第45話 1学期の終わり 〜この先のこと〜
橋川が消えて。
未奈ちゃんは元どおりになった。
魔王も私も平凡な日常を取り戻すことができた。
杉浦くんと美音さんは、
最終的に一緒になったと聞く。
これは2週間程度の出来事だ。
「えーっと、明日から夏休みですが、宿題はたくさんあるので、計画的に進めてください」
「はい!」
橋川は、周りから存在を
忘れ去られたかのようになっていた。
魔王からそのことを聞くと、
どうやらMKKは力を失うと
同時に存在という概念も消してしまうという。
また新しくMKKと契約する者もいるだろうが、今の私には縁のないこと。
もう犠牲を出したくないし、
魔法で戦うこともしたくない。
だから...
1時間後、
杉浦、魔王、未奈、美音 (敬称略)
これからのことを話すべく
一枚の紙を配った。
「これは...?」
「今後のことが書かれた紙、
私たちは魔法の世界に介入しすぎたと思うのよ
だから、当分は異世界に行かないようにするわ」
「あの事件のあとだから?」
私は未奈ちゃんの問いに答える。
「そう、未奈ちゃんもMKKになった
だからその力を使わないようにするの」
「う...うん」
「それで、俺まで異世界に帰ってはいけないとは
どういうことなんだ?」
次に魔王の疑問に答える。
当然の反応。
だって、魔王がもともとの世界に帰れないってことだし、帝魔王様への報告もできないのだから。
でもそのことは配慮してる。
「うん、魔王は用件がある時以外は極力
異世界に立ち入らないで」
その後も話を続けた。
私の出した意見。
それは異世界や魔法への介入をしないこと。
私たちはナイトメアに介入しすぎた。
それが原因で前の恋愛事件が起こった。
私の親友の未奈ちゃんは壊れ
橋川も消えてしまい。
誰もいい思いをしない終わり方をした。
せめて橋川のためにもみんなで
墓を作ったが、
その墓の存在は私たちにしか知らない。
愛に溺れ、死んでいった。
愛の使い道を間違えて、嫌われて死んでいった。
まるで、あの時の像のように。
私は家路に着き、自分の部屋に戻る。
「これで、平和な夏休みが送れるはず
もう当分は異世界に介入したくないし...」
「よし!久しぶりにゲームでもやろう!」
私は、異世界事件以来
まともにオンラインゲームをやっていなかったので
ログインした。
「お!未奈ちゃんがINしてる!」
私は未奈ちゃんにTellチャットで
直接話をして、いつも通りの狩場へ向かった。
2時間後。
レベルが67から70まで上がり、きりがいいので
パーティを解散してログアウトした。
「ふう...久しぶり狩りをしたなあ...
もうこんな時間か、宿題はいつでもできるし
今日はもう寝よっと!」
私は寝床に着き、目を瞑った。
ーー魔王、あなたはなぜ私と会おうとしたの?
ーーどうして、魔王は私を異世界に連れて行ったの?
ーー私はなぜ禁断魔法を使えるようになったの?
「そんなの、ただの成り行きよ」
ーー私にとって魔王はどんな存在?
「...魔法が得意で...勉強も運動も優れている
そして外見もそこそこ悪くない」
ーーそれだけ?
「そうよ、それだけ」
「なんか...変な夢だったな」
嫌な朝だった。
エアコンの程よく効いた部屋で
安眠出来そうな良質な環境で
不快な夢を見た。
魔王のこと。
異世界のこと。
今は忘れたいことなのに。
「魔王、あなたは夢にまで出てくるほど
おめでたい人なんだね」
私は10秒ほど黙り込み、そのあと顔を叩き、
気分を変えて洗面所で洗顔した。
まるで異世界の記憶を忘れたいがための行為だ。
洗顔はいつもなら食後の
歯磨きついでにやってるのに。
水の流れる音。
その水が炎を消すような作用を持つ。
だが、あのことの津波の恐ろしさが脳裏に浮かぶ。
それをかき消すかのように顔を洗う。
「はぁ...!」
洗い終わった。
顔中に水滴が溢れる。
服にまで巻き込むほどの威力持つ。
私はすぐにタオルで拭いた。
「さて...」
次は何をすればいいか。
午前6時。
夏の朝はもう太陽が登るほどにまで明るかった。
今から二度寝なんてできない。
「テレビつけながら朝食でも作るかな...」
私は適当な物を詰めて、スープを手早く作る。
適当な物と言っても、ゲテモノのようなものは作らないし、レタスとかベーコンとか、無難なものだ。
「完成っと」
思わず作りすぎてしまった。
しかも、具材とスープの割合がおかしい。
具材が10すると、スープが90。
あまりに具材が少ない。
「分量間違えてしまった」
これじゃあ全然完成じゃない。
しかも、試しに飲んだら全然味がしない。
水っぽい。
「あーあ...やっぱ家庭科嫌い...」
でも、せっかく作ったのだから、いやでも飲む。
「朝と昼で分割で飲もう、こんな料理を家族に飲んでもらうわけには行かない....って!?」
後ろを向くとお姉ちゃんの姿。
お姉ちゃんはニヤリと笑いながら私の方を見ている。
「あ、スープ作ったんだね、お姉ちゃんにも飲ませてよ」
「ひい!? い...いいけど、不味いよ」
「じゃあ試しに一口...」
私の言葉を聞かず、お姉ちゃんはスープのお玉から
小さめの容器に移し一口飲んだ。
「...どう?」
嫌な感想しか聞こえ無いだろう。
私の姉はどうもストレートに物事を発する人だ。
私もその傾向があるので、
これは両親の遺伝、
若しくは自分自身の環境の問題だろうか。
「おいしいじゃん」
「え?」
なんと、美味しいと評価がもらえた。
「お世辞じゃないの?」
「ううん、ほんとに美味しい」
私は試しにもう一口分味見をすることに。
薄い。
やはり分量がおかしい。
「嬉しいけど...やっぱ美味しくない
でもお姉ちゃんが美味しいって言ってくれるなら
これ全部飲んでいいよ、冷蔵庫に入れておけば
二日ぐらいはもつと思うし」
「ほんと!ありがと〜沙羅のスープは美味しいから
もっと自分に自信持ってもいいのよ!」
嬉しいけど、素直に喜べない。
私は、とりあえず笑って見せた。
「う...うん、ありがと」
夏休みが始まり
元の日常が始まる。
私は、もう何も失いたくない。
だから、いま、
ここにあるもの全てを
たいせつにしたい。
続く...




