることなく、姿形はそのままで、圧倒的な力もあり、人間ではない。

 ドラゴンと同じように、条件をクリアしている。


「これより、王子として、神帝の孫として、お前たちに最終任務を言い渡す」


 王位正当継承者であり、継承順位七位のレイセルが口を開いたことによって、場はシンと静まり返った。


「全員、国へ帰れ。これより先は、生きて帰ることができない可能性が著しく高い。相手は死の神であり、獄炎の竜までもがいる。先へ進むのは、俺一人でいい」


「そんなことはできません!」


 レイセルの宣言に、すぐさま反論する。


「ここで統一王陛下から言い渡された、殿下の守護を放棄するわけにはいきません。お供致します」


 全員が膝をつき、頭を垂れる。

 それを見て、くつくつと笑った。レイセルは懐から短刀を取り出し、胸の前で掲げた。


「わかった。みなの心意気、感謝する。では、覚悟を決めろ。喚くな。騒ぐな。――行くぞ」


 人一人通れる幅の扉を、レイセルが先頭に立って進む。

 扉をくぐり、開けた視界――ではなく、目の前には獄炎の竜。ここに統一王がいなければ、彼らは全員、死ぬ。







 やっと来たか! と歓喜し、獄炎の竜はその数を数える。およそ三〇人もいる……ということは、三〇日ほどは安心して眠ることができそうだ。

 ホッとして、思わず息を吹きかけそうになる。

 吐息が地獄の炎なため、慌てて顔を上に逸らした。こんなところで灰に変えるわけにはいかないのだ。



「よく来た。攻略者たちよ」


 コウは、思ってもいないことを言う。

 獄炎の竜が連れてきた人間、総勢三〇人を鑑定したところ、自分に関わりがあった。それはもう、とても。

 まさか子孫を見るとは思っていなかったが……彼は骸骨に浮かぶ瞳の光を集団の先頭に立つ、レイセルに向けた。


「で、俺の作った国の王子がこんなところまで、どうしたんだ?」


 瞬間――集団は歓喜に包まれた。来てよかったと涙を流し始め、先ほどまで恐怖で漏らしていた兵は、緊張の糸が切れてさらに濡らす量を増やしている。

 先頭に立つレイセルが、一歩前に出た。膝をつき、頭を垂れる。


「お初にお目にかかります。私は第六二代統一王の孫、レイセルと申します。この度は突然のご訪問、お許しください」


「許す。立て」


 コウは、面倒なことが置きそうだと思いながらレイセルを立たせた。人に頭を下げさせるというのは、気まずさがあった。


「現在、日本国と我がバシュローゼ神聖帝国は全面戦争の危機に陥っております。そのため、初代様の御力を貸していただきたく馳せ参じました」


 驚きに目を見張る。コウはそんなことになっているとは思わず、深いため息を吐いた。

 いっぽう、ため息を吐かれたレイセルは気が気ではない。彼は初代の言葉を待つ。


「……これも俺の責任、か。仕方ない」


 世界を融合させた後始末をしなければならない。

 それが、コウは自分の義務だと考えた。


「行こう。連れて行ってくれ」


 

第4回書き出し祭りで書いた作品の一つ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ