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三作目 神話の中の伝説の医師

 家から出て薬草採取や、新たな成分を持つ植物が生えていないかを確認しにきていたら、鬱蒼と木々が生い茂る森の中、静まり返っていた周囲一帯に響き渡る猛獣の声が轟いた。


「この声は……まさか」


 僕を守護してくれている、守護霊獣のメアリーだ。女の子の守護霊獣だけど、とても頼りになる友達。


「この森に侵入者……?」


 げん一族が代々住処としているこの森は、世界樹と言うらしい。僕はこの世界しか知らないから、よくわからない。

 だけど、世界樹の周囲一帯は、お父さんやお母さんによれば深い堀があるらしく、外の世界では世界の終焉と呼ばれているそうだ。

 それを越えてくるなんて……とても考えられない。

 一度家に戻った方がいいかな。


「メアリー……」


 メアリーは、この世界樹の中では一番若い幻獣だ。僕たち一族は生まれると、それに合わせて幻獣も出現する。

 世界樹にはいま、342人の幻一族と、342体の幻獣がいるのだ。


「でも……」


 いま、いいところ。

 滅多に来られない世界樹の端まで来て、ようやく見つけたヌルの花。

 この採取方法はとても難しい。

 だからゆっくり採取したかったのだけど……そんな時間、ないのかなぁ。


 ――アーヌ!


 メアリーの心の声。僕を呼ぶ声に気付き、パッと顔を上げる。


「うぅ……仕方ない、かぁ……」


 ヌルの花は諦めるしかないみたいだ。急いで採取しても使い物にならないし、このまま放っておこう。

 ……もしかしたら、誰かがここまで来るかもしれないし。


 ――いまから行くからね、メアリー。


 心で通じ合う僕たちは、どれだけ離れていても会話ができる。何があったのかを、これで言ってくれればいいのに……。


 僕は手に持っていた採取道具を魔封袋まふうたいに仕舞い込み、メアリーがいる方角へ歩き始めた。

 もう数千年もここに侵入者が来たことはないらしいのに、いま頃どういうことなんだろう?

 森の中を歩くと、自然と道ができる。だから僕たち幻一族は迷わない。けれど、外の世界にいる人は迷ってしまう。

 だから放っておいてもいいのだけど、そうも行かないのだろう。

 決して、面倒臭いとかではないのだ。


「メ〜ア〜リ〜〜〜」


 四半時歩き続けると、すぐそこにメアリーがいるところまでやってきた。

 メアリーのふさふさの真っ白な耳が見え、僕は駆ける。蔦や草木、根っこに足を引っ掛けたりはしない。障害は全て森が排除してくれる。


「メアリー!」


 ぽふっ、とその大きな体に飛び込むと、ふと様子がおかしいことに気付いた。


「どうしたの……?」


 と、顔を離して、6つの人影があることに気付く。

 顔をあげれば、そこには見たこともない真っ黒な髪をした、重そうな服を着た人が5人と、眩しいくらいに光を反射する服を着ている、銀色の髪をした人が1人いた。

 どちらも初めてみる服と髪の毛の色で、恐怖心で埋め尽くされていく。

 こんなにも怖いのは、初めて家から出て、世界樹を探検したとき以来だ。あのときはまだ13歳だった。

 だけど、いまは15歳。幻一族では一番若くても、もう一人前だとお祖父ちゃん(族長)には言われているし、メアリーがこの場にいる。

 そう思い、一度大きく深呼吸をした。

 その間相手はずっと、僕の至る所を見て、驚愕の表情をしている。


「あ、あの……どちら様ですか……?」


 もしここに、外の世界の人が来た場合。

 どこの誰かを尋ねなければいけないらしい。そして、世界樹の中に招き入れる。

 もし招かれざる客だったら、案内をしていても彼らは迷ってしまうと聞いている。


「あ、あぁ、すまない。私たちは……私は、サラビアット公国のシーリングという。この者らは私の護衛だ」


 ……シーリング、さん? 変わった名前だなぁ。

 1番変わった服と髪の毛をした人が一歩前に出て自己紹介をしてくれたから、僕もメアリーの前に出て胸を張った。


「えと、僕は幻一族のアーヌです。その、おじ……族長のところに案内しますね」


 これで大丈夫なはず……!

 胸がどきどきして、うるさい。

 体が強張って、嫌でも緊張していると実感させられた。


「幻一族……まさか、本当に……」


「シーリング様! これで、これで公爵は……!」


 ごえい、っていう人たちはなんだか、僕を見て涙を浮かべている。シーリング……様? と一緒に泣いているし、よくわからない。


「あの、それで、行きますね」


「ぁ、あぁ、そうだな。すまない。本当に、すまない。まさか本当に実在するとは思わなくてな……」


 よくわからないから、勝手に行こう。

 ……あ、メアリーのこと紹介してないや。まぁ、いっか。


 ――メアリー、帰ろ?


 ――もう、アーヌったら。


 紹介しなかったことを嘆いて、僕に鼻を押し付ける。

 くすぐったくて、おかしな声が漏れそうになるのを頑張って堪えていると、メアリーがくいっと顔を僕の股の間に入れた。


「あひゃっ」


 メアリーの体の上に落ち、声を出してしまう。もふもふだけど、突然でびっくりした。慌てて口を塞いで外の世界の人たちを見ると、微笑ましそうに僕を見ていた。

 ……僕はもう大人なのに。


 ――メアリーのばかっ。


 ――ふーん。アーヌが私のことを紹介しなかったから悪いんだからね!


 メアリーが素知らぬ顔で歩いていくと、森の中に道ができる。僕たち幻一族と共に生きる幻獣が歩いても、森の中には道ができるのだ。


「これは……」


「俺らじゃ入ることすらできなかったってーのに」


 入ることもできなかった……?

 ……入れてもよかったのかな。いまさらながら不安になってきたよぉ……。



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