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「どうでした?」
「水は出た。後は、ガス台に火をつける所だな。そっちは何かヒントあったか?」
「ありましたよ、風見鶏さんから」
ほら、とミケがシアンを前に突き出す。
『…机を90度回転させて、Rを右の位置に持ってくる?
蛇口の二番煎じな考え方ですけど、まずは素直に…。
もしかしたら、Rを右に見る位置に移動した視線の先かもしれませんが。
いや待てよ、Rightが正解などを意味する場合は…
ガスコンロの下が正しいとかで、コンロの受け皿を外して、ガス管を繋ぐとか?!』
「…珈琲分けてあげたくなるブレインだな。少し落ち着けって」
「大丈夫ですよ、RとUについての関係を一生懸命考えて下さっているようですから」
「そうかね。そいじゃ一個ずつ試すかな。どれ、机を……っと」
ラーツが机に手をかける。ふんぬっ、とかいう色気のない声が漏れたのは気のせいではないだろう。
「……ダメだな、動かない」
ひとしきり踏ん張った後、ラーツが腰を叩きながら体を起こした。
「机をコケさせるのは無理そうだな。先に動かせるのが分かってたら別だが」
「Rを右に見る、ってのは合ってそうなんですけどねー」
「そうだなあ。受け皿は、アタシが見た時にはなかったし。というか、受け皿見つけてたらブレインに判るような表記で先に示されるはずだし。ないものは想像されても出て来ないしなあ、他に何かあったっけか」
「ありますよ。ホワイト軍曹さんが、『u・・・ under(下)?』って」
「Uが下か。Rを右に見立ててUが下だとすると、ミケから向かって左側がU《下》って事になるな。こう、垂直に立ってた十字を右にコテッと倒したものと考えてさ」
とりあえずこの辺り?と十字の左をラーツがコンコンと拳で叩く。
その瞬間、十字がフッと机から消え、ガス台の方で火の点いた音が聞こえた。
「おお!」
「正解、ですね」
笑い合い、二人で台所へと移動する。
予想通り、そこでは輪を描いて燃える炎が、水の入ったケトルを温めていた。
「結構進んだなあ」
「そうですね。ラギ・ラガさんの方は大変そうですけど」
「ん?あいつ何か面倒なシナリオでもやってんの?」
「はい。何か、サバイバルっぽいのを……」
「……」
「……」
「まあ頑張れ、としか言えないな。なあに、何とかするだろうよ」
伊達にゲーム歴長くないし、と自分の事棚上げでラーツが威張る。
その間にも、温められるケトルの先から、立ち昇った湯気がガス台後ろの鏡を白く曇らせ始めていた。
「ラーツさん」
「うん?」
「見て下さい、鏡。何か表示されましたよ」
「あ、ホントだ」
湯気が当たった鏡が白く曇る中、曇らなかった部分が文字を描き出している。
『LEE。左九十度、左右反転、左九十度、左右反転──MENU裏』
「ロック…はアルファベットじゃなかったよなあ。アタシ一度間違えたけど」
「そうですね、食器棚の三桁も出口の四桁も数字だったはずです」
「そうだったな。で、MENU裏っていうとNEWSか?」
「そうです。ほら」
と、持っていたメニューをかざしてミケが裏を見せる。NEWSの文字は変わっていない。
「LEEとNEWSか……」
あと一歩だなあ、とラーツが腕組みして天井を仰ぐ。
湯気のせいか、うっすらと白くなった天井が、どういうわけかブレインの一人を彷彿とさせた。
現在の所持品
★NEWSと書かれたメニュー
店内状況
★ガス台後ろの鏡(湯気で曇っている)
★三桁の数字で開くロック(コーヒーカップの入った食器棚)
★四桁の数字で開くロック(出口の扉)