恋は命がけ
Sideコニー
コニーはピートにお願いごとをされた。
「王子様がね、婚約者のお姫様と直接話がしたいらしいんだ。でもね、王子様はあの通り五メートル圏内で会話ができない人だろう?コニーの力でなんとかならないかな?」
対人恐怖症の王子様に直接会話を求めるなど、なんという無理難題を吹っかけるのだとコニーは思った。会話ができないから対人恐怖症であるのに。しかし、他ならぬピートからのお願いである。
「お話できればいいの?」
「そう、なんとかならないかな?」
コニーの質問に、ピートが頷く。
今までも、なんとか近くで会話をさせようと周囲の人間が努力したそうだが、ダメだったらしい。
しかし、コニーはもう一度確認した。
「お話できればいいんだよね?」
「そうだよ」
「わかったー。行こうポチ」
「了解である」
ポチを後ろに引き連れて、コニーはお城の廊下を走っていく。
「今日も元気ねー」
「廊下は走るな」
「おやつがあるわよー」
いろいろな人から声を掛けられ、それらにいちいち挨拶してまわるコニー。そうして走っていく先は、とある魔術師の部屋であった。
「おじさんこんにちはー」
「くれぐれもドアを壊すな」
コニーがドアを開ける前に声をかけると、中から注意が飛んだ。これまでにコニーが三回ドアを壊しているのだから無理もない。そうっと開けたドアの先にいたのは、中年の男性であった。
「今日は何用だ」
「ちょっと道具を作るんだぁ」
コニーはにっこり笑って部屋の中まで入っていく。
この男性、実は都にいるおじさんのお兄さんであった。つまりはこの男性も母のお兄さんであり、コニーのおじさんなのだ。
「それはまた、何の道具だ」
「あのね、お話する道具なの」
コニーはさっそくおじさんの部屋の捜索を始めた。
Sideポチ
ポチのお城での生活は、実は忙しかった。
というのも、ポチが実施している調査についての項目が増えたからである。
「魔術師の血は胃腸によいのか滋養強壮に効くのかどちらであるか」
この質問に、一応聞いてやった父は胃腸によいのだと答えた。
そして今回会った母にも、同じ質問をしたところ。
「あらぁ?カゼを引いたときの飲むのではないかしらぁ?」
という、第三の意見が提示されたのだ。想定外である。
しかも、この調査項目は条件が厳しい。まず、丈夫な種族である竜はめったにカゼをひかない。ゆえに、カゼ薬としての効能を確かめるのは困難である。どうやったらカゼに効くという実証を得られるのかという難問に挑みつつ、今までの調査もこなしていたポチであった。
そんなポチに噛み付かれるのを警戒しているコニーのおじさんである魔術師は、この調査を意味が無いので止めさせるように他の魔術師から要請されていた。ポチの噛み付き被害が多数出ているのだ。何より恐ろしいのは、魔術師の血に効能があるという結果に至った場合であろう。常備薬代わりに連れて行こうとか他の竜が考えたらどうしてくれるのだ。
しかしこの被害の困った点は、ポチが噛み付くのは魔術師のみであるゆえ、他の城の者は他人事であることだ。ポチの調査結果を待っている者もいるのだとか。他人事だと思って面白がっているのであろう。都でも同様の調査を行っていたので、ポチは魔術師の間である意味有名になっているのであった。
そんなポチが、コニーが道具作りにかかりきりになっていてヒマなので、魔術師に気になったことを聞いてみた。
「王子様は五メートル以内で他人と会話するとどうなるのだ?」
じんましんが出るとか、しゃっくりが止まらなくなるとか。何か症状が出るのだろうか。そんなポチの素朴な疑問に、魔術師が答えた。
「泡を吹いて気絶するみたいだな」
そんな、森で突然クマに出くわしたのでもあるまいに、とポチは思った。
なんとも人生命がけな王子様である。