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異世界冒険記  作者: 昼飯前
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えっ!?

「えっ!?」


明らかに今初めて聞きましたよっていう感じで周りを見渡すルイス。それに同意する奴は残念ながら居ない。

このままだと空気が悪くなりそうなので、ルイスをフォローする。フォロワーってやつだ。


「まあ、強いて言うなら炎属性かな。でも、他の属性とあんまり変わらないよ」


スタスタと席に戻りながら答える。これ以上質問に答える気はないという意思表示だ。

それに対して空気を読んだ教師が次の方、と自己紹介を続ける。


「スーヴェル・マリトンです。得意魔法は――」



ところ変わって休み時間。初対面のやつばかりなので、大体のちびっ子どもは周りを警戒している。が、そんなことお構いなしの奴だっている。そう、ルイスのあんちくしょうだ。あいつ自己紹介の時に目立つようなことしやがって……。

今のところ知り合いが俺だけっぽいから、窓際からわざわざ廊下側二列目の俺の席に来る可能性が高い。来たらデコピンを一発見舞ってやろうか。


なんて物騒なことを考えていると、トントンと背中を叩かれる。

――来やがったな!


グルンと体を反転させ、その勢いを利用して鞭のように腕をしならせ、力を溜め込んだ人差し指に更に威力を追加する。

フリッカーデコピンッ。


「セイッ!」


「あうぅ」


パチンッと、小気味良い音を立て、必殺のフリッカーデコピンの餌食となったルイスは、涙目になりながらも俺に反撃の言霊を投げ……あれ? ルイスじゃないぞコイツ。


「ご、ごめん……」


額をさすりながら、俯き気味に謝る誰かさん。……やっちまったぜ。


「ああ、いや、ごめん、間違えた……」


どどどどうするぅ!? 勘違いではあるが、完全に俺が悪い。どう見方を変えようが俺が悪いぞこれ。

いや、俺二割、ルイス八割ってところか。やっぱりアイツは後で締める。

けどまあ、まずは目の前の問題を処理しなければならない。確か、スーヴェル・マントン君だったか。


「本当にごめん、マントン君……痛かったか?」


失意のどん底にありそうなくらい俯いているマントン君に、なるべく俺は優しく言葉を掛ける。オジサン怖くないよー。ほらお菓子だよー。


「……マリトン」


「ん?」


なにやらボソボソと小声でしゃべるマントン君。空気の重さは百万トンなんつって。


「僕の名前は、スーヴェル・マリトン、です」


負の連鎖とはこのことか……。ルイスと間違えてフリッカーデコピンをかました上に、名前を間違えるなんて。

どうすればいい? いや、選択肢は一つしかない。


――謝罪だ。心の底からの謝罪だ。それしかない。

謝る気持ちの現われか、自然と両の手を机につき、頭を下げた。


「フリ……デコピンしてごめん。悪気はなかったんだ。本当に。あと、名前間違えてごめん」


俺の気持ちが伝わったのか、未だに額をさすりながらも、なんとかまともに応対してくれた。


「うん、いいよ……。でも、今度からは急にデコピンしないでね」


おぉ、神よ。信じている神なんていないが、俺はとりあえず神に感謝した。いままで悪いことしてごめんなさい。でも、髭もじゃとイルフィムへの復讐は見逃してください。

折角マリトン君が許して下さったんだ。このチャンスを無駄になんかしない。

俺のコミュニケーション能力が火を噴くぜっ!


「ありがとう……。ところで、どうかした?」


「ああ、いや、……何でもないよ」


終わった。


初対面でこれ以上深く聞くと変な空気になりそうだし、かといって俺のコミュニケーション能力じゃあ特に気の利いた言葉は出てこない。何かないか……。何かこの場を変えるジョーカーが。

その時、先ほどの神への感謝が功を奏したのか、誰かから声が掛けられる。


「ジョンダリア君っ! こんにちはっ!」


「フリッカーデコピンッ」


ヤツの方向へ振り向きながらも、その勢いを完全に乗せた一撃は、数をこなしたせいか、先ほどよりも威力、精度のどちらも上がっている。――これは決まった。そう確信した一撃は、圧倒的反射神経にあっさりとかわされた。


「うわっ! 危ないよ、ジョンダリア君」


……コイツ、出来るっ。マリトン君への一撃で実用性が確証された筈の我がフリッカーデコピンを、初見でかわすとはな。だが所詮は只の小手調べ。次の一撃は、確実に決める。


「誰にでも、デコピンするんだ……」


ピシリと、俺のゴッドハンドが固まった。まずい、これは言い訳のしようがない。俺、初対面のヤツには必ずデコピンするんだって言うくらいしか見当たらない。

っていうか、ルイスも今日会ったばかりで初対面に等しい。そうなると、あながち間違っていないのかも知れない。クソッ、自己紹介のときに特技はデコピンと言うべきだったか。

その考えとは裏腹に、俺の口は上手く誤魔化そうとしていた。改めて、俺のコミュニケーション能力が試される。


「いや、違うんだ。俺の地元では、フリ……デコピンが流行っていて、挨拶代わりにお互いにやっていたんだ。その癖がつい出ちゃって……。次からは本当に気を付けるよ」


苦しすぎる俺の言い訳に、マリトン君は訝しげに見つめてくる。やはり難しいか……。そう思われた瞬間。


「そうなんだっ! 僕、てっきり決闘を挑まれたのかと思っちゃったよ!」


なーんだ、なんて言いながらニコニコしたルイスに俺は心の中で感謝する。表には絶対に出さない。

それに感化されたのか、マリトン君はなんとか納得してくれたようだ。……ここがチャンスなのでは? そう思った俺は、すかさずコミュニケーション能力を発揮する。


「改めて、ジョンダリア・ウィザストンです。これから宜しくね」


そういって右手を差し出す。友好の証である握手を試みる。


「うん、宜しく、ジョンダリア君。それと、スーヴェルで良いよ」


おお、いきなり下の名前で呼べるぞ。それと、今回の功労者であるルイスも紹介してやらねば。


「スーヴェル君、こっちがルイス。この学園で迷子になってた所を保護して、それから仲良くなったんだ」


悪意が若干見え隠れするが、そんなことお構いなしにルイスは眩い笑顔で友好を深める。それにつられたのか、スーヴェルもなんとなく笑顔になる。

なんてコミュ力だ……。花山さんに殴られたスペック並みに驚愕していると、コミュニケーションの波に乗ってか、新たな乱入者が現れる。


「ねーねー、私とも友達になってよー」


ほんの少し頭の緩そうな感じで話かけてきたのは、野郎の輪に入ってくる勇気ある幼女だった。

サラサラの黄色いショートヘアを揺らし、人懐っこい笑顔でトコトコと近づいてきて、スッと左手を俺に差し出す。

左手って確か、あまりいい意味ではなかったような……。なんて考えていると、額に衝撃が走った。

パチンッとここ数分で聞きなれたデコピン音の発信源は、俺の額だった。ビックリして何も考えられん。


「あいたっ。……なにすんの?」


ジト目で幼女を睨む俺。コイツは敵だ。女だからって容赦するとでも思うたかっ。仕返しとして、もう少しこの左手を握っておいてやる。スベスベ、だな。


「あれ? こうするのが流行ってるって言ってなかったー?」


く、黒い。黒いぞこの幼女。未だに人懐っこい笑みを浮かべているが、俺にはその下に潜む悪意が見えていた。だが他の皆はそれに気付いていない様子。誰がいきなり初対面のヤツにデコピンするのが流行ってるって言ったんだ? ……そうだよ、俺だよ。

こんな気持ちなんだな、いきなりデコピンくらうのって。


「スーヴェル君、さっきはいきなりフリ……デコピンしてごめん」


やられる側の気持ちを理解した俺は、今の正直な気持ちをスーヴェルに告げた。なんて酷いヤツなんだ俺は。


「ねーねー、デコピンしないのー?」


スーヴェルと見つめあい、新たな友情が芽生えんとしていたとき、未だに左手を握っている腹黒幼女から質問が挙がった。

振り向くと軽く首を傾げながら、右手で――先程デコピンしやがった手で額の髪を上げ、俺のデコピンを待っている。


――ほぅ、いい度胸だ。


俺は幼女の要求に応えるように、フリッカーデコピンを――ここで放つのは素人ってやつだ。

玄人は全く違うね。先程のフリッカーデコピンと同じプロセスを辿り、全く違う結果を出す。


ビュンッと空を切り、風を裂く一撃。若干わくわくしている幼女に対して、このデコピンは酷か。いやだが、ヤツは挑戦してきたのだ。あまつさえ、俺に先制攻撃を加えるという愚行を犯してまで。

ならばこちらも全力で応えるのが義理というもの。


蛇のようにしなり、蜂のように刺す。額の真ん中――ではなく、こちらから見て右隅に寸分の狂いもなく放たれた一撃は、真ん中に来ると思い込んでいる幼女には確実に予測不可能であろう。


虚を突かれた一撃に若干仰け反る幼女。ついついやり過ぎたかと思ったが、敵に情けは掛けられん。


「いったーい。でも、楽しいねー」


そんな馬鹿な。俺のデコピンはスーヴェルを涙目まで追い込んだ一撃だぞ。それに加え、幼女へのデコピンは俺のこれまでのデコピン人生を賭けて放たれた、大人気ない一撃だったはずだ。

それに耐え、それどころか楽しいとまで言われてしまった。

幼女よ、お前がナンバーワンだ。


「それじゃあ、あたしはナーノ。これからよろしくねー」


そういって未だに握っている左手をブンブン上下に振る幼女こと、ナーノ。デコピンコミュニケーションのお陰か、なんだか距離がかなり縮まった気がする。あれ? 実はデコニケーションって結構いいんじゃね? なんて思えてきた。


「あ、うん。よろしくナーノちゃん。俺はジョンダリア・ウィザストン。気軽にジョンって呼んでいいよ。それから、こっちがルイス君で、俺の後ろの席がスーヴェル君」


近くに居たので、とりあえずナーノちゃんに紹介する。よろしくーなんて言いながら、ルイスとスーヴェルにデコピンをかますナーノちゃん。それに若干困惑しながらも、なんとなくでデコピンを仕返す二人。

ナーノちゃんは楽しいねーなんて言いながら、自然と別の場所に行った。


残ったのは野郎三人と微妙な空気。


デコピンコミュニケーション? こんなの絶対流行らねーよ。

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