06:放課後の演習場
演習場での出来事から数時間経ち、昼過ぎの今ではクラスの教室で放課後を迎えていた。
入学日には昼前にオリエンテーションのみだったようだ。
まさかオリエンテーションでいきなり実践をやるとは思わなかったが…
放課後を迎えて帰り支度をしていた俺は後ろから声をかけられた。
「い、イナロセ=ユウスエイくんだよね?」
振り向くとそこには顔立ちの整った綺麗な子がいた。
「え?そうだけど、えーっと君は?」
「あ、僕はフィン=ルーン。イナロセくんて呼んでもいいかな?」
ん?この子僕って言ってたな。男だったのか。
結構可愛いのに、人は見かけによらずって感じだな。
それにしても、そんなキラキラしたその顔で言われたら頷くほかあるまい。
「ああ、これからよろしく。」
そう言って手を差し出すとフィン=ルーンくんもより一層キラキラした笑顔で俺の手を取って握手した。
「うん!よろしく!僕のことはフィンって呼んでよ。」
「分かった、フィンよろしくな。」
聖アストリア魔法学園での友達第1号が出来た。フィンくん仲良くしよう。
そして家の事や、今日のことなどを話していた。
(これだよこれ。学園生活ってこうでなきゃな。)
心の中でそう思っていると、シーラがやってきた。
「イナロセくん。放課後演習場で魔法練習しないかしら?あら、新しいお友達?私はシーラよ、よろしくね。」
シーラの言い方からして、どうやら放課後などは演習場などを使ってもいいということか。
「あ、ぼ、僕はフィン=ルーンて言います。」
フィンはシーラ相手にしどろもどろになりながら返事をした。
ふむ、フィンは対話が苦手なようだ。まあ初めて会う人ばかりだし気持ちがわからんでもないが。
それはそうと練習か…まあ時間あるそのくらいなら付き合っても大丈夫そうだな。
「ああ、いいよ。」
「よろしくフィンくん。では演習場へ行きましょうか。」
俺ら3人は演習場へと足を運んだ。
演習場へ向かっている時、やたらシーラがピッタリくっついて歩いてくる。
なんだろうと視線を送るとシーラもこちらを見ていて、目が合うとぷいっと逸らされた。一体なんなんだ。
「もしかして、イナロセくんとシーラさんって付き合ってるの?」
「いや、全く。」
「ば、馬鹿じゃないの。そそ、そんなわけ無いでしょ。……さっき戦ってる時はちょっとかっこいいかもと思ったけど。」
シーラは顔を赤くしながら最後らへんごにょごにょ言っていたが、気にしない方がいいだろう。
しかしフィンはなぜそんなことを思ったんだろうか。
そんな疑問にフィンは答えた。
「今日教室に入ってきた時も二人一緒だったし、仲もいいしそうも思ったんだよ。」
たしかにシーラとは朝の受付から一緒にいる気がする。
そんなこんな話してるうちに演習場へと着いた。
さっきの会話からシーラが顔を赤くして俯いていて全然話してないが、おかげと言っていいかわからんがフィンの話を聞けて仲良くなれた。
既に広い演習場で所々に練習をしている新入生が見かけられる。
上級生達は今日は休みなのでいるのは同い年だけだ。
「で、何するんだ?」
「何って魔法の練習よ。それや、反魔法の実践等よ。イナロセくんに私の練習相手になってもらうからね。じゃあ模擬戦では消化不良だったから、私の魔法を防いでみてよ。」
「わかった。」
そしてシーラと距離をとって魔法戦を始めた。
「魔法の制限はどうするかしら?」
「よく分からんからシーラに任せるよ。」
「わかったわ、行くわよ。まずは小手調べから、ファイヤーランス」
炎が集束きていき、槍の形に形作られた。
そして周りを燃やしながらこちらに向かってきた。
ラーナ先生は反魔法で防いでいたが、俺にはそんな魔法が使えない。
魔力を出して防ぐだけだ。
あ、攻撃の時みたいに一応魔法っぽく単詠唱しとかなきゃな。
「まりょくウォール」
魔力で俺の前壁を作ると、そこにファイヤーランスがぶつかった。
「やっぱり、防御の時も魔法陣が見えないのね。まだまだレベルを上げれそうね。ライトニングクロウ」
入学試験でユリ=ヴァンハンという少女の使っていた技だ。
鋭い爪をかたどった雷、喰らえば致命傷になるその攻撃も俺は魔力を使って防ぐ。
「まりょくウォール」
「!?さっきと同じ単詠唱のみで上級魔法を防いだですって。」
「お、おいあいつ。上級魔法を防ぎやがったぞ。」
「しかも魔法なのかあれ。」
「魔法陣すら見えない。まだ隠蔽魔法を使う余裕があるということかよ。」
いつの間にか観客も集まってきて俺たちの魔法戦を観戦していた。
「ふっ、上級魔法2つならどうですか。ライトニングスピア、アイスジャベリン」
「上級魔法をマルチでの攻撃だと!?」
「あいつ終わったな。」
「あの子可愛いな。」
観衆の反応から見てシーラは相当凄いことをしているらしい。
(ふむ、それなら同じ単詠唱だとなんかカッコつかないか。よし!ここはなんか違うことを言おう。)
そんなことを考えているうちに向かってくる攻撃は待ってくれず、カッコいい詠唱を考えるまもなく詠唱をそれっぽく言った。
「魔力障壁」
ごく普通のありきたりだ。
観衆の方をちらっと見るとあんまり反応が芳しくない。
みんなほうけたような目でこちらを見ている。
(うっ。だっていきなり思いつかないんだから仕方ないじゃん。)
そんなことを考えていたが観衆の反応は違った。
「あいつ、上級魔法2つを同時に防いだだと…」
「なんなんだあいつ。」
「あの子の攻撃可愛かったなぁ。」
(ん?なんか防いだだけで凄い驚かれてるような。)
「あ、あなた、一体どうやって防いだのよ。」
シーラが目を開いて聞いてくる。
そんなに不思議なことをしていないんだが、ありのまま答えるしかあるまい。
「魔力だしてだけど。」
「な、なるほどね。大量の魔力消費と引き換えに防いだってことね。」
「いや、違うんだけど。てか、もっと強いの撃ってきても大丈夫だぞ。」
ピキっ
俺がそう言うとシーラの様子が変わった。
なんというか怒っているような感じだ。それもものすごく。
「へぇ、私の最大攻撃じゃ練習にもならないってこと。」
「いや、そうとは言ってないけど。」
「いいわ。見せてあげる。これ以上ない最強の魔法をね。」
凄いオーラを放ちながらシーラは言った。
周りの魔力がシーラに集まっていってるのが分かる。
この感じ入学試験の時のシーラの魔法と同じ感じがする。
「喰らわせてあげるわ。最上級魔法をね。」