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ここではありふれた物語  作者: 越智 翔
第三十二章 緑の闇の中で
672/1107

全員反対

ここから新章開始です!


いよいよ大森林突入……

の準備からですが。


さて、改めてですが、夏の不幸祭りの予告です。


2021/07/21~


現在、鋭意執筆中です!

途中で止まったらごめんなさい m(_ _)m

 頭上に甲高い鳥の声。ついで羽ばたきの音が遠ざかっていく。

 なんてことない物音でしかないのに、やけに耳障りに聞こえる。どういうわけか、今朝、目を覚ましてから、日が高くなるにつれ、じわじわと胸騒ぎが始まった。


 ちょうど昼時で、周囲は不自然なほど物静かだった。関門城のこちら側、少し進んだところが広場になっており、真っ白に乾いた固い地面が広がるばかりだ。そこには容赦なく日差しが照りつけるので、この時間、好きこのんであの場所に留まる者はいない。

 俺達も門から出ると、さっさと脇に逸れた。踏み固められた広場から外れると、足下には砂利が散らばり、また丈の低い草がまばらに生えていたりする。そして刈り倒されずに残された大樹が点在している。これらはその有用性から、勝手な伐採が禁じられている。要するに、良質な木材でもあり、時期によってはナッツのような種が得られ、いざ魔物が関門城の前に殺到したときには遮蔽物として機能し、平時にはこのように、ちょっとした日除けにもなる。


 足下にはいつも落ち葉が散らばっている。それを踏みしめる音が間断なく聞こえる。総勢八名もの大所帯。そのことを思い出すと、急に言葉にしがたい何かが胸の隙間に滑り込んできて、居ても立ってもいられなくなる。そんな内心のざわめきを抑えつけつつ、俺はまた、タウルの背中に視線を向ける。

 木陰を抜けて次の木陰を目指す彼の背中をなんとはなしに見つめていた。か細いがしなやかな体。色落ちした畳のような色をした粗末な上着から、薫り高いコーヒーを思わせる焦げ茶色の肌が垣間見える。汗ばんだうなじが陽光を照り返す。そんな彼の姿が、ふと緑の闇の中に浮かび上がっているように見えた。


 自ら望んでの探検なのに。今になって俺は怖気づいているのだろうか。迷いなく先を行く彼の背中を見て、これからどこに連れていかれようとしているのかと自問自答した。

 筋違いにもほどがある。俺が行くから、タウルが道案内を引き受けたのに。


「ここだ」


 タウルが足を止め、振り返る。

 そこにあったのは、大きいが粗末なログハウスだった。熱帯雨林の風雨にさらされて、壁も天井も既に色が抜け、微妙に黒ずんでさえいる。実際、長持ちするものでもないのだろう。彼が扉を押し開けると、俺達は黙って続いた。


「窓を開ける」


 椅子の上に立って、彼は天井近くの木窓を開けていく。それを見て、フィラックも同じようにした。窓の外の木々によって適度に遮られた外の光が、埃っぽい小屋の中に差し込んできた。

 部屋の中は殺風景そのものだった。あるのは背凭れのない椅子がたくさんと、大きな長方形のテーブルが一つ。それだけ。部屋もこれ一つきりで、間仕切りも何もない。


「ファルス」


 フィラックが手招きする。すると彼は足下を見回して、一番マシそうな椅子を引きずってくると、テーブルのお誕生日席に据えた。


「総大将はここだろ」


 俺は逆らいもせず、促されるままにそこに腰かけた。正直なところ、内心はノイズだらけでまったく落ち着かない。うわの空だったといってもよかった。

 すぐ近く、左側に座りながら、タウルは肩をそびやかした。


「俺も偉くなったものだ」


 ちょっとだけ得意げに、彼は微笑んでいた。


「昔、小屋に呼ばれて打ち合わせをするときには、俺の席なんてなかった。ものを言うこともできなかった。言われたことをするだけ。今は違う」


 この「小屋」、今、俺達がいるのは、探索許可を取った集団に割り当てられる拠点だ。

 面倒極まりないが、ウンク王国は、冒険者が個人単位で奥地に向かうことを許してくれない。理由はいくつもある。資源の乱獲や狩場荒らしといった問題を避けるためでもあるが、最大の理由はやはり、治安だ。

 関門城の向こうは事実上の無法地帯となっている。といっても、ここみたいに目と鼻の先に城がある場所なら、別に危険もない。だが、王国の拠点のない密林の奥に分け入るとなると、話は違ってくる。冒険者が同業者に襲われるというだけではない。奥地に暮らす地元民が、被害者にも加害者にもなる。

 そうした事態を減らすために、王国は冒険者達に団体行動を強制している。とはいえ、それにどの程度の有効性があるものか。対策しないよりはマシかもしれないが。


「まだ人は増える。じき、ここも手狭になる」

「そいつは大変だ」

「だから今のうちにしっかり段取りを決めておかないとだめだ。案内と交渉、それに偵察が俺の仕事になる。だからフィラック、お前が纏め役をやるんだ」


 俺がぼんやりと座っているうちに、タウルとフィラックがどんどん話を進めてしまう。


「ファルスがやるんじゃないのか」

「考えろ」


 タウルは肩をすくめた。


「身分は高い。でも若い。俺達はわかってる。束になってもファルスには敵わない。だけど荒くれどもはそうは思わない」

「なるほどな」

「それに、面倒なことはさせないほうがいい。俺達が前で戦うより、ファルスが自由に動ける方がよっぽど安全」


 段取りを決める二人の向こうに、ノーラとペルジャラナン、向かい側にジョイスが座る。ラピとクーはというと、椅子は余っているのに立ったままだ。


「戦える仲間がそれなりに揃っている。多少はやりやすい」

「逆に戦えない仲間がいて、ありがたみがあるのか」


 タウルは両手を挙げて肩をすくめた。


「もちろん戦えるほうがいい。でも、それがすべてじゃない」


 彼は立ち上がり、人差し指を突き立て、ついで他の指を順番に開いていった。


「荷運び、見張り、料理、キャンプの後片付け、その他雑用……いろいろある」

「俺がやる、と言いたいところだが」


 タウルはフィラックの申し出に、ゆっくりと首を横に振った。


「簡単に道程について教えておく」


 まず、出発地点はここ、関門城だ。門の北側にはここまで物資を運搬する商人達のための宿場町が広がっている。一方、南側には独特の街並みが広がっている。

 単に大勢の人が行き来したというだけで自然に道になった、門前から始まる大通り。その左右には、伐採されずに取り残された大樹が、あるところでは密集して、また場所によってはまばらに生えている。そして、まるで整備された公園の中の施設のように、今、俺達が利用しているような探索隊のための小屋が点在している。

 大通りを更に南に進むと、防衛拠点としての役目も兼ねた冒険者ギルドの建物が聳え立っている。その周辺が、関門城の南側の城下町になっている。周辺には、大勢の労働者が居を構えている。彼らのうちのいくらかは木工職人で、探索に必要な道具を製造したり修繕したりする。


「ファルス」

「あ……」


 いけない。

 俺のことなのに、気が散って仕方がない。


「奥地を目指すなら、そこで船を買わないといけない」

「船?」


 森の中を歩くのに、船?


「大森林も、まったく知られていないわけじゃない」


 ある程度探索ルートが開拓された、既知の領域もあるのだ。

 ギルドを中心とした関門城の城下町を通り抜けると、いよいよ大森林の入口に差し掛かる。だが、そこはまだ本当にただの森の周縁部に過ぎない。もちろん、野獣や害虫などの脅威には見舞われる。魔物も出没するし、油断すれば死人もでる。

 しかし、過酷な密林とはいえ、ごく僅かながらそこで暮らす人もいる。主としてクース王国からの難民や犯罪者のなれの果てなどがそれだ。貴重な薬草が取れるポイントもあるらしく、居を構えるメリットがないでもないらしい。また、定かな話でもないのだが、いつ頃からかはわからないが、そもそもこの森に居着いている根っからの住民も存在するという話も聞いたことがあるのだとか。

 比較的よく知られていて、安全度も割合高いこの周縁部を突き抜けると、大河に出る。この川を遡行することで、更なる奥地に向かうことができる。いくつか探索に適したポイントが存在するらしく、そこはルートを開拓した昔の冒険者の名前で呼ばれている。大森林の深部に進むための上陸地点もあるが、タウルが実際に知っているのは、その辺までなのだという。

 この、大河のあちら側には、ほとんど人がいない。いても川の付近に小さな集落がある程度で、その奥に進むともう、無人の領域になる。本当の大森林は、ここからだ。


「じゃあ、船を乗り捨てていくとか?」

「或いは、誰かを後に残して奥に進む」


 要するに、退路を確保するためのベースキャンプを後ろに設置するものなのだという。それも常識で考えれば当然のことで、現在知られている最も上流寄りの上陸地点の向こうは、ほとんど人跡未踏の秘境と言っていい。


「でも、そんなのは」

「普通は、だから、いくつかの探索隊が合同で南を目指す」


 つまり、あるチームは上陸地点周辺に留まって、金目のものを漁る。と同時に拠点を維持する。一方、より貪欲な連中はというと、手付かずのお宝を見つけてやろうと遠出する。俺達は、必然的に後者になる。

 そもそも全滅や反乱を防ぐためにも、探索の時には複数の班が合同で出発することが義務付けられてもいる。法の効力が及ばない領域での活動なのだ。集団で行動することで社会そのものを運搬しようという話なのだろうが……


「食料も、森の中で食べられるものを探したり、川で魚を釣ったりはする。でも、見つかるとは限らない。だから、たくさんの荷物を運ばせないといけない」

「大人数になるわけだ」


 奥に進めば進むほど、物資の搬入のためにも、より多くの拠点が必要になる。当然、半ば無法地帯の大森林において、他のチームが利害を度外視して人道的に振舞うことは期待できない。あの手この手でいざという場合の後方支援を約束させなければならない。

 だから、信頼できる仲間の存在が重要になってくる。雇い入れた大勢のポーターや、他のチームの冒険者達と渡り合うには、中核となる俺達がしっかりとスクラムを組んでいなくては。


「だから、そこの二人にも使い道はある」


 そうタウルは言った。

 だが、そこで俺はやっと声をあげた。おずおずと。


「その、タウル」

「どうしたファルス」

「クーとラピは……キトに送ろうかと思う」


 すると機嫌よさそうに喋っていた彼は、静かにゆっくりと表情を引き締めた。


「なぜだ」

「やっぱり二人が探検で役立つとは思えない」


 すると、彼はじっと黙り、立ったまま俺達の話を聞いていた二人を見つめた。それから視線を戻して、言った。


「使い道ならある。クーは賢い。言いつけをちゃんと守れる」

「それはそうだ、けど」

「自分で考える頭まである。だから見張りや備品の管理に回す。後片付けもさせる。最悪の場合、危険に遭遇したら、声をあげてもらう」

「声を?」


 悲鳴をあげたとき、俺が近くにいればいい。だが、そうでなければ助けられないかもしれない。

 だが、タウルは首を振った。


「奴隷だ」

「タウル」

「これでも甘い扱い。力仕事も期待しない。そっちのラピには炊事と洗濯を任せる。あとはノーラの世話係」


 自分に言及されて、ノーラが声をあげた。


「私に世話係なんて」

「いらないと言い切れるか。魔法を使えるのは知ってる。でも、一人で出歩くのは駄目だ。用を足すときに魔物が襲ってきたらどうする」


 既に彼の頭の中には、大森林での活動方針が固まっているらしい。確かに俺も、タウルに差配は任せると言った。言ったが、まだ肝心のことを伝えていない。もちろん、今まで言い出せなかった俺が悪いのだが。


 本当なら、エシェリクの街で済ませるはずの話だった。そこであれば、ジョイスがカークの街に向かう用事があったのだから、それを果たすようにと強く言うことで、ついでに二人を送ってもらえた可能性もあった。

 だが、クリルに放り出されて路銀も底を尽きかけていたあの時点では、そうもいかなくなっていた。ついずるずるとここまで全員でやってきてしまったのだ。


「心配しなくても、考えなしに言っているつもりはない。川を遡ると、ケフルの滝という場所がある。かなりの奥地。そこにボートを係留して奥に進む。俺がいた頃、このルートでグリフォンを仕留めた冒険者の集団もいた。ファルスが戦うなら、あとは獲物を見つけさえすれば、全部うまくいく」


 ああ、やっぱり。

 タウルも、俺がただの物見遊山でここまで来たのではないとは、承知している。大枚をはたいて自分達に武具を提供した。つまり、危険な探索をやるつもりがあるのだと。しかし、その探索における本当の目的はというと……実は、まだ話していない。話せるわけがない。そして、説明されずにわかるはずもない。

 まさか俺が、不老不死を手にするために旅をしているだなんて。


 とはいえ、小さな違和感をおぼえずにはいられなかった。

 何も説明しなかった俺も俺だが、説明されないうちにあれこれ決めてかかっているタウルも相当におかしいのではないか?


「グリフォンを仕留めると、何かいいことがあるのか?」


 フィラックの質問に、タウルは手を広げて答えた。


「毛皮や羽毛が高く売れる。肉もうまいと聞いた。ただ、儲けは赤竜ほどじゃない。それでも仕留めれば名前は知られるようになる」

「ふうん」

「何百年か前に、子供のグリフォンを捕まえて、飼っていたという話もある。生け捕りにできれば、なおいい」


 タウルは饒舌だった。

 彼の立場を思えば、不思議はない。もともと出世したくて、名声を得たくて俺と同行することにしたのだ。彼は自分の知識や経験、土地勘を俺に売り、俺は戦う力を貸し与える。もちろん、身分の上でも、ネッキャメル氏族との繋がりを考えても、俺を立てはするだろう。それでも、これはあくまで取引、相互の利益ありきなのだ。

 だから、タウルは俺が、大森林における普通の冒険者の仕事をすると考えている。だが、なんといえばいいのか、そこに危うさのようなものというか……そう、彼は先走ってしまっている。


「待って、くれないか」


 俺が一言、そう言うと、みんな黙ってこちらを向いた。


「済まない。まだ大事な話をしていなかった」


 やっぱり今、言わなければいけない。


「大森林に挑みたいといった、その理由をまだ、説明してなかった」


 誰も返事をしない。頷きもしない。窓の外からはそよ風すら吹き込んでこない。


「目的は、二つ」


 急に口の中がカラカラに乾いてしまったような気がする。


「一つは、もののついでみたいなものだけど……一応、ペルジャラナンのために」

「ギィ?」


 彼は首を傾げた。


「ケッセンドゥリアンが言っていたイーヴォ・ルーの古代の都、ナシュガズを探す」

「ケッセンドゥリアン? 誰だ、それは」

「人形の迷宮の最下層にいた怪物」


 厳密には、俺は先にマルトゥラターレから都の存在を聞かされてはいた。しかし、彼女が知っていたのはただの言い伝えで、実際に目撃したわけではない。一方、ケッセンドゥリアンはそこに帰りたいと言った。つまり、ナシュガズは空想の産物ではない。かつて実在していた、ルーの種族にとっての故郷なのだ。


 不老不死を追求する俺にとっての価値は? ないかもしれない。あるかもしれない。

 俺は単に不死を得て、永久に眠り続けることができさえすればいいのだが、どうもこれまでの旅の道程を思い起こすと、そう簡単にはいかないようなのだ。タリフ・オリムでは、聖女の祠の向こうに、打ち捨てられた古代の聖域の跡らしきものがあった。魔宮モーでは、モーン・ナーと知られざる神々の姿を目にした。スーディアでは古代の土地神だったシュプンツェを相手取った。

 では、イーヴォ・ルーが残した都は、俺にどんな真実を見せてくれるのだろう? 知らずに済ませるなど、できそうにない。


「一度、軽く話した覚えがある。アラワーディーだったか」


 不機嫌そうな顔になったタウルが促した。


「もう一つは」

「……ルーク・ハシルアーが世界誌に書き残した、不老の果実を発見すること」


 それを聞くと、もはや憤然とした表情で、タウルはその場に数秒ほど、棒立ちになった。それから乱暴に椅子に座り直し、俺に畳みかけた。


「滅茶苦茶を言うな」

「わかってる」

「わかってない。じゃあ訊くが、ナシュガズなんてものは、いったいどこにある。手掛かりは」

「ない」


 彼は窓の外を指さした。


「見ろ。これ全部が大森林だ。東にも西にも、ひたすら広がっている。川以外はどこも木でいっぱい、見通しも悪い。低地はどこも沼だらけ。そのいったいどこに、そんなものがあるんだ。ファルス、お前はムスタムの街中で落とした金貨を見つけられるとでもいうのか」


 彼の言い分はもっともだ。

 一千年前に大森林のどこかにあったらしい街。仮に実在したとしても、とっくに密林に覆われて、それとは見分けがつかなくなっているだろう。


「それに不老の果実だと。あんな与太話を真に受けるのか」

「見つかるかどうかはわからない」

「わからないものに命を懸けるのか」


 俺は、命を懸けなくてはいけない。永遠の眠りを手にするのは俺自身の望みでもあるが、今となっては、使徒の企みに抵抗する手段としての意味もある。先の戦争をいちいち思い出すまでもなく、既に俺は地上の災厄となり果てた。俺とピアシング・ハンドの封印は、きっとこの世界にとっても好ましいことだ。そのためには多少の犠牲もやむを得ないと言えるだろう。そして、まず真っ先に犠牲になるべきは、この俺自身だ。

 だが、俺の周りの人間まで命を懸ける義務はない。もしあるとすれば、別途危険に見合うだけの報酬が約束されている場合に限られる。


「自分の命は懸けられる。ただ、無意味な犠牲は減らしたい」

「馬鹿にするな」

「馬鹿になんてしてない。これは真剣な話だ」


 俺も立ち上がった。それから、みんなの顔を見渡した。


「話すのが遅くなったのは、申し訳ない。ことがことだけに、なかなか言い出せなかった。大森林探索の目的は、不老の果実の発見だ。できるかどうかはわからない。ただ、誰にもできないと言われてきたことを、僕はやってきた。人形の迷宮を攻略したのも、不老不死の手がかりを得るためだった」


 既にすべてを知っていたノーラは、静かに顔を伏せた。タウルは燻る熾火のような顔をしていた。あとはみんな、ぽかんとしている。ペルジャラナンだけは、何を考えているかわからなかったが。


「滅茶苦茶な話をしているのは、十分わかっている。人形の迷宮では、運よく仲間を誰一人死なさずに済んだ。今回はどうなるかわからない。全滅の可能性も、もちろんある。だから、ここではっきり言っておきたい。付き合いきれないと思ったら、出発前なら離脱を表明してくれていい。当然、そうしても損はさせない。金も出すし、不都合がないようにティズ様に手紙も書く。結論も、今すぐ出さなくていい」


 俺の脇で、背中を丸めて座るタウルが呟いた。


「馬鹿げてる」

「最初に言えなかったのは、僕が悪い。この通り、謝りたい。ただ、だから……どうするかは、本当に好きに選んでくれていい。なんなら途中まで案内して立ち去っても」


 だが、彼はそれ以上、何も言わなかった。


「それで、クーとラピは、ここで奴隷の身分から解放する。もともと関門城で手続きするつもりだった。その上で、キトに送ろうと思う。それでエシェリク経由で、カークの街まで出てもらおうと思っている。そこからは船だ」


 ジョイスが眉根を寄せた。


「おい、ファルス。んじゃまさか、俺に行けってのか?」

「できれば」

「ざっけんなよ、おい」


 そのつもりはない、か。その可能性は考えていたので、驚きはない。


「ノーラ」

「ファルスが大森林の探索をやめてカークの街に行くなら」


 これもわかっていた。ノーラがこんな説得に応じるくらいなら、ここまで難儀していない。


「最悪、それはどこかの冒険者に頼めばいい。ただの護衛だ」

「あ、あの」


 そこでおずおずとクーが手を挙げた。


「なにか」

「あの、ご主人様、僕を奴隷から解放するとのことで」

「そうするつもりだ」

「じゃあ、奴隷としてではなく、自由民としてものを言ってもいいですか?」


 意表を突かれて、俺は思わず口篭もった。構わずクーは続けた。


「僕は、このまま大森林に向かう皆様のお手伝いをしたいです」


 何を言っているんだ?

 金と名誉を欲するタウルが言うならまだわかる。ミルークに義理立てするフィラック、自分の腕試しをしたいジョイス、それに俺に執着するノーラと、それぞれ居残る理由がある。だが、クーはついこの前、カリで押し付けられただけの少年だ。どうして命懸けの探検に参加する必要がある?


「あ、あのさ、ファルス」


 浅瀬を漂う海藻のような、いつになく頼りない様子でフィラックは言った。


「ちょっと急な話だし、しばらく時間をおかないか。こっちに来たばかりで、旅の疲れも抜けてないし……その間に、俺とタウルで出発の準備は進めておくから……どうだろう」


 どうやら全員反対、か。

 行き先はナシュガズ、目的は不老の果実。嫌なら帰れ。我ながら乱暴ではあると思う。しかし、ここまで拒絶されるとは思っていなかった。


「じゃ、早速俺が仕切ってみるよ」


 フィラックがそう言いながら、手を叩いた。


「今日は解散! 一日自由行動だ」

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― 新着の感想 ―
クーはこちらの世界での佐伯陽なのか。ただの忠義者なのかそれ以外の理由があるのか分からないが、この場で彼が最も異質に感じた。
[一言] 目的を打ち明けるようになったのは良い傾向…ですかね 今までは能力はともかく、真意すら隠して一人で解決しようとする部分が強かったですし そういう意味では、ノーラを殺されかけて使徒やパッシャ、自…
[一言] なんかシンプルなペルジャラナンが一番の癒しになってますね。 寡黙にファルスの後ろをついて回り戦闘もそつなくこなし自我を押し付ける事もなく迷惑もあまり掛けない。 その有り様はまさに良妻賢母の鑑…
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