土の森
疲れたー!と芦屋が騒ぎ出すのも無理はない。
この穴は一体どこまで深いんだろうか。ただでさえ雨に降られて走ってきたから疲れているというのに穴の中はいつまで経ってもおわりがみえない。
おれも疲れてきた。
芦屋を励ますつもりでもっと奥に行くと鍾乳洞とかあるかもよ?とふざけてみたが、洞窟じゃないんだからあるわけ無いだろ。と半笑いで返されてしまった。なんか馬鹿にされてるみたいだ。
でもまあここに鍾乳洞はないかな、絶対…多分…
だってここはさっきからどれだけ歩いても頭の上も足の下も土!土!!土!!!
たまに気の根っことかが
飛び出してるけど本当にそんなもの。
本当にどれだけ歩いたんだろう。
「なあ、ここって昔…戦争してた頃の名残なんじゃないか?」
と、不意に芦屋は言い出した。
「防空壕ってこと?」
「そう、防空壕。土の中だし可能性はあるよな。人もいっぱい死んでそう」
「やめろよ、幽霊とかいやだぞ」
こういう話は本当に苦手だ。しかもこういう時に限って神経が敏感になってるから普段気に止めないような音も気になって余計怖い。
ん?今なんか聞こえなかったか?と、芦屋は言うが怖いので無視した。
それにおれには本当に何も聞こえていなかったんだからしょうがない。
あれ?そもそもここ周りに土しかないから変な音なんて立ちようもないじゃないか。
芦屋にはそう教えてやればいいんだ。
「おい、芦屋、よく考えろ。どこも土で覆われてるんだから変な音なんて立つはず無いだろ」
まったく、芦屋はおっちょこちょいだな。(やれやれ)
「や、でもさっき声みたいのが…」
「黙らっしゃい!」
音が立つはずもないのに芦屋はまだなにか聞こえたという。多分空耳だ。お前の記憶の中の音がこのタイミングでたまたま漏れただけだ。
そう諭すと芦屋はひょっとこみたいに口をすぼめて黙った。こいつはなにか考えるとすぐこういう顔をする。
それからは芦屋も何も言ってこず二人で黙って歩いた。
もうだいぶ奥まで進んだはずだが未だに終わりは見えてこない。
でも、なんだか奥の方がさっきより少しだけ明るい気がする。ほんの少しだけど。
このまま行くと山の反対側に出るんだったりして。
と思っていると、またなんか聞こえた!と芦屋が騒ぎ出した、が、今度はおれにも聞こえた気がする。
多分この奥からだろう。
「なあ、本当に幽霊かもな」
ふざけたことを言う芦屋を置いてスタスタ歩を早める。
今はとにかく外に出たい気分だった。
多分ちょっと明るく見えたのは外に繋がってるからだ。奇妙な音の正体も雨が止んで登山客がわいわい喋りながら山登りしてる音だ。
そう信じて歩を早めた…が…そこは出口なんかではなかった。
頑張って歩いて、やっと見えた希望の明かりは勘違い。
歩いた先にあったのは、何人もの大男が焚火を取り囲む姿だった。