王子様襲来 後編
Sideコニー
ポチとの散歩の途中で出会った王子様は、親友のピートにどうしても相談したいことがあるそうだ。しかし五メートルの距離は、繊細な相談事をするには不向きである。メッセンジャーポチはがんばりすぎてへばっている。これで会話の手段を絶たれてしまった。
そんな絶体絶命(?)な状況を打破してくれたのは、意外な存在であった。
ばっさばっさと風を切る音がしたかと思ったら、コニーの家の隣の空き地に、青い竜が着地した。
「アオさんだ。こんにちわ」
久しぶりに遊びに来てくれた青い竜に、コニーは笑顔であいさつをする。
「おおコニー、元気そうだな。ポチはなにやらつぶれているが」
べちゃっとつぶれているポチを、青い竜は尻尾の先でつんつんとつつく。
「ちょっといっぱい動いたらつかれちゃったんだって」
「少し痩せるといい」
青い竜の厳しい意見に、ポチは尻尾を振るばかりであった。
しかし、青い竜は遊びにきたわけではないらしかった。
「これ王子、そろそろ帰らねばならぬぞ」
青い竜は王子様にそう言って身体を伏せた。
「あれ、アオさんが王子様を連れて来たの?」
普通の手段でやってきたにしては、妙に小奇麗な格好だとコニーだって不思議に思っていたのだ。なにせこの村は、街道から外れた辺鄙な場所にあるのだ。旅人は、以前おじさんがやってきたときのように、くたびれた襤褸切れみたいになっているのが通常である。
「そうだ。どうしても行きたいところがあると頼まれてな。日があるうちに帰るならばよかろうと思うたのだが」
王子様がこっそり村に入りたいというので、アオさんは村から少々離れた場所で待っていたらしい。だが心配して様子を見に来てみれば、案の定対人恐怖症な王子様は、目的遂行できずにいたというわけであった。
「だってまだ用件を話していないだと?短時間で意見交換を果たすなど、そなたには無理難題であろう。いっそ城まで共に来てもらえば万事解決ではないか」
青い竜の意見に、王子様は大きく頷いている。
「にーちゃん、王子様が一緒にお城に来てほしいんだって。お城ってどんなとこだったか、後でおしえてね」
コニーは青い竜のことばを兄に通訳してやる。地面でへばってつぶれているポチを、しゃがんでつつきながら。
「えー、城にいくのかぁ。遠いなぁ」
ピートはあまり乗り気ではないようだ。
「アオさんが送ってくれるよ。速いよ、びっくりだよ」
「うーん」
コニーのコメントに、ピートはうなる。青い竜に乗るということに心を揺さぶられているらしい。
「そうだ、コニーとポチも来るといい。城にはポチの身内がいるぞ」
青い竜が、突然そんなことを言う。完全に他人事だと思っていたコニーはびっくりした。
「えー、ホント!?」
だがポチは身内という言葉に心配したらしい。
「父ではあるまいな」
嫌そうな顔でポチが呟く。
かくしてコニーとポチは、ピートと共に城に行くことになった。
Sideポチ
城までの空の道のりを、今回は練習だということで、ポチは単独飛行をすることになった。
「ポチがんばれー!」
青い竜の背中で、コニーが応援してくれている。
しかし、風に巻かれてくるくると回っているポチは、正直コニーの声援など聞こえてはいなかった。特訓の成果で高い場所を飛べるようにはなったのだが、いかんせん風に遊ばれてしまう。はっきりいって風になめられていると言ってもいいだろう。
「竜としての威厳が足りないのではないか?」
青い竜はそんなポチの飛びっぷりを見て、かわいそうな子を見るような目をする。
「吐きそうなのである・・・」
回り過ぎて風に酔ってしまったポチなのであった。