第11話 ハイパー!スーパー!体育祭の力!! 旋律の体育祭編
「では、まずは徒競走をします!」
徒競走。
それは、走るスピードの競い合い。
私は最も苦手とする競技だ。
「皆さん準備をしてください!」
「はい!」
先生の声は、優しい。
だが、その優しさは今、私にとって狂気そのものだ。
徒競走......マジだるいわ。
生徒達全員、縦10列、横4列で並び終えた。
10×4で四十人だ。
私は、縦7列目で横2列目に並んでいる。
未奈ちゃんは、4列目に並んでいた。
ちなみに魔王は...
「俺と一緒になれるなんて光栄に思え、沙邏」
「イヤミ言ってんじゃないわよ!」
それにしても...
こんなにギューギューにしなくても
いいんじゃないの?
魔王と身体が...くっつきそうなんだけど...
ーー沙邏は魔王の顔を見てみた。
なんだか嬉しそうである。
いくら厨二病とはいえ、男子は男子なのだ。
女子と身体がくっついたりすると、なにかと期待するものである。
「よーいどん!」
4列目の生徒が走り始めた。
未奈ちゃんは、少しスタートが遅れたが、なんとか巻き返した。
走るスピードが早すぎるせいで、
砂埃がたくさん現れる。
私は、砂埃が目に入らないように目をつぶった。
あと3列...
もうすぐ公開処刑の時間だ。
私の鈍足をみんなに見られてしまう。
グラウンドの砂が、砂漠の砂に見えてきた。
先生はドラゴン。
周りの生徒は、足が無駄に早い(私が無駄に遅い)
サボテンに見えた。
未奈ちゃんは水色サボテン。
ーー2分後、沙邏の出番がやってきた。
ついに、公開処刑の時間になってしまったのだ。
「いちについて...よーい......ドン!」
先生のピストルが煙と共に音を立てた。
私は、緊張のせいで、スタートダッシュが遅れてしまった。
私はベストを尽くして走った。
鈍足すぎる足で。
魔王は、私がグラウンドの4分の1を走ったときに、ゴールした。
他2名の生徒も、私が半分走った時にゴールした。
私は息が苦しかった。
生徒や先生は、きっとこう思っているだろう。
(相変わらず沙邏は走るのが遅いな、こんな奴リレー参加するな)
って思われてるだろうな。
嫌だな。
その後、私はみんなとかなり差をつけてゴールをした。
生徒のみんなのひそひそ声が聞こえるような気がした。
...気のせいだよね。
「相変わらず鈍いな」
魔王が、私を煽り始めた。
「うるさい、貴方が無駄に早いのよ」
そうよ、無駄に早いシーフなのよ。
私は、美術が得意なの。
運動は苦手なのよ。
だから体育祭の練習は嫌なのよ。
「次は大縄跳びです!」
大縄跳び......これも嫌い。
先生も容赦ないな。
そんなに私に恥をかかせたいのか。
「黒木くん、亜瀬さん、縄を持ってきてください!」
「はーい...」
先生は私と魔王を指名した。
私は魔王の腕を掴んだ。
「さあ、さっさと行くよ、魔王」
「あ...ああ」
私は走って縄を取りに行った。
走らないと先生に怒られそう。
みんなせっかちな奴ばっかりだから。
私は小学と中学の頃そういう奴らばっかりに接触してきたから。
「えっと...縄はこっちだったかな」
私は色々な道具がある中で、縄だけを探す。
手探りに探す。
「ねえ魔王、縄知らない?」
「あそこじゃないのか?」
魔王は指を指していた。
指を指した方向を私は見た。
そこには......
「あれは...罠ね」
ロッカーの一番上の箇所に、黒板消しがあった。
「こんな見え見えのトラップ考える奴って......」
「さあな」
「あんたじゃないの?」
「そんなわけねぇだろ」
ーーなにをつまらない茶番をやっているのやら。
こうしているうちにも、先生や生徒は待っているだろうに。
「あったじゃないの」
「縄だな」
これは正真正銘の縄だ。
縄って何気にトゲトゲしてて痛いんだよね。
綱引きとか、手が痛くて仕方ない。
「さあ、持っていきましょ」
「そうだな」
ーー何事もなく大縄は始まった。
先生や生徒は、沙邏と魔王が、少しだけ遅れただけなので、なにも気にしていなかった。
そこまで時間に厳しいわけじゃなかった。
沙邏は、少し意外な気持ちになっていた。
小中の頃はせっかち野郎ばっかだったのにな。
「では行きます! せーの!」
縄を持つ、二人の生徒の腕の動き
に比例して回り始めた。
みんながジャンプを開始し始める。
しかし、1回目でいきなり失敗した。
私だけ、ジャンプが遅れた。
「ごめん...」
みんなは、私に「気にすんなよ」って言ってくれた。
優しいな、私は嬉しいよ。
中学の頃は私のせいで凄くギスギスしてたんだもん。
「...もう一度! せーの!」
私は、勇気を出して思いっきりジャンプをした。
すると、成功した。
そして、2回目の縄が私を襲い始める。
しかし、それも成功した。
こんなの初めてだ。
いつも、1回しか飛べずに、みんなからボロクソ言われて、戦力外通告されて......
補欠扱いだったけど......
今回は上手くいくかもしれない。
「さーん!」
私は3回目にチャレンジした。
3回目も飛べた。
嬉しさが心の中で踊っている。
ーー沙邏は20回も飛べた。
21回目は、沙邏じゃなくてほかの人がミスをした。
こんなにすごい沙邏を見たことがない。
未奈も驚いていた。
「よし! これだけ出来れば今日は合格です! 素晴らしい!!」
私は、初めて体育の授業で褒められた。
こんなの初めて。
嬉しさが溢れ出した。
「さて、これで今日の練習は終わりです、月浪さん、号令をお願いします」
「これで!5・6時限目の体育を終わります!礼!」
「ありがとうございました!」
40人の声がオーケストラになった。
生徒全員は、自分の教室へ戻り始めた。
私も戻った。
ーー案ずるより産むが易し。
その言葉が今の沙邏にとって一番似合うことわざである。
体育祭の練習というのは、言うほど地獄じゃないんだ。
だから、沙邏は、安心して家に帰った。
今日の学校は、ちっとも苦痛に思わなかった。
...まあ、縄跳びだけなんだけどな。
体育祭は縄跳びだけじゃない。
徒競走、リレー、騎馬戦、台風の目、玉転がし、ハードル跳び......たくさんある。
どれもこれも沙邏にとって地獄だ。
リレーは走る遅さのせいでボロクソ言われるだろうし、
騎馬戦は、高所恐怖症で上は無理だし、下は力がなくて無理。
台風の目は、みんなが走るスピードが早すぎて棒が離れちゃうし......
玉転がしは、沙邏の力じゃ転がせないし。
ハードル跳びはジャンプ力がないから全部ハードルが倒れちゃうし......
縄跳びは士気のおかげでなんとかなったけど、現実はそんなに甘くないんだ。
沙邏、ファイトだ。
油がたっぷり断じて危険編へ続く。




