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その肩で、鸚鵡がクルルと喉を鳴らした。
ラーツが目を丸くする。
「受信か? ベリー」
出番だな、と口端を引き上げて肩の上の鸚鵡──ベリーに軽く手を伸ばす。
それから受信表示を見ると、ブレイン名、nishoからの通信だった。
「よっしゃ!」
思わず両手でガッツポーズをかます。
ついさきほど、ブレインマニュアルが復活したばかりだが、それに加えてヒントも得られるとはラッキーな日だ。
「ベリー、いい子だ」
と、ナッツやチキンに関する妄想をとりあえず頭の隅に追いやって、メッセージに目を通す。
やや通信に難があるのかノイズ混じりだったが、重要な部分はきちんと読み取れた。
『時計の色と時間を並べると「赤3→橙6→黄2→緑5→青9→藍5→紫3」
色はこの際考えないで、針の位置。
ついでに、3で始まり3で終わっているので、3時の針の位置を0。(というのも数学とかで角度を扱う際、普通この位置を0度と考えるから)
すると色順に「赤(0度)→橙(-90度)→黄(60度)→緑(-60度)→青(180度)→藍(-60度)→紫(0度)」』
「なーるほどっ」
ぽんと手を打つ。
何かにつけて先走りしがちで、少し前、三桁パスについての助言を頭文字と勘違いしたような性格のラーツでも、この指示なら読み間違えようがない。
さっすが!と小声で賞賛して蛇口をひねる。くるくると解答通りに、手際よく回す。そうして最後の紫まで回した途端、ぽんっ、という音がして蛇口からビニール製のくしゃくしゃに丸められたメモが飛び出し、それを追って綺麗な水が流れ出して来た。
「あ、詰まってたのか」
メモを開き、そこにあるR=Rightの文字を確かめる。ふむ、とひとりごちて天井を仰ぎ、またメモに目を戻す。机の十字の下は、下だけれど「右」を示すらしい。十字が横倒しになっていると考えれば早いのかも知れない。
続けて送られて来た風見鶏のヒントには、『RすなわちRedの時計の指す時刻3時を下方向に見立て、メモの順番通りに、時刻を示す角度で蛇口をひねる』とあったが、Rの意味が違う点が惜しい。
それと時刻を近くして、ホワイト軍曹からのヒントで『R=Roof(屋根)』とあったが、水道から出て来たメモの内容が、それとは違うRの意味を告げている。
「Rか……」
鸚鵡を撫で、メモをポケットに突っ込み、ケトルに水を入れてコンロに乗せる。
けれど、点火しようとしてもカチッカチッという乾いた音がするだけで、一向に火はつかなかった。
「何か詰まってんのかな……っと」
顔を近づければ、ガス台の隅に机と十字マークが書いてあるのが見える。
おそらく、ミケの方の仕掛けを解かないと、ガスがここまで来ないのだろう。
一方――
「これじゃないのかなあ」
頬杖をつきながら、ミケは首を傾げていた。
ブレインから、ナッツ皿がヒントから外れた事を見る事ができても、プレイヤーにはそれが判らない。
外部のブレイン、あるいはどこかでシナリオクリアに勤しんでいる仲間から連絡が入れば別なのだが──。
「みゃっ!」
シアンが受信を告げる。
それに気づいて皿回しを止め、シアンの方を向いたミケに、シアンがもう一声鳴いた。
「みゃお」
「ラギ・ラガさんから?」
「みゃん!」
シアンがふわっと羽を広げて胸を張る。
『メモの水滴マーク=このメモを濡らすor同じ水滴マークを持つものがある場所で、これを使うという意味。ナッツ皿裏の水滴マークと時計マーク=時計についてのヒントが、水に関係する場所にあるorこれが置かれていた場所にあるという意味/ラギ・ラガ』
発信時刻はだいぶ前だ。発信してから受信するまでに、結構な時間がかかったらしい。
断絶するよりマシとは言え、ブレインからの受信に比べると、やや不便さが拭えない。
「あれ?」
通信が切れる間際に見えた、向こうのプロローグ。
生き残るためとか脱出がどうのとかこうとか──どうやら、あちらが次にチャレンジするハメになるシナリオは、こっちとは打って変わって物騒かつシビアなものらしい。
「大丈夫かなあ……」
古参のプレイヤーだから、大丈夫だと思いたいけど。
そう思って顔を曇らせたミケの視界に、ふと、メモ片手に歩いて来るラーツの長身が映りこんだ。
現在の所持品
★メモ(R=Rightと書かれている)
・NEWSと書かれたメニュー
店内状況
・水の入ったケトルが置かれたガス台(後ろに四角い鏡)
・三桁の数字で開くロック(コーヒーカップの入った食器棚)
・四桁の数字で開くロック(出口の扉)
★十字のオブジェ(机上。下方に「R」マーク)