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ここではありふれた物語  作者: 越智 翔
第四十九章 釘打ち事件
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三箇条

「お話はわかりましたし、不幸な体験をなさったというのも理解しましたが」


 サラトンが自身の人生を一通り語り終えると、マホは意見を述べ始めた。


「それは、たまたまあなた……サラトンさんが結婚した女性が悪い人だっただけということになりませんか?」

「言葉遣いは気にしなくていい。今の僕はただの乞食みたいなものだから……で、言うと思ったよ。でも、だとすると、私の先輩だった助教授の意見はどう思う?」

「それも説明できます。当時のあなたは、妻に裏切られ、その証拠としての青い眼の娘を目の当たりにしたばかりです。もしかしたら、逆上したあなたが、母子ともども殺害してもおかしくないと、そんな不安を抱いたのではないでしょうか? だからといって、妻を許してあげなさいだなんていったら、反発して余計に怒り狂うかもしれない……それに、子供には何の罪もないんです。だから、そういう言い方をしたんじゃないでしょうか」


 サラトンは頷きつつも、同意しなかった。


「子供に何の罪もないのは、その通りだね。でも、これはどっちにしろ、二者択一の問題なんだ。仮に子供に一切の不利益がないように決定を下すとなると、どういう選択肢がある? そう、答えは一つしかない。先輩が僕に言ったみたいに、子供の父親なんか誰でもいいと、僕が割り切ることだ。そして、実父は他にいるのだけれども、娘には言わないようにする。僕と妻は普通に明るい家庭生活を演出する。娘が独り立ちするまで」


 彼は両手を広げた。


「わかるかい? 裏切ったのは妻。だけど、その子を救うためにすべてを差し出さなきゃいけないのは、僕。裏切られた僕が我慢するしかない。そして、妻は僕に何の賠償もしなくていい。処罰も受けない。先輩は僕に泣き寝入りしなさいと、そればかりでなく、残りの人生も加害者に奉仕するために費やしなさいと言ったんだ。こんなことを言ったら、むしろ僕を逆上させるだけじゃないのか? 僕が先輩の立場で、事件になるのを防ごうと考えていたのなら、まずは同情する態度を見せて、距離をとらせるよ。それから、離婚することが十分な復讐になると説得するだろう。でも、結果として彼女は、妻と不義の子を擁護する立場を選んだんだ」


 俺は割って入って話を本題に戻そうとした。


「でも、サラトンさんは、先輩からそう言われて、むしろ納得してしまったと言いましたよね? いったい何に納得したんですか?」

「そこだね、要点は」


 椅子に深く腰掛け直して、彼は指を三本立てた。


「簡単に言ってしまうと、これが女の頭の中なんだ、と理解したということだよ」

「その、漠然としていて、よくわからないんですが」

「結論から言ってしまうと、次の三箇条に纏めることができる。女は地位に拘る。女は目先を見る。女は混沌である。以上」


 マホはサラトンを睨みつけた。


「結局、女を悪者にしたいってこと?」

「違う。僕はこう言った。女は混沌である、と。女は邪悪である、とは言ってない」

「どう違うんですか」


 涼しい顔で頷いて、彼は一つずつ答えていった。


「まず、地位からいこうか。大抵の場合、女性の関心事は地位に向けられている。これは人間はもとより、動物でもほとんど違いがない。多くの種類で、オス同士が争い、その勝者と交尾する生態がみられる。さっきマホ君は、コーザ君と結婚したらと言われただけで、食べたものを吐き戻してしまうと言ったけど、つまり、それくらい地位が重要なんだよ」

「言っておきますけど、私は相手がファルスでもお断りです」

「うん。それでマホ君、君の優れているところは何かな?」


 質問の意図が読めず、彼女は少しだけ目を泳がせた。


「つまり、君が何に自信を持っているかだよ。お金持ちの家の娘なのか、頭がいいのか」

「まぁ、私は共通試験でも帝都全体で一桁の順位は取れましたから」

「じゃあ、頭がいいわけだ。それが理由だね」


 改めて俺達に向き直ると、彼は続けた。


「僕が帝都で見てきた限り、高収入な女性、或いは高学歴だったり、実家がお金持ちだったりすると、みんな結婚しにくくなる。するとしても、自分より稼げない相手と結婚する女性はほぼいない」

「そんなの、生活に差し障りが出たら怖いんだから、当然じゃないですか」

「実家がお金持ちなら、支援してもらえるだろう? 実際に生活に困るという理由で稼げない相手を避けているわけじゃない。劣った相手と番うと、地位が下がるからだ。だってそうだろう? 君はファルス君が相手でも嫌だと言ったけど、彼は貴族だよ? お金持ちだ。どうすれば困窮するのか、教えて欲しいくらいだね。見た目だって美男子なんだし。だけど君は彼より自分のが上だと思ってるから、我慢ならないんだよ」


 ケアーナのことを思い出してしまった。彼女は、貴族の地位に留まることに強い執着を示していた。たとえ裕福でも、庶民の家に嫁ぐのは格落ちだと感じていたのだ。ただ、帝都の人間ではないから、ファンディ侯が結婚しろといえば、どんな相手でも従うしかないだろうが。帝都の女性は、その辺の実家の統制から解き放たれているので、自分の地位を下げるような選択をしないで済んでいる。

 そういえば、前世の主治医も言っていたっけ。女医は三分の一が未婚ですよ、と。稼げて社会的地位が高い場合、自分以下の相手と結婚するくらいなら、未婚独身を貫くのだ。


「女性は、本当に地位の生き物だと思うよ。幸せになることより、幸せに見られることの方が大切なくらいにはね。そして、地位が上がるとなれば、本当にどんなことでもする」

「あー、そうだな」


 ニドが言った。


「おら、コーザ、昨日言ったろ。俺の周りにゃ、俺を愛してる女なんざいねぇって。いるのは依怙贔屓する女だけ。わかるか? この違いが」

「えっと、いや」


 サラトンが呟いた。


「依怙贔屓……この文脈では極めて重要な概念だね」


 構わずニドは続けた。


「俺はいっつも偉そうにしてるんだ。例えば、楽な姿勢で座って、余計な力みをなくす。言葉遣いもいちいち丁寧にしたりなんかしねぇ。そうすっと、女どもが勝手に俺を格上の男だと思い込む。で、いったん格上となりゃ、そりゃもう俺の隣に座りたがるもんだから、なんでもするわけよ。金も貢ぐし、股も開くし……けど、あいつらは別に、本当は俺のことが好きなんじゃねぇんだわ。俺が偉い男に見えるから群がってるだけ」


 この言葉を聞きつけて、マホがニドを睨んだ。


「……あなた、どういう立場の人なの?」

「あん? 女衒だよ、女衒。一応、建前では店の用心棒ってことになってるけどな。頭の軽い女を引っかけて、俺の愛人兼稼ぎ頭に作り替える仕事してんだ」

「最低!」

「へへっ、誉め言葉、ありがとな」


 やり取りが終わるのを待って、サラトンは続けた。


「逆に地位が低い相手には、恐ろしいほどの残忍さを見せつけてくるんだ。コーザ君、さっき言っていたね。挺身隊の犠牲者のことをバカにされたって」

「はい」

「ニド君の話の裏返しだよ。要は彼女らは、君や君の戦友達に、死んでほしいと思ってるんだ。彼女ら自身、明確に自覚はしていないだろうけれど」

「どうしてそんな」


 サラトンは肩を竦めた。


「だって弱い男が生き残ったら、うっかり自分の夫になるかもしれないだろう? 自分の地位を下げる気持ち悪い相手が近寄ってきたら……そんなことになるくらいなら、いっそ死んだ方がマシなんだ。女性は本当にそういう風に感じる。要するに、君ら弱者に向ける女性の感情というのは、殺意そのものなんだよ」


 絶句するコーザを置き去りにして、彼は感慨深げに目を閉じて嘆息した。


「女を花に喩える表現は、それこそ世界中にあるが、僕には本当に適切に思われる。咲き誇る花畑を上から眺める分には、まさにこの世の楽園だ。こんなに好ましいものは他にない。一時、蜜蜂が花弁に取り付き、蜜を吸うとしても、この心優しい花々は、優しく風に揺れるだけ。ああ、花々は、女達とは、なんと素晴らしいものか。だけど、いったん地べたに這いつくばって、下から花々を見上げたら、どんな景色が見えるだろう。大地を噛み砕く瘤だらけの根っこ、棘だらけの茎。頭上に聳える美しい花弁には指一本触れさせまいとする萼。拒絶、すべてが拒絶でできている。まさしく! 花は女で、女は花なんだよ」


 そうして次の項目に移った。


「まだまだ深掘りはできるけど、女は目先を見る、これを片付けておかないとね。これは原理は簡単だ。女性は本当に狭い範囲を細かく見る。と同時に、広い範囲を見るのが苦手にできているんだ」

「抽象的すぎて、よくわからないんですが」


 マホのリクエストに、彼は頷いた。


「例えば、化粧やアクセサリーだ。本当に微細なところにまで手を入れるのだけど、その微妙な変化を、恋人である男性に察してもらおうとする。でも、男の眼には、そんな細かいところは見えていないんだ」


 言われてみれば、という気はする。前世でいえば、ネイルアートとか、ペディキュアとか。そんなのどうでもいいと感じていたのだが、彼女らは時間と費用をかけて、それらを整えていた。


「細かいことによく気が付くっていう長所じゃないのかしら」

「もちろん! と同時に、物事を俯瞰するのが上手ではない。時間、空間……立場の違い、そういうものを想像するのがね」

「そんなことないですよ。これでも私は……時間、空間と仰いますけど、少なくとも歴史上の出来事なら、世界中、だいたい暗記してますし」

「いや」


 俺は首を振った。


「少なくとも、お前は特にそうだった。去年の夏、何をしでかしたか、もう忘れたのか?」

「えっ」

「具体的には言わないが……お前は、自分にとって大事な、すぐ目の前のことをなんとかしたいばかりに、遠いところにいる大勢の人々の運命を危険にさらしてもいいと、そう考えていたよな」


 彼女のくだらない陰謀が実を結び、俺がタンディラール王に反旗を翻したら、なにが起きるだろう? ティンティナブリアの住人が虐殺され、家や農地が焼かれるかもしれない。それほどの重大事なのに、この女はまったく頓着していなかった。

 サラトンが纏めた。


「頭のよさとか、知識の問題じゃないからね。ある種の視野狭窄と言おうか。興味関心の対象が限定されていて、だからその外側で何が起きようとも、気に留めることがない。だから、記憶できないとか、わからないとかではない。単に遠くのことを考えない。その代わり、拘る部分については、それこそ何度でも見てしまう。だからなのか、ある意味、女性は我慢が苦手なところもあると思っている。ちょっと部屋が散らかっているだけでも、その不快感に耐えかねるんだ。もっとも、だからこそ、マホ君の言うように、細かいことによく気付けるのだろうけどね」


 俺はぼんやりと前世のことを考えていた。父は子供達の布団が古くなっても新調しなかった。それでボロボロになっていったのだが、それを毎日干す母には我慢ならなかった。隣近所に汚い布団を見られ続けるのだ。それで勝手に家の金でそれらを買い替えたのだが、結果として大喧嘩になったんだったっけ。

 この手の話は、いい面でも悪い面でも、よく聞くものだ。例えば、夫の趣味の鉄道模型を捨てる妻とか……


 それから、彼は改めて薬指を立ててみせた。


「この話も掘り下げるところがいっぱいあるんだけど、とりあえずは先に。三つ目、女は混沌である」

「もうそれ、意味が全く分からないんですけど」

「基本は、実はさっきの続きだ。女は目先を見る。ということは、物事を俯瞰せず、総合して考えない。ということは、好悪の情……つまり、主要な興味関心のことだが、その範囲外にある事物については、一貫性ある判断を下さないことが多くなる。すると、ニド君、何が起きると思うかね?」

「俺はあんたの生徒じゃねぇよ」


 この返事に、ケクサディブとサラトンは揃って失笑を漏らした。


「確かにね! じゃ、僕が答えを言おう。君がさっき言った、依怙贔屓だよ」


 マホは眉根を寄せて、意図を問い質したいと言わんばかりの表情を浮かべた。


「まず、君は自分から公正実現委員会に参加するくらい正義感が強い人物のはずだ。ということは、悪ではない。善人だね」

「ま、まぁ」

「だけど、君の興味関心の範囲は限られている。守りたい人はごく一部だ。だから、君は母子家庭の権利のためには戦うけど、コーザ君みたいな、あまり報われていない男性のことは、気にかけない」

「そ、それはだって」


 散々ここまでナチュラルに罵倒してきた相手の顔をチラチラ見ながら、彼女は言い訳を捻り出した。


「だって、いい歳した大人の男でしょ? 自力でなんとでもすればいいじゃない」

「できることはやってるよ。でも、結婚は相手ありきの問題じゃないか」

「母子家庭は大変なのよ? 子供を抱えた母親が、女手一つで苦労するんだから」

「僕からすれば、母子ってだけで勝ち組だよ。子供がいて、政府から補助金も出て、それで市民権まで貰えるんだ。迷宮で死にそうな思いをしなくてもね」

「というわけで」


 サラトンは二人を引き戻した。


「マホ君の善行には、偏りが出る。母子家庭にはたっぷり愛を注ぐのに、コーザ君みたいなのはほったらかしだ」

「で、でも、別にいいじゃないですか。みんながみんな、帝都中のことを気にかけるなんて無理です。私は私にできる範囲のことをやる。それの何がいけないんですか」

「だから、悪ではないと言ってるよ。ただ、だから君の行動には……党派性が生じる」


 ニドが頭をガリガリ掻きながら言った。


「だから依怙贔屓だろ? 難しい言葉、使うなよ」

「ははは、そうだな。コーザ君、女の子に嫌われるコツを教えてあげよう。それは、公平な態度をとることだ」


 公平。嫌な言葉だ。

 先日の、別邸でのリリアーナとウィーのやり取りを思い出してしまった。


「妻と結婚する前の、講師になって間もない頃なんだけど……一度、東方大陸に旅行に出かけたんだ。そこでお土産を買って帝都に帰って、同僚に配ったんだが……みんなに同じものを与えたら、当時親しくなりかけていた女性にガッカリされてしまったんだよ。女性に評価されるためには、まず地位の高さを示して、その次に特別扱いしてあげなきゃいけないんだ」

「わかるぜ。まず、俺がどれだけ偉いか、女の方にはどれだけショボいかを思い知らせてから、でもお前は特別ってやるわけだ」

「公平さというのは、本来は愛なんだ。薄く引き伸ばされた……だから、どんなに嫌いな人にも、一定の権利を認める。言い分は聞く。受け入れる。だけど、女性はそれを冷たいと感じることが多い。依怙贔屓でなければ、愛されていると感じられないんだ」


 少し脇道に逸れた話を、サラトンは引き戻した。


「で、マホ君。党派性が生じるということは、つまり……君が誰かを助ける時、他の誰かが犠牲になるかもしれない。しかも、犠牲になる側、負担を引き受けさせられる側の同意が、十分とれていないかもしれない。喩えるなら、田畑に水を引き入れる時、自分と自分の親戚のところにだけ、たくさん水を流そうとするようなものだ。でも、それをされると、他の農家は水不足で困ってしまう。すると、どういうことになるだろう?」

「だけど、しょうがないじゃないですか。もし、そうしないと自分の畑が枯れてしまうなら、とにかく水を入れないと。それぞれがそれぞれで活動して、問題解決していくしかないんじゃないかと」

「いや、それはおかしい」


 意外にもコーザが、はっきりとした口調で異論を述べた。


「それだと、最終的には一番強い人が全部独り占めして終わりになる」

「そうなるわね。だけど、値打ちのないものが潰されて、有用なものだけが残されるのは、ある意味で自然なことじゃないの?」

「僕は普段から養老院で働いているから、有用じゃない人を毎日見ているけど」


 ピンときた。

 賢さとは、興味関心の密度だ。そしてコーザは、毎日のように弱者を見て暮らしている。だからこそ、マホの論理の問題点に対して敏感になっているのだ。


「その理屈でいくと、僕の職場で世話されてるお年寄りは、みんな勝手に死ぬに任せる方がいいことになる」

「だから?」

「それ、女性用の養老院に入ってる人にも、同じことを言うの? 自分はもっと稼げてそんなところのお世話にならずに済むから、どうでもいい? だけど、母子家庭の母親になるような、僕の母親みたいな人は、まずあそこのお世話になるよ?」


 マホからすれば、守りたいのは女性なのに、その女性が犠牲になるかもと言われると、少し返答に困るところなのだろう。


「でも、問題はその先にある」


 俺が続きを言った。


「なによ、それ」

「どれだけ真面目に生きても、養老院の世話にならなきゃいけないほど落ちぶれたら見捨てられる……そのことを今の若者が知ったら、どういう選択をすると思う?」

「必死になって頑張るんじゃないかしら」

「逆。簡単に規則を破って、社会を裏切るようになる。だってどうせ、脱落したら放り出されるんだから。なんといっても、それはただの弱肉強食だ。助け合うことのメリットがなくなる」


 サラトンは頷きつつも、そこで俺達の話を止めた。


「つまり、そこには善悪がなくなるんだよ。いや、マホ君の頭の中では、何が善で悪か、明確なんだろうけどね。でも、それは君の中だけの話だ。好き嫌いと良し悪しが一緒になってしまっているんだ」


 そして、マホの瞳を覗き込むようにして、付け加えた。


「これが混沌ということなんだ。君は悪ではない。だけど、善でもない。善悪の区別を誰とも共有できないから。あらゆる出来事、物事が一般化されないから。だってそうだろう。一度に目にする範囲が狭ければ、そこに置かれた事象の共通点を拾い上げて一律に処理するということ自体ができない。一度に一つのものを、それこそ微に入り細を穿つように観察するばかりだから。一切は個別の問題として、それぞれが都度解決することになる」


 ケクサディブが口を差し挟んだ。


「それでは通じんぞ。まったくお前さんは……具体的に言うとじゃな、例えば一人の犯罪者が人を殺したとする。判決は、例えば死刑じゃな? では、次に人を殺したのがいたら、どうする。やっぱり死刑にするのが妥当ではないかね?」

「それは、当然じゃないですか」

「だが、何もかもを個別に受け止めて、一般化しない視点で毎回、都度考えるということをすると、裁判のたびに違う判決が出る。ある時は死刑、別の時には罰金刑……同じことをしても、罪の重さ、罰の大きさが変わる。つまり、同じ振る舞いについて、何がどれだけ善か悪か、定まっていないことになる。これが善悪の秩序そのものがない、混沌ということなのだよ」


 サラトンは、窓の向こうを眺めつつ、静かに言った。


「今、挙げた三つの特徴が、僕の人生における女性達の問題だったんだ」

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― 新着の感想 ―
眠る前にかなり哲学的?な話を読んでしまった。 現代日本だけにあてはまる話ではないし、この理論に反論するのはこの世界では大変でしょうね。いや、こういうのをまともに考える必要があるのは帝都だけなのかもし…
ファルスがウィーを助けた?のもある種、混沌だよね。必ずしも女だけじゃない。秩序に従うなら、少なくとも女(ウィーという女性)に戻してはいけなかった。
めちゃくちゃ偏ってるし強すぎる思想なのにその思考過程を克明に描写されてるせいでつい納得しそうになる 説得力がすごい
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