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ピ、と無機質なビープ音が鳴る。
それに気づいたラガが視線を上げると、空中でラガのウィスパーが点滅していた。
ミケをはじめとする皆のウィスパーが総じて生き物の形をとっているのに対し、ラガのウィスパーはモノリスじみた平板のままだ。
設定時、ラギと形状について口論になった結果、デフォルトのまま使う事にしたからである。
「ホワイト軍曹…?」
ブレイン名をラガが読み上げる。
クリスマスみてーな名前だ、という感想が後に続いた。
そう言えばラギが何か言っていた気がする。ミケが、シナリオで不思議なブレイン達に助けられたと。
「ふむ」
つまり、この見慣れない名前もそのブレイン達の一人と言うことか。
そう考えると、悪戯な笑みが口元に浮かんだ。
「ハッピークリスマス? 復活オメ?」
チンピラのような、けだるげな口調でホワイト軍曹の助力を歓迎する。
それからフィズを見ると、まだ、フィズの方はボタン前で悩んでいるようだった。
『全押し2回、上1回下2回、上2回かな?』
ホワイト軍曹のヒントには、そうあった。
「へえ?」
ラガが、面白そうに口の端を釣り上げる。
なるほど確かに、この正体不明のブレインは優秀らしい。
「こいつはいい。フィズ、おい、フィズ!」
「何? 脳筋」
「お前、俺には容赦ねえよな…」
子供の顔してそのセリフとか、ラギだったら泣くぞと苦笑する。
ああ、だから俺の時なのか…。
変な所で納得できちゃったなあ、と一人ごちてモノリスに指を伸ばす。
助言サンクス。そう綴った文字をブレインへの伝言として、ラガはフィズをおしのけた。
「はいはい邪魔邪魔。そいつの答え、分かったからちょっとどけって」
「何それ。実はヤマ勘とか、そういうオチだったりしない?」
「ちげーよ、いいからみてろって」
言って、ボタン前に座り込んだラガが、ホワイト軍曹の指示通りボタンを押していく。
ピ、ポ、と押されるボタンが指が触れる度に青緑色に光り、それを押すラガの顔を、そのつど照らし上げていた。
全押し2回、上1回下2回、上2回。
全押しはXX。上一回はV。下二回はW。上二回はM。
だが、押し終えても反応はない。
「あれ?」
ラガが首を傾げる。
そこに近付いて来たフィズが、ちょんちょん、とラガの背をつっついて上を指し示した。
XXVMWのうち、V以外が消えている。
「Vは下じゃない?」
「ああ」
そっか、と納得する。
今になって言って来たという事は、途中までラガの操作を見ていて法則性に気付いたのだろう。
そうでなければ、とっくに自分でやっていただろうから。
「よし、もう1回」
Xで全押し。Vで下1回。Wで下二回。Mで上二回。
それを打ち直すと、ピ、と音がして今度はボタン全てが引っ込んだ。
「これで開くかなあ」
「多分。性格の悪いシナリオじゃねえことを祈るぜ」
そろりとスイッチから離れて、ラガが扉を睨みつける。
直後、ガコン! と大きな音がして、ぐらぐらと足場――もとい、エレベーター全体が揺れた。
「ちょ、うわっ! ラガ、間違えたりしてないよね!?」
「お、お前も一文字答えただろうが!」
慌てたラガがフィズに怒鳴る。
けれども心配は杞憂だったようで、やがて揺れは収まり、ゆっくりと扉が左右に開いていった。
「うわ……」
扉が開いてすぐ、声を上げたのはフィズだった。
通路の入り口の左右に一つずつ、門のように立てられた硝子ケースの中に、風変わりな銃がおさめられている。
ケースの表面には、サンドブラストで描いたような奇妙な文様がいくつもあり、下方の土台には入力欄と、いくつかのヒントが記されている。
「この武器、持って行くべき?」
ラガが問う。
「その方がいいんじゃないかなあ、何が待ち受けてるかわからないし」
フィズがうなずいた。
「フィズ、お前が俺を助けるっつー選択肢は?」
「やだよ。ボクが逃げる選択肢が最優先」
そんな自己中的発言をしたフィズが、すとんとパネルの前に座り込む。
同じく、パネル前に座り込んだラガが、露骨に嫌そうな顔をしたが知った事ではない。
んー、とラガが悩む声が耳に届く。
その後、神妙な顔をしたラガが、ぱし、と膝を叩いて言う事には。
「わかんね」
「あきらめるの早っ!」
フィズが思わず突っ込んだ。
――ヒントの内容はこうだ。
ONETHREEONE=4
THREETHREE=4
ONEEIGHT=5
EIGHT=4
EIGHTTHREE=?
字体が古めかしいせいか、ヒエログリフのようにも見える文字だ。
神秘的と言えば聞こえがいいが、場所が場所だけに、妙な不気味さを演出しているようにも思えてしまう。
殺風景も歓迎できないが、これはこれで嫌な感じだと、ラガがぶつぶつ文句を垂れる。
「文字数…じゃなさそうですねえ」
フィズが眉をひそめて腕を組んだ。
EIGHTは英字なら5文字だし、漢字なら二角。
ほかには…と考えていると、いつの間に隣にやって来たのか、ラガがヒントをのぞき込んでいた。
「4…か。エイト?」
「発音しても三文字だから」
「えいとぅ!」
「それっぽく発音しても無理だから」
「縦に読めばいいんじゃね?」
「一列目が読めないわけ?」
「じゃあ、どうしろっつーんだよ!」
「それを今、考えてるんだって!」
どうして、あんたみたいな奴と組むハメになるかなあ!と悪態をつく。
正直、ラガの方はROには向いていない気がしてならないのだ。
ラギはともかくとして。
「ま、いいや。また何か閃いたら言って」
そう言って気分を切り替えたフィズが、もう一つあるケースの方へと近付いていく。
こちらは、大きな魔法陣のような模様に、丸みのある文字でヒントが書かれている形式だった。
2=nofeq
1=odem
3=shebo
yashfeh=?
「…何語?」
少なくとも、耳慣れた言葉ではない。
だけど見た事があるような気がする、と検索を開始するフィズの向こうで、ラガが何かに気付いたように後ずさった。
現在の所持品
・なし
通路状況
★一つ目のケース
ONETHREEONE=4
THREETHREE=4
ONEEIGHT=5
EIGHT=4
EIGHTTHREE=?
★二つ目のケース
2=nofeq
1=odem
3=shebo
yashfeh=?