第52話 〜静恵さんの過去〜 桜の舞に人生を重ねる
進路を覚悟して1年経った高3の春。
静恵はいつもと違う制服...スーツを着て、とある会社へ向かう。
母は相変わらず、就職には反対していたが
最近は静恵に呆れて何も言わなくなっていた。
自分の道を貫く姿勢は良いことだが
人の意見を取り入れずに頑固な性格は、父親そっくりだ。
母はため息混じりにスーツと鞄を買ってくれたが
その顔は憂鬱そのもの。
静恵は、そんな母を見て罪悪感を抱えていた。
自分の意思を貫くことと母の気持ちを
素直に答えられないというジレンマが、交わる。
でも、そんな自分の為に
スーツと鞄を買ってくれた。
そのことは本当に感謝していた。
だから、認められるその日まで、罪悪感を乗り越えて
就職を目指すことにした。
そして、今日は面接。
履歴書と自分の絵を握りしめながら
就職への道を歩く。
面接室に着いた。
数人の面接官と静恵。
距離的にはまあまあ遠いが
心の中の緊迫は近い。
静恵は面接のやり方をインターネットで調べて
一通り暗記したが、対話が苦手なので
実践することは厳しかった。
「それでは、自己PRをお願いします」
静恵は、まず、自分の学校と名前を話した。
その後に、自分の趣味、志望動機。
そして履歴書と自分の絵の提示。
声は震えて、手は汗に溢れ。
緊迫感に満ち溢れている。
「あなたの長所はなんですか?」
「私は...私は、自分の気持ちを
一身に貫くことができることです!」
「一身に貫く、ということは目標に向けて一生懸命に取り組めるということでよろしいでしょうか」
「はい」
「それは良いことですね、では次に短所を教えてください」
「...短所は、協調性が少ないことです、誰かと話す時に声が出なくなることがあります...」
「...けれど、今あなたはこうして話ができている
あなたの中で、真剣に話していることは伝わります
絵を描くことに熱心なことも十分伝わりました
結果は後ほどお伝えします、今日はありがとうございました」
「はい、ありがとうございました、失礼します」
静恵はスズミ社へ一礼。
好印象な雰囲気で、静恵は芳しい結果を残せたのかもしれないと思い、家へ帰った。
「ただいま」
「おかえりなさい、どうだった?」
「うん、なかなか良かったよ、
もしかしたら内定が決まるかも」
「...」
母は、どう答えればいいのか、迷いがあった
自分の子供が社会人となり、一人前になる。
だが、絵の道の厳しさを知っているからこそ
母はどう答えればいいかわからない。
素直に「おめでとう」とか「良かったね」って答えるべきか。
「そう...良かったね」
「うん、ありがと...」
母は、認めてくれたのか。
それとも、まだ迷いがあったのか
静恵はわからなかった。
だが、いずれ認めてもらえる為にも
頑張らないといけない。
内定を貰うことが第一歩なのだから。
静恵は、夜にコンビニに行くために...という建前で
公園へと向かった。
一人になりたかった。
一人で考えたかった。
夜の公園は静かだった。
本当に誰もいない。
小さな灯りが包んでいるだけだった。
静恵はベンチで夜の空を見上げて、想った。
(私のこと、お母さんは認めてくれたのかな...)
(私って人と話すの苦手で、協調性なんてないし...
でも、そんな私にも話しかけてくれる人がいる...
けど、それも面白半分なんだろうな)
「明日のご飯は嬉しいご飯♪」
「?」
どこかで聞いたことある声だ。
しかも、この変な歌。
しかもだんだん近づいてくる。
変な人かな。
変質者かもしれないので
携帯電話を取り出そうとしたが、正体が明かりとともにはっきりとわかる。
「よお、偶然じゃん」
「佐田くん?なんでこんなところにいるの?」
「たまたまさ、ちょっと考え事したかったんだよ」
「そう、私もちょっとね...佐田くんはなにかあったの?」
「ああ、俺な、内定決まったんだよ
でも、その会社がなかなかブラックそうでさあ
やっていけるのか不安なんだよな」
「そう...嫌なら蹴ってもいいと思うわよ」
「でも、今の俺の頭じゃあここが限界なんだよ」
「確かに、あなた数学で0点取るような人だもんね」
「グサッ! まあ...そうだな...」
「でも、あなたと一緒にいるうちに
色々と理解することもできたわ
そして、あなたの悪いところもいっぱい知ったわ
だけど...」
「?」
「だけど、私が一人に暗い気持ちで下向きになった時に
いつもあなたがいてくれた、それは感謝してるのよ」
「いやあ、それは照れるぜ」
「だから、借りを返すつもりで
何かあったら私があなたを支えるし
どんな生き方でもあなたが決めるといい」
静恵は、最初の頃、絵を描いている時に
佐田が邪魔してくるのを鬱陶しく感じていた。
だが、静恵が他の女子生徒にいじめられそうになった時に
佐田は、守ってくれた。
なんでそこまでしてくれるのか静恵にはわからなかったが
感謝していた。
だから、借りを返したいと思い、佐田のことを
支えたいと思った。
「そうか、じゃあ頑張ってみる、お前も頑張れよ」
「ええ、私も内定決まったら
人生を賭けるわ」
桜の花びらが風と共に散りゆく。
静恵と佐田は人生の岐路に立ち、覚悟を決めた。
佐田は暗い企業でも立ち向かうと思った。
静恵がいてくれるから...?
かどうかは本人はわかっていない。
好意があるのかもしれないが、本当かどうか理解していない。
静恵は、内定決まったら、人生を賭けることにした。
それは佐田に会って気持ちが落ち着いたから。
お互い、知らず知らずの気持ちがある。
その気持ちがわかるのは、来年の春。
卒業式の日だ。
続く。




