第61話 〜逃避〜 同情なんか欲しくない
「犠牲者数、500人、私の学校での死者は
数名、行方不明者は15名...
それでしばらくは学校お休みか」
ちょうどいい、私はもう何もしたくないし。
未奈ちゃんも魔王もいない学校なんて
行ったって何になるって言うのよ。
朝、私は生きた心地がしなかった。
外はこんなに晴れているのに。
私の中には暗闇しかない。
当たり前じゃないか、だって
私の大切な物を奪われて
たくさんのものが失われた。
そんな中で晴れて生きる頃なんて誰ができるか。
私の夢、絵を描き続けることだって
今の私にそんな気力はない。
「魔王は今、何をしているのだろう...」
私を裏切った魔王。
でも、それを信じられるわけない。
なにか、悪い夢でも見ているのではないか。
私は現実感のない現実に苦しみを覚えている。
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争いの嵐が消え、魔王と水陽はある場所へいる。
「ここはどこだ」
「覚えてないのも無理ないでしょうね、あなたのお父様が経営していた会社の後に建てられた会社です」
父親の黒木、の社長の名が刻まれていた。
母親殺しで、人殺しの父親の社だ。
「MKKとなったあなたが今日からこの会社を継ぐんです、世界を手中に収めるために、戦闘用の武器を作る大企業の社長にあなたはなるんですよ」
「...どうして俺がこんなことしないといけないんだ」
「私があなたの潰された会社を再建させたんですよ、今は水陽である私が社長ですけど、これからはあなたに任せたいと思っているんです」
魔力の力が秘められたミサイル。
マナを使い、あらゆる物体を壊す兵器。
これら全てを利用し、利益にして資本とする。
魔王は水陽の跡取りになってくれと言っているようだ。
「あなたが社長になればこの会社の利益を大量に得ることができるんですよ、つまり、あなたの両親が出来なかったことも、財力の力で見返すことも、仇を打つこともできるんです」
「そして...」
「私と結婚してください、私があなたに跨がって、あなたは会社を支える、それは素晴らしいことです」
社内にはたくさんの金が転がっていた。
何千、何億の金。
異世界の金。
現世界で換算したら何十億単位の価値がある。
そんな金をMKKとなった魔王は手に入れる権利がある。
水陽はそう言っているのだ。
「俺を金で洗脳させるつもりなのか...?
俺は沙羅を助けるためにMKKになったにすぎない
だからお前と一緒に会社を継ぐわけには...」
「はあ...じゃあ死んでいった両親はどうするんですか
金があればなんでもできます
権力も握ることができるんですよ」
水陽は大量の札束を魔王へ見せつけ、誘惑させる。
「...もう少し時間をくれ、俺にはこんな任は重すぎるんだよ」
「わかりました、すぐに決めてくれとは言いませんよ
でも、今夜も私と一緒に寝てくれますよね」
「わかってるよ」
夜、魔王と水陽は同じベッドで寝た。
抱き合って眠った。
水陽の住まう高いタワーの部屋で。
しかし魔王には罪悪感が残っていた。
沙羅のためとはいえ、水陽の身体に魅了され
興奮し、快楽に浸る自分を嫌悪していた。
そして、金の力に誘惑されそうになったことも。
沙羅を捨てて、水陽とともに寝る。
水陽の体温に触れ、柔らかい肌を感じ
魔王の心は衝動と快楽に浸っていく。
「...魔王さん、素敵ですよ」
水陽は顔を照らし、魔王の頬を口に当てる。
「勘違いするな、俺は沙羅の...」
「いい加減、沙羅さんとは
決別したらどうなんですか?
もう、あの人は関係ないはずでしょ」
「違う、俺は金にも快楽にも支配されない
俺は沙羅を守るために...」
「だったら、なんで私を見てあんなに感じてるんですか」
「...」
「ほら、やっぱり、嘘つきじゃないですか
でも...そんな素直になれないところも可愛いですよ」
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次の日、私は杉浦くんと美音ちゃんが
家の前にいることをメールで聞き、話をした。
何もしたくない気分だが
街の状況は知りたかった。
私の中の日常が壊されないため。
「おはよう、亜瀬さん」
「...うん、おはよう」
「あれからね、際藤さんが来たんだよ
あの戦いの途中に、やってきたんだ」
私達の戦いの後に奴は現世界へ来たということか。
「私たちの...世界を支配するって言ってた...」
「亜瀬さん、僕も異世界に連れてって欲しいんだ
これ以上、犠牲者を増やしたくないんだ」
「...水陽や際藤のことならしばらくは大丈夫、あいつ、魔王が目当てだったみたいなんだ」
「...魔王さんが...?そういえば、もうずっと学校に来てないし...」
「うん、だから...魔王があっちに行ったから
しばらくは襲ってこないわ」
「未奈さんは...?」
「......殺された」
「...!?」
「際藤に殺されたんだ」
「...ごめんなさい」
「...そうだったのか...」
「美音ちゃんや杉浦くんは私に同情してるの?」
「え...?」
私は同情なんてされたくなかった。
嫌な思いをされても同情されて
哀れみをうけるのがいやだった。
ただ同情されるだけで何もしない周りが嫌い。
そして何も出来ない非力な私は一番嫌い。
みんな嫌いだ。
嫌いだ嫌いだ嫌いだーーーーーーーーー!!!!!
「同情なんか欲しくない」
「そんな...同情なんて...私達は本当に亜瀬さんを
助けるために一緒に戦おうと...」
「水陽を倒して、際藤を倒したら未奈ちゃんは生き返るの?魔王は帰ってくるの?」
「それは...」
「同情なんてね、自分が気持ちよくなるだけなんだよ
もう私のことは放っておいてよ、そんなに戦いたいならあんた達があいつらを倒してきてよ」
「...」
「同情するなら親友を生き返らせてよ」
「...」
「同情するなら早く生き返らせろよ!!!!」
「...死んでいった人たちは帰ってこない...
だけど、仇を取ることはできる...
亜瀬さんが行けないなら、僕たちだけでも行くよ」
「ごめんね、私と杉浦くんは本当に亜瀬さんを
助けたかっただけ...
でも、行けないなら二人で倒しに行くよ」
「無謀な真似はやめたほうがいい...あなた達がかなう相手じゃない」
「...それでも行くよ、じゃあまた数日後の学校で会おう」
二人はドアを閉じて、私は再び一人の部屋にこもる。
親友は死に、魔王は裏切り
そして今度は私のことを理解してくれた二人まで
死にに行こうとしている。
それでも私は動けない。
もう、私には何も残されていないから。
続く。




