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美術少女と異世界に住まう魔王の旋律  作者: Spell
Episode 04 確かな日常
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第53話 〜静恵さんの過去〜 消滅

静恵も佐田も進路が無事に決まり

卒業式を迎えることになった。


半分以上の生徒は大学へ行くことを選ぶのに

二人は就職、勉強したくないからとか

そんな怠けな理由ではなく、静恵は早く学生という檻から解放されたかったから。


佐田の場合はめんどくさいからっていうのが大きい。


どんな理由であれど、プー太郎のような人種にならなかったことは良かったのだろう。


「佐田くんはさ、どうして2年もずっと私にばかり絡んでくるの?」


「え?ああ...それは...」


「もう内定も決まったんだしそろそろ教えてよ」


「そりゃあ...お前見てると面白いからだよ」


「それってどういう意味なのよ」


佐田は言いたいことが文章にならずに、崩壊していく。

実は、佐田は静恵の事が好きだったから。

それを2年近く伝えなかったのは、進路のことに集中したかったからだ。


「好きなんだよ、お前が」


「え...」


静恵は岩の衝撃を感じるほど、惑った。


「好きなの?こんな私が...」


佐田は小さく頷き、静恵に近づく。

頬は林檎のように熱を帯びていく。


「ああ...ずっと気になっていた、一つのことに集中して、何かに打ち込むお前のことがな」


静恵は、両手を頬に当て、目が眩むようにフラついた。

佐田が嫌い、だとかそういうことじゃなくて。

いままで静恵は誰かに好かれたことがないと思っていた。

こんな一人で何かしている自分を

気持ち悪い人間だと思われているのだと思った。


そして、静恵は初めて、誰かに求められ、人からの想いを受けた。

だからこそ静恵は嬉しかった。


「...私はさ最初はあなたのこと、あんまり好きじゃなかったの」


「だけど、あなたのことずっと見ていて、なんだかこっちまで元気になっていく気がするんだ」


「なら...!?」


「私でいいなら、これからも一緒に居てくれる?」


佐田は首を縦に振り、喜びに溢れている。

拒絶されずに受け入れてくれた静恵に感謝をした。


「ああ!!」



二人は一緒になることを選んだ。

卒業後も自分の絵を描き続けた。


就職後は佐田は工場勤務で毎朝早くに出勤し

有給もろくに使わせてもらえずに

時給換算で990円程度の仕事をしている。


上司に嫌がらせを受け、サビ残ばかりのクソ企業だ。


静恵も簡単な業務ばかりでなかなか実際のイラスト仕事は

なかなかさせてもらえずにいた。


仕事というものは

簡単な雑用をこなせて、信頼関係を結び

最終的に大きな業務を任される。


だから、今は大丈夫だと静恵は心を抑えた。

だが、佐田はやがて精神が疲弊していき、二人は会う機会が減っていた。


仕事で誰とも関わりたくない。

仕事のことばかりで嫌になる。

労基で訴えてやればいいという考えも浮かばないような

疲弊で、横になることも増えていた。


静恵は、母に少しずつ、認めてもらえた。

真面目に働いていることが心を変えたからだ。

だけど、母の心と引き換えに、佐田は少しずつ心が廃れていく。


「...あれから全然一緒になってないな」


静恵は佐田が心配で家に向かうことにした。

事前に電話をしたが、返事がなかった。

だけど、すぐにでも会いに行かないと

これ以上は関係が変わってしまう。

そんなのが心配だった。

静恵を認めてくれた佐田を離したくなかったから。




----



「佐田くん!!!!」


ドアをノックして、彼の名を呼んだ。

しかし、声は聞こえなかった。



「...このドア開けるからね!!!」


鍵が空いていたので、彼の家へ入った。

下手すれば不法侵入になるが

今はそれどころじゃない。



「...!?」



静恵は佐田の顔を見て倒れかけそうになった。

精神が疲弊し、体は崩壊。

ほとんど睡眠をとっていないのか目は真っ青だ。


「大丈夫...!?」


返事がない。

それを認識した静恵は、すぐに携帯電話を取り出して

病院へ連絡した。


「...お願いです...!!今すぐに来てください!!」



静恵は佐田を救おうと懸命に心臓蘇生を試みた。

疲労による死。

それだけは避けたかったから。


社会は自分を大切にしない。

だから、誰かに依存したくなる。

静恵は誰かに好意を貰った相手を救おうと強く祈った。


「ごめん...ごめんね...どうしてここまで苦しんでたのに

私が気づいてあげられなかったの...」


ブラック企業とはわかっていたけど

過去に過労死するような闇企業だとは思っていなかった。

おそらく、家に帰宅して数時間しか眠れていなかったのだろう。





やがて佐田は病院へ搬送され、なんとか命は助かった。


「...ここは?ああ...そうだそろそろ仕事しないと...」


「ダメだよっ!!!」


「え...静恵...?」


静恵は佐田の手を止めて

顔から涙を流す。


「ごめんなさい...私があなたの苦しみに気づいてあげれなくって...」


佐田が就職先で苦しんでいたことを知り

後悔した。


「なんで、お前が謝ってんだよー」


「だって...だって...!!」


「まあ、俺もこんな会社辞めてやろうかな〜

って思ってるから大丈夫だよ

あんな某ペンギン会社のようなクソ上司がいるところなんて

早く辞めたいわなー」


「...そうしてほしい」



その後、佐田は工場勤務を辞めて、清掃の勤務に変えた。

相変わらず肉体労働だが、前より全然良いと思っているようだ。


「もう私も無理な範囲で仕事をするのはやめにしよう...」


そう思った静恵は絵は趣味で描き

もう雑用係でいいや。

って思ったようだ。




回想終わり。



「えー!静恵さんはあれからもう会社でイラスト描かないんですか?」


「そうですね、もうあれ以来、社内であえてアシスタントという形で色々な方のフォローに回されている感じですね」


「そうなんですか...それで、その彼とはどうなったんです?」


「あれから何かに夢中になることがなくなった私を見て、最近はあまり連絡を取っていないですね...

直接別れを言われたわけじゃないんですけど

ほとんど自然消滅...みたいな関係になってます」


「...なんかごめんなさい」


「沙羅さんが謝らなくていいんですよ〜

だけど、私のこんな話に付き合ってくれてありがとうございます」


「ええ...でもなんで私にこの話をしたんですか?」


「沙羅さんもあの人みたいにならないでほしいってことです

仕事も大事ですけど、体を壊しちゃなんの意味もないですよ」


「あ...そうですね、体調は大事ですもんね

ありがとうございます」


「さて、この話は終わりにしましょうか!」


「はい」


静恵さんは私の顔を見て

なんだか淋しいような表情をしていた。

彼のことが気になっているのかな...?


でも私はこれ以上深掘りはしなかった。

これからはバイトという形でイラストを提供することに

なると思うけど...

たぶん最初は色々な雑用をすることになるんだろうな。


それでも私がここに来れたことは

嬉しいって思う。

その気持ちは本当だと思うから。


続く〜

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