大きな手のひら。小さな手のひら。
どんだけ走っても歩幅が違いすぎるんだ。奴らはぐんぐん追いついてくる。おれらはどんどん追いつかれてる。
それでも希望はないわけじゃない。
向こう側が少しだけ明るくなっている。出口だ。
おれたちはあそこから入ってまっすぐに進んできた。だからあれが出口じゃないはずがない。
希望が見えたから、少しだけ足も軽くなる。
ぐんとスピードを上げておれと芦屋は光に向かって全力で走る。
走る。走るけど、やはり大男にはかなわない。
なんたってもう、すぐ後ろにいるんだ。
手を伸ばしているのか、なかなかその距離は縮まらなかったが、それも時間の問題だろう。
走る度にどんどん周りが明るくなる。
もう少し、もう少しでゴール出来る!
高揚感だけがそこにあり、恐怖はない。勝てる、と本気でそう思っていたけど、甘かった。
おれの服が微かに後ろに引かれた。
そして、もう一度、ちょいって感じで服がひかれる。
大男がすぐそこまで迫っている。
触られてるんだ!もうその程度の差しかないんだ!
血の気がひいていくのがわかる。
もうだいぶゴールは見えている。すぐそこだ。もう少しペースを上げれればなんとかなるかもしれない。
「ー~-~‐~~‐~ー-ー」
大男がなにか叫んでいる。怖い!本当に怖い!
さっきの高揚感はなんだ!夢か!
大男がついに指をフックのようにして服に引っ掛けた。が、その時おれは一瞬バランスを崩したおかげで大男の指が外れて助かった。
でも、もう次はない。次は多分掴まれる。
大きい手のひらで掴まれる。
速く!速く!速く!
速く逃げなきゃ!二人とも死んじゃう!多分そういう奴らだ!おれたちを捕まえて食おうとするに決まっているんだ!
だから、逃げなきゃ。そんなのは嫌だから、逃げなきゃ!
必死になって走っていたとき。おれは、光の中から伸びる手を見つけた。
すがる思いでその差し出された手を握る。
次の瞬間、一気にグイッと穴から引っ張りだされていた。
「〜~ーーー〜~~-~--」
大男は奇声を発しながら穴の中から手を伸ばしてきたが、どうやらそこは、奴らには狭くて通れないらしい。
「おれたち、助かったんだよね?」
はぁはぁと肩で息をしながら芦屋がたずねてくるからおれも、あぁ、助かった。と短く答えた。
二人はしばらく動けずに、そこに座り込んだまま息を整えていた。