第7話 厨二病の痛い男子との邂逅。 絶対終わるって!編
「コレハアアアアアアアアアアア!!!」
ブシャー!!
帝魔王の鼻から大量に赤色の液体が流れ出す。
どうやらあまりに興奮しすぎて鼻血が出てしまったのだろう。
そんなに私の絵がエロかったか?
私は美術少女であって、色んな絵を描けるけど、エロマンガの先生じゃない。
エロい絵や萌え絵は一応描けるが専門じゃない。
私は絵、イラスト、そのものを描くのが得意だから。
「そ...そんなに私の絵がエロかったんですか?」
私は自分で自分をエロイって言うのが恥ずかしくて、少し焦った声で帝魔王に言った。
「モチロンダ!! コレハスバラシイ! エロノタマシイダ!」
「あ......ありがとうございます」
褒められても恥ずかしさのせいで正直半分しか喜べなかった。
だって、私のありのままのエロ絵がガン見されているのだから。
なんだか少し怒れてきそう。
「お父さん! 何やってんの!」
10代中盤の女の子の声が、後ろから聞こえた。
そして、女の子は、帝魔王のところへ走った。
女の子は、黒髪ロングで、中学生か高校生くらいの子だった。
「またこんな如何わしいものばかり見て......気持ち悪いにも限度があるわよ!」
「まあまあ、花奏、落ち着けって」
......あれ?
帝魔王が普通に喋ってる?
どういうことなの?
「どういうことなんです?」
魔王が先に帝魔王に問いかける。
「え?どういうことって?」
「どうして魔王語じゃないんですか?」
「え、だって演技するの疲れたし」
「え...」
私も魔王も呆然としてた。
「ていうかこの左にいる方は?」
「あ、ああ、この子は、沙邏っていう地球人なんだよ。 お父さんが招待させたんだ」
この子、えっと...楓だっけ?奏だっけ...?
あ、そうだ思い出した。
花奏だ。
花奏ちゃんって、帝魔王の娘さんなのかしら。
ってことは奥さんもいるのかな。
「私です」
私は手を挙げ、花奏ちゃんの方を向いた。
「あ、あなたが沙邏さん?」
私は頷いた。
「ごめんね、お父さんが気持ち悪くて...この人いつもエロい絵を見て興奮してる典型的なキモオヤジよ」
「失礼な奴だなぁ、お前も見たくないか?」
帝魔王は、呪文を指で唱えた。
するとたくさんのエロ本が降ってきた。
ぽとぽとぽと......
すると、花奏ちゃんはそっぽを向いてしまった。
「ふん! 見たくないわよこんなもの! こんな如何わしいものばっかり見てたら私にまで被害が及びそうじゃない!」
「例えばなんだ?」
「性虐待とかよ!」
「するわけないじゃん!」
「信用できるか!!」
やばい、私たち置き去りだ。
漠然と見るしかなかった。
「あ、このイラストは、沙邏が描いたんだ」
「え?」
花奏ちゃんは私の方へ近づく。
「ねえ、これって沙邏さんが描いたの?」
私は数秒黙り込む。
しかし、覚悟を決めた。
「うん、私が描いたの」
「マジでー!?」
「マジ」
マジでまじまじで恥ずかしい。
恥ずかしいって表現しかできないのは、語彙力がないからなの、ごめんね。
「てか、さっきから魔王黙ってるけど、どうしたの?」
私は、ずっと黙ってる魔王に話しかけてみた。
「......別に」
「?」
「あ、魔王さんはいつもそうなの。 お父さんがいるときは、基本、大人しいのよ」
「そうなんだ、厨二病だと思ってたのに」
「一応厨二病なのよ」
「......」
魔王は喋らない。
なんか意味がありそうだけど、興味がなかったので無視した。
「沙邏」
「やっと喋ったわね、どうしたの?」
私はつい本音が出てしまった。
無口な魔王なんてつまんないし。
事情は興味ないけど、現状がこうだとつまらない。
「そろそろ帰ろう。 この世界と地球の時間は共有。 そして、今の時間はそろそろ昼休みが終わる時間だ」
「あ、そうなんだ...ってやばいじゃん! 急がなきゃ! 急いで術式唱えてよ!」
「あ、大丈夫だよ、沙邏さん! この世界では地球の頃みたいな術式はしなくていいんだよ!」
「どうして?」
「だって、ここは魔法の術式を飛ばせる魔法の壺があるのよ」
なんかすごいな。
そんな魔法のアイテムがあるなら、なんで地球にはないんだろう。
異世界へ行ったり着たりするのが、メンドくさくなるだけじゃん。
まあそこんとこはよくわからないけど.....
いずれわかるかな。
「じゃあ早速その魔法の壺を出してあげるね」
花奏ちゃんは、指で魔法を唱えた。
すると、魔法の壺が、現れた。
物を移動させる魔法は、お手軽なんだね。
地球にも欲しいよ。
「さあ、この壺に、唱えたい魔法を言ってみて!」
「地球の、トウサという街にあるトウサ学校へ転送して!」
「手を繋げ、一緒に行くんだろ」
魔王は、私に手を繋がすよう促した。
どうやら手を繋げば一緒に行けるらしい。
ああ、だから異世界にも同時に行けたのか。
そう考えてるうちに、転送の光は強くなっていく。
「またね、沙邏さん」
「じゃあね、花奏ちゃん」
「バイバーイ、沙邏ちゃん!ちゅ♡」
バチーン!!
って音が聞こえたような気がしたけど、気のせいかな。
花奏ちゃんがやったのかな?
まあいいや、なんか今日は疲れたな。
そして、私と魔王は完全に光に飲まれ、元の世界へ帰還した。
「はぁ...疲れたなぁ」
私はため息をついた。
花奏ちゃん可愛かったなあ。
あんないい子のお父さんがあんな変態じゃあ、苦労するだろうなあ。
また会いたいなぁ。
「さあ、戻るぞ、時間がない」
「あ、もうこんな時間だ!!行かなきゃ! 魔王!」
再びダッシュした。
「黒木 魔王くんと亜瀬 沙邏さんがいなくなりました。 これより、捜索を開始します。 生徒の皆さんも、二人の生徒を見つけたら、先生に伝えてください。 お願いします」
学校の職員がどんどん動き始める。
私と魔王は、それを気にせず、教室へ入った。
ーーなんて人騒がせな二人だ。
問題を殆ど起こさない学校。
そのほとんどに含まれていない二人なのである。
「ただいまー」
「只今帰着した」
教室は世界を変えた。
世界は教師を変えた。
生徒は教師を変えた。
「もう! どこ行ってたの!」
未奈ちゃんが、怒りながらこっちに来た。
そりゃあそうだよね、ずっといなかったんだもん。
怒ってしょうがないよ。
「ああ、ちょっとね」
「全然ちょっとじゃないよ!」
ガラーン。
先生が教室へ戻ってきた。
「みんな、二人は見つかりましたか?」
すると、教室の生徒全員は、魔王と私に指をさした。
「おい......お前ら二人......いままでどこへ行ってたんですか?」
早多義先生がブチギレてる......
普段は温厚だけど、怒ると怖いって評判の...先生が...怒ってる!!
「魔王帝国まで行ってきたんだが、なにか?」
「ふざけるな!!!」
ドンっ!!
先生が壁を殴った。
私たちは、20分も怒られた。
ーー当然である。 自業自得である。
だが、よく考えてみると、沙邏は悪くないのかもしれない。
何故なら、沙邏は魔王に無理やり拉致られたからである。
可哀想な沙邏。 一体どうすればいいのやら。
でも、拒否しなかったんだから変わらない。
同罪の罪を浴びせられるに等しい。
私と魔王は、廊下に立たされた。
「ねえ、魔王」
「どうした?」
「こうして一緒にいると、恋人みたいで嫌だね」
魔王は、顔を上げた。
そして、しばらく黙った後、ボソッと言った。
「ああ、なんか嫌だな」
「あのさあ、私、巻き添えで廊下に立たされてるような気がするけど、どうして?」
「俺がお前を拉致ったからだろ、すまないな、お前まで巻き込んで」
「別にいいわよ、そのかわり、今度の土曜日に一緒に行きたいところがあるから、来てくれない?」
「わかった」
「......ありがとう」
私は、静かに微笑んだ。
ありがとう。
嬉しい気持ちが心を温かくする。
私と魔王はずっと廊下の空気を吸っていた。
おんなじ空気を吸えることも...悪くないわ。
開いた窓から風の音が吹く。
その風は、五月とは思えないほど寒かった。
でも、なぜか苦痛ではなかった。
どうしてなんだろう?
ーーその答えがわかるのは、だいぶ先の話だ。
沙邏と魔王は先のことを考えることはなかった。
今のこの寒い五月を大切にしたいと
思っているからだ。
思ってしまったんだ。
厨二病の痛い男子との邂逅。 おしまい