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二作目 ゴミ溜めで生まれた神話の英雄譚

 カチ、カチ、とクリックして、画面に映るアバターを操作する。

 腰まで伸びる燃えるような赤髪に若干つり目の紅の瞳。痩せすぎず太りすぎず、しかしちょっとだけぽっちゃりでDカップという設定を付加した女の子のキャラクターだ。

 名前はファルヴ。

 職業クラスは最高位の火魔導師で、称号は12使徒と言う、このマジック・ザ・ワールドのゲーム内でトップ12に入る実力者というものだ。

 これは序列12位まであり、僕は4位。上位3位に入ろうと思うととてつもない課金要素が絡んでくるから、微課金勢の僕は運が良くて4位が最高となる。

 とはいえ、ゲーム内プレイヤー数十万人の中で4位というのは凄まじいレベルと言える。


「でも、今日で終わりなんだよなー」


 そう、18年続いたこのタイトルも、遂に終わりを迎えるのだ。

 僕は自分で立ち上げたギルドの施設内にある神の間で、椅子に座ってその時を待った。

 メンバーは最大人数の99人いたものの、今では誰もログインしていない。

 もうとっくの前に引退してしまった人たちだ。

 僕も3年ぶりにログインするほど、このゲームから離れているのだが。

 だから操作が覚束ない。クリックして「あれ? 違ったっけ……」なんてザラにある。

 というわけで、このゲームの現在のプレイ人口は数千人にも満たない。

 たまたま仕事が休みになったのと、サービス終了時刻が就寝時という偶然があったから僕もログインできただけ。


 もう、このゲームはできないんだよなぁ……。


 感慨深いものが込み上げてくる。

 ギルメンたちと一緒にクリアした最高難易度ダンジョンなんてのは、どうしようもなく鬼畜仕様だった。

 けど、クリアした時の報酬も大きかった。

 それは、次に死亡扱いになった時、復活時に転生ボーナスを取得できるというもの。

 その転生ボーナスは能力値はそのままで人外になれるというものだ。もちろん、使用するかどうかの選択も出てくるから、人外にならない人も多かった。

 ただ僕のギルドではほとんどが人外を選び、最終的に火魔導師を極めてしまった僕だけ、人間の姿をしているのだ。

 火魔導師を極めると「不死鳥の呪い」というものを得られる。それは、死亡扱いになった瞬間、HPが全回復するとかいうチート。

 おかげさまで死ぬことのできないアバターになってしまった。

 ゲームバランスの崩壊を感じるのはこれだけではないのだけども。


「あと1分か……。もはや祭りだなこれ」


 ゲーム内の全サーバー統一全体チャットを見てみると、ただのお祭り騒ぎになっていた。ところどころで出会い厨が沸いていたりもするし、最後だからとゴールド(ゲーム内通貨)を全損したり、アイテムを全て破棄したりと様々だ。



 〔ファルヴ:やあ。下々の諸君〕


 全サーバー統一全体チャットにてそう告げる。

 瞬間、チャットが湧いた。


 〔ベル:!?〕

 〔シズ:!?〕

 〔わっしょい:神話キタ━━━(Д゜(○=(゜∀゜)=○)Д゜)━━━!!〕

 〔アタランテぃす:誰こいつ??〕

 〔わっしょい:このファルヴってのは神話に出てくる神だぜ〕


 3年前、僕が引退する前に運営から一つ、依頼を受けた。


 その内容とは、ゲーム内に新しい神話を実装するからモデルにしてもいいか、とのことだった。

 名前は公開せず、名前のわかっていない神として神話が作られたのだけど、親しい人からその話が漏れてしまい、当時どうしようもなく炎上した。

 そして、僕はやめたのだ。このゲームを。


「懐かしいなぁ」


 僕は不死だ。

 それ故に、神としての依頼がきたのだろう。


 そうこうチャットが進んでいるうちに、あと10秒になった。

 そこからはもう、カウントダウンが始まった。


 10


 9


 8


 7


 6


 5


 4


 3


 2


 1


 ……0。




 サーバーが落ちて接続が切れる。

 そう考えていた僕は、どうやら間違えていたらしい。


 落ちたのは僕の意識だった。



  *  *  *  *  *  *  *


 

 なんだ……?

 何か、体が重い。

 思うように動かせない。

 手足が……ないように感じる。

 目を開けた。

 すると、何も映らなかった。いや、目を開けることすらできなかった。

 そもそも、目がないような感覚。

 手も足もなく、目もなく、一体なんなんだと。

 僕は不安と恐怖で体が震えた。

 体は、ぷるぷると震えた。ぷるん、と。

 まるでそれは、プリンのように、ぷっちんした時のように。


 ……!?


 体がそう震えるほど、僕は太っていない。むしろガリガリだ。やや痩せているとかいうレベルではなく、痩せているレベルなのだ。

 ゆえに、震えるだけの肉がない……。


 と、そこに、コツ、コツ、と足音が聞こえてきた。


「今日はこっから壁までの範囲だ。頼んだぞ」


「ああ、わかった。任せておけ」


 男二人の声が聞こえたかと思えば、すぐに続けて聞こえてくる。


「『ファイアーウェイブ』」


 瞬間、何かが迫ってくる気配があった。

 それが何かはわからない。でも、確かに何かが放たれた。


「お〜燃えてる燃えてる。廃棄スライムを燃やすだけでいいなんてな。こんな楽な仕事、他にないぜ?」


「いや、この臭さがどうにかなれば一番いいんだがな……」


「そりゃ俺には関係ねぇな。熱で臭い消してるからよ」


「なに!?」


 ……待て。

 今、聞き捨てならない単語が聞こえた気がする。


 廃棄スライム。


 それは確か、マジック・ザ・ワールドの中では下水処理場に居たはずだ。下水処理ができなくなったスライム、又は近日中にできなくなるであろうスライムをそう呼ぶ。


 ……え? マジで?


 僕って今、スライムなのか?


「おい、一体残ってるぞ」


「あ? そんなはず……本当だ」


 一体……残っている……?

 それって僕か? 特に熱なんて感じなかったんだけど……。


「威力高めで行くか。『トロピカルファイア』」


 ……待て待て待て。


 そういえば、さっきはファイアーウェイブと言っていた。今回はトロピカルファイアだと?


 まるっきり、マジック・ザ・ワールドじゃないか。

 確かにトロファイのほうが威力は高い。波は初級広範囲魔法であって、それこそ足止めかスライム駆逐にしか使えないからな。

 トロファイは中級単体撃滅魔法に属する。

 今魔法使ってるやつは少なくとも、中級クラスということになる。


「……おい」


「わかってるさ。俺の最上級魔法で駆逐するしかねぇ。万が一燃え広がっても、その時のためのお前だからな」


「その通りだ。全力で行け」


「『悪鬼の炎』」


 あ、知ってる。

 この魔法知ってる。

 上級単体撃滅魔法の一つだ。とはいえ、中級に毛が生えた程度。レベル帯で表すと46〜50レベルの人がよく使うことになる魔法だ。

 レベル100まであるあのゲームだと、まさに中級者だな、こいつは。


「燃えないんだが」


 なんか、いろいろ思い出してきた。

 昔の知識が呼び起こされる。

 廃棄スライムを消滅させられるのは火魔法だけ。ほかの攻撃はすべてスライムボディという特性に弾かれる。

 つまり、火魔法が効かなければ殺すことはできない。

 いわゆる不死身状態だ。


「どうする……? 俺以上に火魔法使えるやつなんていねぇぞ?」


「いや、元々ファイアーウェイブで死なないことかおかしいだろ……。とりあえず上に報告だ」


「戻るか」


 二人の気配が遠ざかっていき、辺りに漂っていた緊張が霧散する。


 もしかしたら、その火魔法が効かないスライムというのは僕かもしれない。

 二つ、心当たりがあるのだ。


 それは、不死鳥の呪い。


 HPが全損する攻撃を受けたら、HPが全回復するというもの。

 廃棄スライムのHPは3しかないことから、まず確実だろう。


 もう一つは、火魔導師という職業。


 火魔導師になった時点で、火属性攻撃をほぼ無効化できるのだ。

 ある一定以上の攻撃でなければ、その攻撃は通らない。

 そう、『悪鬼の炎』の次に取得できる魔法から、ダメージを与えられる。


 ……運が良かったのか?


 いや、こんな世界にスライムとしていきている以上……スライム……スライムは人、外……?




 うっそだろお前……。


 けど、たった一つを除いて、ほかのすべてに合点がいった。

 まず僕は、どうやら死んだらしい。

 僕というか、あのアバターが、だ。

 サーバーとともにアバターが死に、なぜか復活を遂げた。スライムという人外に転生し、僕は以前の火魔導師の職業とステータスを継いだ状態になったのだ。

 そしてなぜか、復活は現実の僕をも巻き込んだ。


 そう考えるのがもっとも自然で、一番納得のいく答えだった。


 ……思い出せ。この世界でのスライムの立ち位置を。


 一生こんなところで過ごすなんてありえない。

 どうせ最強のステータスで転生したのだ。絶対に抜け出して、この世界を漫遊しないと気が済まない。


 あいつらが戻って来る前に、現状を把握して脱出しないと……。


 このマジック・ザ・ワールドにおけるスライムとは、半分モンスターだ。

 でも、安全圏を出た先で出会うことはまずない。

 安全圏内の町とかでしか、出てこないのだ。それも、初期のクエストでしか。

 しかも火属性魔法を習得していない人にはまったく関係がない。

 その点僕は火魔導師だから、物凄く関係がある。知っているところでよかったと言うべきか。

 スライムは町の地下に生息し、特殊な体を用いて廃棄物を一手に受けている。

 排泄物から人の死体や、食べカス。

 ほかにも、必要のなくなった生活品や、消耗品。すべての廃棄物が集まって来る。それを食物にして、スライムは生きていた。

 定められた限界量に達した場合のために、予め間引く。そして新しいスライムを生み出して行くのだ。


 ……僕は今、限界量に達したスライムということか。


 それにしても、話すこともできず、五感を感じることがほぼ封じられている状態はストレスが溜まる。

 人の話す言葉が聞き取れるのは幸いだった。どうやらほかの五感は死んでいるけど。


 まずは体を動かして脱出するところから。


 そう考え直し、僕は体をくねくねする。


 ……今ってどこを向いてるんだろう?


 いや、本当に。まったくわからない。

 現状の把握はだいたいできた。でも、現在の場所や出口など、まったくわからない。

 動き方は、考えながらもぞもぞすることでなんとなくわかってきたけど、それでも素早さ1は伊達じゃない。


 スライムの詳しいステータスは、こうだ。


 HP:3

 MP:3

 ATK:1

 DEX:2

 AGI:1

 INT:1

 LUK:2


 はっきり言って、世界最弱モンスター。




 ……どうしようかなぁ。


 困った。困ったよ。この状況、どうやって打開しよう?


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