『ごめん』の3音
突然始まるしオチが無い。
また性懲りもなく百合です。
貴女の、すぐに謝る。そんな所が、ちょっと困るけど大好き。
不機嫌なふりをすれば何時も其方から『ごめん』って。
少し悲しそうな、少しさみしそうな。そんな瞳で『ごめん』なんて言われたら許すしか無いでしょ?
とかなんとか。締切の迫っている真っ白な原稿を見ながら、現実逃避をするように考える。アイデアが浮かばない事にストレスを感じればふと、意識の外から声が降ってきた。
「…ねぇ。何書いてるの、」
こてん、という言葉がお似合いな位に首を傾げる貴女。気の利いた言葉でも掛けてやれれば良かったのだが、生憎と私の口は虚勢しか張れなくて。
「まだ全然思い付いてないんだけど。」
結局冷たくあしらって挙句の果てには顔逸らして。あーあ、また好感度下がるよ。こんなんだから私には恋人は愚か友達すら出来ないんだろうな。再度はぁと溜息をついたその時。ふわりと貴女が抱き締めてきた。そんな行動にすら、私は無駄に悪態をついてしまう。
「…なんだよ。私は抱き枕じゃないっての。」
…ほら。またそんな顔して。寂しそうに眉下げて。少しだけ悲しそうな目をして。それで次に出てくる言葉は、そう。
『ごめん』
貴女は悪くないのに、何ですぐ謝るの?悪くないのに。
ぐるぐると思考回路を忙しなく働かせていると、貴女は
「あはは。邪魔してごめ、…」
好きだけど、嫌いなその言葉。
『ごめん』
その3音を発させないと言わんばかりに、思わず私は貴女の唇を奪った。その刹那、私は得も言われぬ感覚に襲われた。
嗚呼、癖になりそう。
「ねぇ、×××××××__。」
私は彼女に囁いた。
どんな言葉だったかは、もう思い出せないけど。
「…暇だなぁ」
昔とは大違いである。原稿に追われに追われ。パートナーの相手もろくにしないでひたすら原稿に向かって。でも今は、追ってくる原稿もない。
でも不思議だ。
昔は、ずっといっしょだった温もりが。今は無い。
「…ねぇ、あんたさ。私を放って何してんの。」
『寂しいじゃん。』その言葉は、音にならずに肺に消えた。
「…で、さ。何で連絡寄越してこなくなった訳。何。私の事嫌いにでもなったの。」
行きつけのカフェ。そこで好きな珈琲を啜りながら、目の前の貴女に問う。
「そんッ、なわ、け…」
「じゃあ何で。」
我ながら酷い奴だと思う。過去に1度見放した癖に、自分が見放されたらこうもしつこく追求する。エゴの塊だな、ホント。
「…まあ仕方ないか。私なんてエゴの塊だし。…嗚呼、もしかして『また捨てられるんじゃ』とか思った?」
「ッッ、!」
……嗚呼、そんな怯えた目をしないで。捨てられた子犬の様な目をしないでよ。まあ、そんな貴女も大好きなんだけどさ。
「安心してよ。捨てる訳ないでしょ。私はもうあんたっていう温もりを知っちゃったんだから。離れたくても離れられないの。一蓮托生ってやつ?」
「…貴女は、私と離れたいの。」
ほら、そんな顔しないで。泣かないで。
私は貴女を本当に愛しているし、離れたいだなんて思ってない。
「…なわけ。離れたかったら今頃こうして膝突き合わせて話してないでしょ。…ね。だからそんな事言わないでよ。」
私は組んでいた脚を元に戻し立ち上がる。貴女の隣に腰掛けては、笑顔でこう言う。
「わたしにはあなたがいなきゃだめなの」
異論は認めない。とでも言うかの如く、私は貴女に噛み付くようにキスをした。
珈琲の匂いが、私達の鼻腔を擽った。
何だか懐かしい気がした。




