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オワタ・オンライン【∞】  作者: 水沢 流
シナリオ1:美味しいコーヒーは如何?
4/14

「じゃあ、私はカフェオレで」


 そう言って、ミケがメニューを置く。

 その途端、みゃおん、とシアンが受信を告げた。


「どうしたの? シアン、って――」


 ミケが目を見開く。視界に、ホワイト軍曹の名と解答が飛び込んで来たからだ。

 いわく、『NEWSは東西南北』。


「東西南北!」


 思わず尻尾がピンと立つ。確かに、NEWSはニュースではなく、北(N)・東(E)・W(西)・S(南)の略だ。十字キーを東西南北と考えれば、《N》マークもうなずける。


「すっごい……すごいね! シアン!」


 感激に顔を輝かせてシアンと見つめあうミケに、ぐるっと店内を一周してきたラーツがにやっと笑った。


「な? すごいだろ?」


 とん、と自分のこめかみを指差して、ラーツが得意げに胸を張る。


「世の中にゃ、優秀なブレイン様が沢山いるんだよ。面白いだろ?」

「そうですね……。あ、もう一件受信だ! 壊れた風見鶏さんから」

「うん?」


 ミケの後ろから、ラーツがシアンを覗き込む──。


「えっと、MENWのWをひっくり返すとM、だから一致しないSが正解……だって」

「な、何だってー!?」

「みゃ!?」


 ラーツの大声にシアンが逃げた。ミケも同じぐらい驚いた。

 ぶわっと尻尾と耳を逆立てたミケが、おそるおそるラーツを振り返る。


「ら、ラーツさん?」

「いや、今さっき拾った写真がメニューの裏を映した写真でさ、そこに『-MENU』って書かれてたんだよ。メニューからメニュー引いたら綺麗サッパリなくなるじゃん、って思ったんだけどさ、NEWS-MENUなら確かにSとWとUが残るよな」

「そうですね」

「でさ、ついでに↓↑↑↑って矢印があったんだけど、この通りにするとMENUからU、NEWSからSが残るわけだ」

「うんうん」

「で、Sは(南)で下だろ。あっは、すっげえ頭いいブレイン達が控えてるぜ! 運営より一歩先に行ってる! アタシがメモみつけるよりも先にSの仕掛けに気付くんだもん。NEWSのブレインといい、嬉しいね、最高だ! あたし達ツイてる!」


 ぎゅっとミケを抱きしめてから、喜々としてラーツが十字の下を押す。

 途端にメニューが消え、机から十字がひとつせり出してきた。ちょうど、オブジェのように机に十字が立つ感じだ。


「綺麗!」


 ミケが目を輝かせた。

 VRMMOでこうした仕掛けは珍しくないが、店内という状況とのミスマッチさが面白かったのだ。

 大概のVRMMOでは、店は買い物の為だけにあるものだし、むしろ買い物に謎解きが必要なんて設定をしたら、非難轟々になるのが目に見えている。

 だからミケも、そんなシステムに出会った事はない。ゆえにここが初挑戦だ。


 ブレインがいなければ、今ごろ右往左往していただろう。


 十字はおそらくガラス製。照明の色を受け、氷のような質感にうっすらとした金色を反射するその十字にも、よく見ればボタンがついている。


 今度は東西南北という事ではないらしい。たったひとつ、下にRと彫られている。


「面白いですねー」

「ここじゃ、こういうのが普通なんだよ。残念ながら、コ○ミコマンドはないけどな」

「誰に喋ってるんです?」

「盛大な独り言っ」


 ぱちん、とカメラ目線でウィンクをかましてラーツが笑う。

 ともあれ、仕掛けこそルール。それが、ROのシステムだ。


 ミケの前に腰掛けたラーツが、さきほど見つけたメモをひらひらと振る。

 落ち着いた間接照明の光が、メモを暖かく照らし上げていた。


「後は、この水滴マークの紙をどうするかだなあ。ミケ、何か他にみつけた?」

「私は水道の所で時計を見たぐらいですよ。そうそう、あれ、すっごく可愛い時計なんです!見ます?」

「おう、見る見る。どっちかって言うと、ミケが持つ方が似合いそうだけどな」

「あはは。ラーツさんだと、懐中時計って雰囲気ですもんね」


 他愛もない会話をしながら、そろって席を立ち、キッチンへと向かう。

 濡れたカウンターを横目に裏手に回り込み、水道の前まで移動すると、時計と蛇口が二人を出迎えた。


「こいつか」

「これです」


 ちょん、と時計をつついてミケがうなずく。時計はミケが見た時と同じように、電池なしで停まっていた。

 赤が三時、橙が六時、黄が二時、緑が五時、青が九時、藍が五時、紫が三時。

 いずれも長針は0分を指している。


「確かにかわいいな、これ」


 でも少女向きだ、と言いながらラーツがその一つを持ち上げる。ついでに後ろカバーを外し、つまみをいじり──少しして、眉をひそめながら、再び机に時計を戻した。


「電池がなくて動かないのかと思ったら、違うなあ。完全に固定されてる」

「壊れてるんですか?」

「いや、こう言うインテリアみたいだ。時計としての役割は期待されていないっぽい」

「インテリアでもかわいいじゃないですか。後でモールで探します?」

「いや、踏んづけそうだからいらない……」


 ラーツが渋い顔をする。リアルプレイヤーの生活もかなり雑らしい。

 他に目につくのはガス台だ。おそらく、水を入手したらここで湯を湧かすのだろう。


「戻ろっか」


 [ご自由にどうぞ]と書かれたナッツを数個、カウンターの皿から摘んだラーツがミケの肩を叩く。ミケが皿ごと席にそれを持って行こうとすると、その裏の水滴マークと時計マークが、良く磨きぬかれたダークブラウンの机に写り込んだ。


 ミケがそれに気づかないまま、机に皿を置く。

 待っていましたとばかりにラーツが手を伸ばし、その皿の中身を減らして行った。

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