表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オワタ・オンライン【∞】  作者: 水沢 流
シナリオ2:海底基地からの脱出
12/14

感想欄での解答は、1月5日、朝8時以降にお願い致します(次の執筆は1/10頃を予定しています)。

 ガラリ、と足場が崩れ去る――


(やべえ!)


 そう思った瞬間、ラガは反射的に膝を曲げていた。

 がくん、と視界が一段落ちて、胃の底を持ち上げられるような、独特の浮遊感が身を包む。

 急いで顔を上げると、さっきまでいた床の割れ目が、床裏と共に視界に入った。


「おおおッ!」


 がっ!と足場を力一杯蹴りつけて、跳び、その割れ目めがけて腕を伸ばす。

 指が触れると同時に急いで床を掴み、ラガは逆の手を下方へと伸ばした。


「フィズ!」


 叫び、下方から伸ばし返されたフィズの腕を捕まえる。

 その視界に、ガラガラと崩れ落ちていく、床だったものの破片が映り込んだ。


「……ッ!」


 ぎし、と肩の辺りで嫌な音がする。

 歯を食いしばり、その痛みに耐え、ラガは大きく息を吸い込んだ。


(ログアウトでは逃げられない――)


 そう思うと、恐怖が喉まで駆け上がって来る。

 ごくりと喉を鳴らしてそれを飲み下し、ラガは改めて両手の指に力を込めた。


「だ、大丈夫か? フィズ」


 声の震えを抑えつつ、フィズに問いかける。

 フィズが、何とも言えない表情で頷いた。


「…とりあえず、ね。そこ、上がれそう?」

「上がるっきゃねえだろ。ネットゴーストにはなりたくねえしな…」


 苦笑し、眉をひそめる。皮肉なことに、キャラの重量はきっちり計算されているらしい。

 フィズの外見――その子供の見た目に見合った重さが、支えている腕を通して感じられる。


 その事に辟易しつつも、改めて上を見上げると、弾が跳ねて当たった所に、文字が浮かび上がっていた。


 SSWAASSWWSSA


 Sを筆頭に、Cの字を描くような形で、ぐるりと配置されている文字の列。

 どの弾痕も同じ状態だ。


「何だ、ありゃ…?」

「さあ……?」


 フィズがラガに続いて首を傾げる。

 その時、ぺき、と小さな音が響いた。


 ――ラガが掴んでいる床からだ。


「マジ…?」

「…残念だけど、現実だねー」


 泣き笑いの声が二人から漏れる。

 枝が育つよう、みしみしぺきぺきと広がって行く床の割れ目。

 ぼこ、という音を立てて床が割れたのは直後の事だ。

 当然、そこを掴んでいたラガ達も崩落の道連れとなる。


 映画ならここから助かるのが定番だが、ゲーム世界は、思った以上に冷たいらしい。


「こんなのアリかよおおおぉ!」 


 落下するラガの声が、やたらと、辺りに反響する。

 その隣で同じように落下しながら、フィズは下方に顔を向けた。

 見えたのは、半径5メートルほどの半透明の袋。

 手裏剣のような印がついた、風船のような袋が、ぽっかりと水面に浮かんでいる情景だった。


 ――ばふん!


「ぶわっ!?」

「のわっ!?」


 二人を受け止めたその袋は、結構な弾力を持っていた。


 ばいんばいんばいん、と三度ほどバウンドしてようやく落ち着く。

 ひんやりと冷えた、例えるなら、饅頭の手触りにも似た袋の表面。

 そこに座り込み、改めて周囲を見渡す。

 途端に、その視界を、ほのかな光が掠めて行った。


「…すげえ」


 ラガが目を見開く。動く光は生物だった。

 よくよく見ると、光の中心に、30センチはあろうかと言うミジンコらしき生物が見えるのだ。

 それが半透明な体を光らせている。

 薄い、夕陽のような色だった。


 だが、襲いかかって来る様子はない。

 単に光源として漂っているだけなのだろう。


「…困ったなあ」


 一方のフィズの目は、周囲ではなく、すぐ近くの落下物に向けられていた。

 床と一緒に落ちてきたと思われる物体。つまり二つ目のケース。

 相変わらず、無傷のまま転がるそれへと、膝立ちで近付いてみる。


「そういや、これはまだ解けていないんだっけ……」


 さっきは失敗したし、とパネルを覗き込む。

 その肩で、リトル・リーフがぼんやりと光った。


「繋いで」


 フィズの指示に、リトル・リーフが従う。

 出力されたのは、ブレイン名、鬼笑からのヒント。


『旧約聖書にでてくる「大司祭の胸当て」の記述で、

nofeqガーネット 2列目

odemルビー 1列目

sheboめのう 3列目

yashfeh(碧玉) 4列目

となるので、二つ目のケースの答えは「4」』


「大司祭の胸当て……」


 ぽつりと、フィズがつぶやく。

 そうなると、このシナリオはそうした世界をネタにしているのだろうか。

 それにしては現代的だが。


「4、と……」


 そろりと答えを入力する。慎重になったのは、前の一件があるからだ。

 しかし何かが新たに転がって来るような事はなく、カチ、と小さな音がして今度こそケースが無事に開いた。


「よし」


 銃を手に取る。

 一つ目の銃は、ラガが弾を撃ち尽くしてしまったから、新たに銃が手に入るのはありがたい。


「後は──」


 立ち上がり、周囲に視線を巡らせる。

 端の方まで行くと、岸からかなり離れた水面に、ぽかりと浮かぶエレベーターが見えた。


「あれもか…」


 どうやら、通路ごとまとめて落下したらしい。

 水の中がどうなっているのかは気になるところだが、下手に足を滑らせたらシャレにならない。


 泳いで行くのは無謀だろう。

 なにしろ、水中に何が仕掛けられているか判らないのだから。


「ええと」


 改めてエレベーターに目を凝らす。

 その扉には相変わらずのヒントがあり、側面にはThis Shapeと書かれていた。

 エレベーターそのものの形状を示しているらしい。

 エレベーター、と言えば直方体が一般的だが、改めて見ると、それは限りなく立方体に近い形をしていた。


 This Shapeの下には0から9の文字――


「ん?」


 リトル・リーフが着信を告げる。


「ありがと。繋いでくれる?」


 フィズが例を言うと、リトル・リーフがブレイン名、楠田党利からのヒントをフィズに伝えた。


『英語で書いたときの囲まれた部分の数?

136 → [o]n[e] thr[e][e]six = 4

542 → fiv[e] f[o]ur tw[o] = 3

621 → six tw[o] [o]n[e] = 3』


「3、と」


 言うが早いか3を撃つ。だが、変化はない。

 フィズの眉間に皺が寄った。

 解法としては、非常に理に叶っていると思ったのだが。


「ねえ、ラガ。あれ、どうやって解くと思う?」

「………」

「…ラガ?」

「折れた…気がする」


 肩を抑え、真っ青な顔でラガが言う。

 フィズが血相を変えた。


「一番の戦力が脱落するってひどくない!?」

「ひでーのはお前の言ってるセリフだ!」


 ラガが涙目で吠えた。


 そんなラガを放置して、フィズが再び状況確認に戻る。


「…ったく」


 悪態をつき、ぐるりと辺りを見回す事数分、ようやく目が空間の明るさに慣れて来た。


 どうやら、自分たちは巨大な円筒の底にいるらしい。

 壁の所々に丸い排水管があって、そこからは水の流れた跡がある。

 足場の周囲を満たしている水は、おそらく、排水管から流れ込んで来た水だろう。


 壁の材質はのっぺりとした金属で、錆の浮いた銅色だ。

 排水管以外に目立つのは、壁に、不均等に張り巡らされた彫刻板。

 花、木、果実、そして氷。

 その四種類のレリーフが、まばらに、円筒の内を飾っていた。


「ラガ、この袋ってさあ」

「…何だよ」


 唐突に声をかけられたラガが、口を尖らせる。

 そんなラガに向け、ちょんちょん、と足場を指でつついてみせ、フィズはくてりと首を傾げた。


「この足場だよ。これって、風船みたいになってるのかなあ」

「あん?」

「いや、ほら。そこに排水溝があるじゃん。あのレリーフのどれか撃ったら、水が入ってきて水位が上がって、ついでに足場も上がって――ってなるんじゃないかなって」

「なるほどなあ」


 確かに、それは面白い手段かも知れない。

 最悪、この足場が底に固定されてて水位だけが上がったとしても、遠方の浮いているエレベーターまで泳いで行ってしがみつけば、水位の上昇の恩恵には預かれるだろう。

 エレベーターが開くか何かして沈む、という心配は、少なくともエレベーターの謎が解けるまでは必要ない。

 それが、この世界のルールだ。

 謎解きの対象となっている物は、謎を解かない限り変化しないのだから。


「だったら、適当に撃ってみるか?」

「もちろん、そのつもりだけど」

「…何かあったら助けろよ?」

「そりゃ助けるよ。戦力が減るのは困るしね」


 言うが早いか、ちゃっと銃を構えたフィズが、花のパネルを狙って撃つ。

 途端に、ガコン、とそれが壁の中に引っ込み、排水溝の一つから水が流れ込み始めた。


「ビンゴ!」

「だな。これで足場が固定だったら水没確定だが」

「そんな事ないと思うよ、ほら」


 そう言って壁を示すフィズの言う通り、周囲の景色が下がって行く。

 それは、間違いなく、足場が水位と共に上がっていることを示すものだった。


「あ、止まっちゃった」


 ある程度水位が上がった所で流入が止まる。

 次に実のレリーフを撃ってみたが、変化はない。


「順番があるんじゃねーの?」


 肩を抑えたままラガが言う。

 その背後で、フッといきなり光が消えた。


「………」


 嫌な予感に、ぎぎぎ、と音を立てて振り返るラガ。

 その目に、光るミジンコを捕まえてにゅるりと水に沈む、クラゲの足のような触手が見えた。


「フィズ、急げーッ!」


 ラガが叫ぶ。

 その間にも、二本目の触手が水面から伸びあがった。

 それが狙ったのはミジンコ、ではなくフィズ。

 それでフィズも察した。


 ――実は自分たちが、化けクラゲの上に乗っているという事を。


「早くッ!」

「は、早くって言ったって!」


 大急ぎで捕縛を逃れたフィズが、水中に戻って行くそれを見ながら声を裏返す。

 撃てるパネルは、まだ大量にある。

 この化けクラゲが沈む気配は、ない。

 だとすると、パネルを正しい順に撃ち、さっさと水面を上げて脱出するべきなのだろう。

 ――エレベーターの謎も気になるが。


「来るなら来いやァ!」

「!?」


 唐突な声に驚いて振り返ると、自由に使える方の手で、ラガが床の破片を握って臨戦態勢に入る所だった。


「君ってさあ…」


 片目を細め、慎重に狙うパネルを選びながら、フィズが薄い笑みを口元に浮かべる。


「本当に、来るゲーム間違えてたと思うんだ。けど、今は君で良かったと心から思うよ」

現在の所持品

・銃(FULL)


円筒状況

★エレベーターの扉

 136=4

 542=3

 621=?


★エレベーターの側面

 「This Shape」の文字


★天井の弾痕

 SSWAASSWWSSA


★壁のレリーフ

 花、木、果実、氷の四種

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ