とぼとぼと、
とぼとぼと、今日も残業で疲れきった体を引きずり家路へつく。
社会に出て三年目になるが、いまだに上司に怒られる日々が続いている。
早く下が入ってこねえかなぁ、なんて思うのも仕方ないと思う。
雑用はやるし、引き継ぎもやるしで、俺のメモリーはオーバーヒートしそうなのだ。
去年後輩が入ってきたのだが、残念ながら違う部署に配属された。
くそっ、しっかり採ってくれよ里山さん(上司、三十八歳、微笑みながら仕事を振ってくる。既婚。奥さんは結構美人だった。現在課長職に就いており、上からの信頼も厚い。更に――)
「って、どうでもいいか……」
とぼとぼと、真夜中の住宅街を歩く。
皆きっと俺ぐらい、俺以上に苦労しているだろうし、キツイだのめんどくさいだの、言って何か変わるわけでもない。
ふと暗闇を照らす街灯に目を向ければ、懸命に虫が光に向かい突っ込んでいる。
コツン、コツン、と、何度も突っ込んでいる。
「根性あるなぁ……」
しみじみと爺くさい事を思いながら、コンクリートで出来たブロック塀の角を曲がる。
やっと着いたぜボロアパート。
住人は俺を含め十人。気のいいオッサンと優しいおばあちゃん達だ。
築何十年か知らないが、安かったため借りている。
二階の最奥の部屋の為、階段をいつものように平然と、しかし内心恐々としながら登る。
一段一段登る度にギギィや、ミシィなんて音をたてるんだぜ?
まあでも、こいつには実績がある。
俺の隣室である岩下さん(土木作業員、体重推定九十キロの筋肉の鎧だ)を二年近く支えているのだ。大船に乗ったつもりで行こう――
「おんっ!!」
バキッと、嫌な音がした。
一番体重が乗った瞬間の出来事である。
そのまま俺は見事に階段の隙間に落ち、しかし反射的に動いてしまったせいか、後頭部を強烈に階段に打ち付けた。
久しぶりの激痛と共に、俺の意識は落下した俺とは対照的に、天高く昇っていった。と思う。
走馬灯は無かったな。ということはきっと生きているのだろう。
しかし、言ったそばから階段から落ちるって、運がないな。