第37話 37564 〜諦めたくない心〜
昼休み。
未奈ちゃんは橋川のクラスへ再び入った。
私は、おかしくなった未奈ちゃんを放っておけなかった。
だから、こっそり後をつけた。
未奈ちゃんの瞳はおそらく狂気で満ち溢れてる。
朝のアレが...あの態度と言動が
どう考えてもおかしい。
好きな人がいて、うまく行かなかったら諦めるべき...
なのに諦めずに一途に橋川を狙おうとしてる...
その熱意は一体どこから...?
「橋川くん居る?」
クラスは静かだった。
未奈ちゃんは、橋川の席を確認した。
そして、橋川の席へ移動しようとした...
しかし...
「橋川くんは...特別指導になったんだよ」
クラスの女子が、未奈ちゃんを止めに入った。
「...え?」
「杉浦くんに危害を加えたみたいだよ」
未奈ちゃんは、杉浦くんがなぜ
あの事件から数日間
学校を休んでいたのか理解したようだ。
怪我をして、病院に行って入院してた。
もしくは欠席した。
「え...?何言ってるの?橋川くんならここにいるじゃん」
未奈ちゃんは指をさした。
橋川の席を。
だが、そこに橋川はいない。
未奈ちゃんは幻覚のようなものを見ているようだ。
恋の幻覚。
好きになりすぎて精神が崩壊する。
そんな感じなのかもしれない。
私は未奈ちゃんのそんな様子を
黙ってみるわけにはいかなかった。
だから私もクラスに入り込んだ。
「未奈ちゃん! そこに橋川はいないのよっ!!!」
私は未奈ちゃんの肩を揺らし、
元の未奈ちゃんに戻って欲しいと
願いを込めて説得しようとした。
「...どうして...どうしてそういうこと言って仲間外れにするのっ!?」
未奈ちゃんはクラス中に響く荒げた声を出した。
クラスの雑踏も消えて、未奈ちゃんと私の方に視線が集中した。
「...だから...いないんだってば...」
「橋川には...好きな人がいるって...わかるでしょ...? どうして諦められないの...」
「...あはは...あははははははははははははは!!!!」
未奈ちゃんは、次の瞬間笑い叫んだ。
あまりに悲しい笑い声だった。
凶器のようなおかしな笑い声。
だけど、それよりも悲しい声で笑い叫んだ。
数十秒間笑い転げた。
「あはは...あのさ...私...知ってるのよ...橋川くんの好きな人...それって...杉浦くんが好きだと思ってる美音ちゃんでしょ...?」
「私...杉浦くんに協力する理由...わかる?」
「邪魔者を減らすため...」
私は察していた。
邪魔者を消す...
そういう意味だったのか。
いずれ杉浦くんが敵になる。
そういう意味だったのね...
「じゃあ、今回は橋川くんも美音ちゃんもいないし、帰ることにするね」
未奈ちゃんは何事もなかったように一人で自分のクラスに戻り始めた。
「また...杉浦くんがいない」
杉浦くんは美音ちゃんの事件以来、学校に来ることが少なくなっていた。
わたしにはどうすることもできなかった。
学校の帰り。
私は未奈ちゃんと二人で帰った。
人間関係にヒビが入ったような気がした。
話しかけられない。
怖い。
親友にそんな感情を持ったのは初めてだ。
沈黙の状態。
なぜ二人でいるのか。
今までならそんな気持ちにもならなかったし、
すぐに会話も広げられたのに...
「あの...沙羅ちゃん、どうしてさっきから黙ってるの?」
未奈ちゃんから話かけてきた。
暗めの狂気の声だ。
「...ごめんね」
私は謝るしかなかった。
本当の友達だったらこんな
状況になってもなんとかしようと思うはずなのに。
でも、あんなの見せられたら怖くて仕方ない...
未奈ちゃん...もうやめようよ...
お願いだからさ...
「ねえ、いつか黒木くんが言ってたことあったよね...」
「ナイト...メア?」
「沙羅ちゃんは...魔法とか、異世界とか信じる?」
「...信じるかも...」
「そっか...ありがと、私も魔法が
あったらいいなって思うよ」
私はなぜ未奈ちゃんがそんなことを
聞いてきたのか知る由もなかった。
私は異世界や魔法が
本当に存在してることを知っている。
現世界では知られていないこと。
私しか周りに知る人はいない。
そして知る術もない。
結界を張れるのは魔王だけだし。
「...」
次の日。
橋川と杉浦くんが学校に来た。
美音ちゃんはいなかった。
その日の昼も未奈ちゃんが橋川の
クラスに行こうとした。
私は、止められなかった。
私は黙っていた。
もう、友達には戻れないかもしれない。
私は、杉浦くんに聞きたいことがあった。
色々と、たくさんある。
「あのさ...杉浦くん...」
「...?どうしたの?」
「美音ちゃんのことなんだけどさ...
最近学校にこないんだけど...なにか知ってるかなって思って...」
「...」
「あ...ごめん...」
聞いちゃいけないことを聞いたような気がした。
恋愛での悩みは出しちゃいけない。
未奈ちゃんも杉浦くんも...
きっと悩みがある。
美音ちゃんにも...
「...いいよ、教えてあげる」
「えっとね...美音ちゃんは...脅迫されたんだよ、
橋川が...杉浦のことを怪我をさせたくなければ
俺と付き合えって...」
「そ...それで...どうなったの?」
「美音ちゃんは俺を守ろうとして...
そんで橋川と美音ちゃんは付き合うことになった」
杉浦くんの目は未奈ちゃんと同じようだった。
凶器と悲しみ。
「だから俺は橋川に復讐をするんだよ」
杉浦くんはノートにあるものを書いていた。
それは復讐の計画ノート...
「未奈ちゃんは...どう思うかな」
「きっと俺のこと恨むだろうね、きっとあの人も美音ちゃんを恨んでる...だからお互い様かもな」
こんな状況をなんとかしてほしい。
魔法を使えるなら使いたい。
私は禁断魔法が使える。
だけど...人間関係を元に戻す魔法は存在しない。
魔王でもきっと不可能だ。
私だって、人間。
人と人を治せるような...
アニメで活躍できるような英雄になんてなれない。
未奈ちゃん...
杉浦くん...
もう戻れないのかな。
私は涙が溢れてしまった。
「...ご、ごめんな、亜瀬さん...」
「ううん...私が聞いたんだから...ありがとね...
教えてくれてさ...」
全部、橋川が悪いんだ。
私は杉浦くんの気持ちの方が正しいと思った。
あんな奴のどこがいいのか。
あんな真似をしてなんで
未奈ちゃんはああなったのか。
「...未奈ちゃんとは敵になるかもしれない...
でも私は未奈ちゃんと止めたいと思ってる」
「そうだね...俺もそう思う」
「だから...止めなきゃな」
「...うん」
私と杉浦くんはお互い決意をした。
未奈ちゃんと止める。
そして橋川をどうにかする。
橋川は絶対に許してはいけない。
親友として未奈ちゃんを止めるんだ...
クラスについた。
未奈ちゃんは橋川に話しかけようとしていた。
「ねえねえ、橋川くん、私これを覚えたんだよ〜」
パーラパラダンスを覚えたようだ。
きっと橋川のために覚えたのだろう。
昨日のこともあって、クラスは固まっていた。
正直言って迷惑そうだ。
「...」
橋川は未奈ちゃんを次の瞬間...
「うるさいな、あっちいけよ」
橋川は未奈ちゃんに糾弾を撃った。
未奈ちゃんは...
「あ...あ..あああああああああああああ.......!!
いやあああああああああああああああああ!!!」
続く...




