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ほらあな  作者: 松田
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火種

「〜ー~ーー〜-」

大男の一人が突然奇声を発すると他の大男も騒ぎ出した。

これはまずい、何かわからないけどとにかく何かがまずい。

そう思う。けれど動けない。

怖かった。

自分より一回り大きい男達が洞穴の中で火をたいていることが、そいつらが突然奇声を発したことが。

人間はい来ていれば誰でも、少なくとも三回は未知と遭遇すると言われている。

おれの初めての未知との遭遇はとんでもなく恐ろしいものだった。

「何やってんだ!早く逃げるんだよ!」

そう言って手を引っ張って貰っていなかったら今頃、ただ大男達を眺めているしかなかったろう。

走る。ただ走る。

なりふりなんて構っていられない。フォームを気にしてる余裕もない。

今はただ、全力で土を蹴って前に進むことしか考えられない。

芦屋も走る。

おれは足が遅くいつも置いていかれがちな子供だった。

だけど今回は違った。

おいていかれたくなかった。置いていかれたら死ぬと思った。

奴らも追ってきている。

この穴は広いから、奴らが自由に動き回れるだけのスペースがある。

結果、奴らはすぐに追いついた。

当然だ、自分たちより歩幅の大きい奴に走って勝てるはずがない。

走る早さに大事なのは足の回転だと言うけれど、歩幅だってそれなりに重要だ。

奴らはすぐ後ろにいる。

ドタドタとめちゃくちゃな走り方ですぐ後ろに迫っている。怖い

「遅い!もっと早く走れ!」

芦屋は言うが運度能力の差だ。こればっかりは仕方がない。生まれ持ったものなのだ。

「無理だよ!待って…置いていかないで!」

「置いていかないから早く来い!」

「置いていかないで!お願いだから!おれほ置いていかないで!」

必死で叫んだ。必死に走った。

芦屋は持ってきていたさっきおじさんに貰った布団を奴らに投げつける。

布団は奴らの前でぶわっと広がり魚を捕まえる網のように奴らの一人に絡みつく。

するとどうだろう。他の奴らは絡みついたやつが前でもたつくから一緒になってもたついていた。

その隙に逃げる。走って走って奴らが見えないところまで来ると少しだけ心に余裕ができた。

「もう、大丈夫なのか?」

おれは尋ねるとそんなわけないだろ、と怒られた。

今はすごく芦屋が頼もしく感じる。けれどなぜか、そんなところに少しだけ怒りを覚える。

火の粉が着けば後は簡単だ。風が吹くだけですぐ燃え上がる。

「大体!お前がこの洞穴に行こうとか言わなきゃこんなことになってないんだ!」

自分でも何に怒っているのか、なぜ怒っているのかわからない。

「この穴を見つけた時も、お前が興味本位で入ろうなんて言ってなきゃこんなことになってないんだ!」

良く分からないまま流されるのを感じた。

「大体昨日も!なんで冷蔵庫のプリン勝手に食べるんだよ!」

でも、止められない。

「ごめん」

そう言って芦屋はおれの後ろに回って背中をグンッと押す。

さっきより早く走れた。

「本当にごめん。それでも、置いていくわけにはいかないから」

あぁ、おれが女だったら良かったのに。

そしたら、芦屋と…。芦屋…

おい!もう少し自分で走れ!と後ろで芦屋が叫んでる。

尋常ではない慌てぶりだったので少しだけ振り返ってみると大男がもう見える位置にまで近づいていた。

現実は無情だ。簡単に自分の世界に行かせてはくれない。でも今はそんな現実に、少しだけ感謝したりもする。

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