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小心王女と四つの試煉  作者: 伊佐伊波
11/12

死にたくない………

「キャーーーッ!!」


 悲鳴を上げたフィアナは、後ろに尻餅をつく。

 

 (は……早く逃げないと!)


 亡者が窓から這い出てこようとしている。

 

 フィアナは重い身体に鞭を打ち、なんとか起き上がり走り出す。

 しかしながらフィアナの疲労は相当こたえていて、全力で逃げているつもりなのにその足取りは酷く遅い。

 亡者は窓から出るのに相当手こずっている。亡者は平均の成人男性ほどの大きさで、窓はやや小さいため、窓から出るのは困難なようだ。

 フィアナと亡者との間にはそれなりの距離が開いた。しかし、亡者の目はフィアナを捉え続け、離さない。


 闇に包まれた静寂にドサッという鈍い音が鳴り響く。

 後ろを振り向いた少女の顔が恐怖に歪む。錯乱した少女の目に、、たった今、窓からようやく這い出てきた亡者が映り込む。

 少女を一層の動揺が駆り立て、少女は必死に逃げ惑う。しかし、醜悪を体現しているかのようなその亡者は決して少女から飢えた亡霊のような両眼を離そうとはせず、ついに少女に向かって一直線に駆けずりだす。亡者の足は人間の足ならばまがってはいけない方向に曲がっている。膝から下の先はいまだに引っ付いているのが不思議なほどに腐敗し、肉が削ぎ落ちて、骨が所々露出している。そんな状態であるはずなのだが、亡者はまさに”亡者”であり、生者を千切り殺そうとするような、まさにそれが自分の存在理由であるかのように憎悪を、あらゆる生き物を嫌悪させる嬌声をその静寂にまき散らしながら少女を死に物狂いで追いかけてくる。

 

 少女は逃げた。ただ逃げ続けた。それは正常な人間の誰しも、いや、あらゆる生き物が持つはずの野性的な生存本能。

 少女はただ走り続けた。恐怖に限界まで急き立てられた足が悲鳴を上げ、今にも折れてしまいそうなほどだとしても、それでも………。


 だが、次の瞬間少女は息を呑む。


 少女の遥か後方にいたはずの亡者はその腐り落ちそうな両足を這いずりながら、少女の何倍もの速さで追いかけてくる。

 ほんの十数秒程であった。

 彼我の距離は既に十メドルを切り、生に執着した化け物の醜く朽ち果てた両腕が少女をを捉えんとその小さな背中に貪欲に伸びる。


 (嫌っ!、死にたくない!!)


 少女の生を犯す醜悪な腕がその小さな背中に迫り、そして捉え――――――――――



 刹那に一筋の光速の虹閃が静寂に包まれた暗闇を切り裂く。その虹閃は少女の真後ろの空間を丸ごと呑み込み、青白い炎を遥かに超える光を以てして全てを消し去る。


 思いもしない状況に見舞われた少女の両眼は、事の状況が呑み込めず、何が起こったのかとその光の原因。発端の方向に視線を走らせ、瞬間、少女の両眼が驚愕に見開く。


 虹の輝きを帯びた長剣を掲げる一人の青年。


 

 民に慕われ、王に認められ、神の領域に最も近づいた剣士。



 そこには”剣聖リュー・スタンセア”がいた。


 


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