王子様襲来 前編
Sideコニー
そのとき、コニーはポチと散歩をしていた。
「今日もいい天気だねぇポチ」
「うむ!散歩日和である」
のんびりと村の中を歩くコニーとポチに、村人たちは声をかけてくる。
「コニー!今度竜にのせてくれよ!」
「アオさんがいいって言ったらねー」
「ポチ、あんた少し太ったんじゃないかい?」
「む・・・、本日は少々食事を減らすことにする」
そんなふうに、村人たちと他愛ないおしゃべりをするコニーとポチを、じっと見ている姿がある。その姿は、一定の距離を保ってずっとコニーたちのあとをついてきていた。その者は小奇麗な服を着ており、ひと目で村人ではないことが分かる。つまりは、ずっとついてきていることが最初から周囲にバレバレであった。
「ねーポチ、あの人なにかなぁ」
「怪しい人間には近寄らない方がよいのである」
「そーだねー」
コニーとポチは、後ろからずっとついてくる不審者のことを気にしないことにした。
村人たちも、コニーたちに会いに来る見知らぬ人間に慣れていた。だから特別咎めることをしなかった。
そんなわけで、その不審者は村の中で放置されているわけなのであった。
不審者が、コニーとポチに声をかけることが出来ずに困っていると知らずに。
「にーちゃん、ただいまぁ!」
「おかえりコニー、ポチ」
家の表で作業をしていた兄に、コニーはぱたぱたと駆け寄る。
「何か面白いことはあったかい?」
いつものように村の様子を尋ねたピートに、コニーはにっこり笑顔で答えた。
「うん!怪しい人がいた!」
面白いどころか、事件である。ピートは心配気な表情をする。
「怪しいって、どんな奴だい?」
「あそこにいる人!」
と自分の後ろを指差せば、果たしてそこに先程からついてきていた不審者がいた。
「あのね、俺たちの散歩にずーっとついてきてたんだ」
「・・・。」
ピートが無言でその不審者の姿を観察した。
「なにしてるんですか?」
ピートが不審者に話しかけるも、返事はない。
「にーちゃん、とーちゃん呼んだほうがいい?」
コニーがピートに尋ねると、ちょうど家の中から母親が出てきた。
「あらあら、どうしたの?」
「かーちゃん、怪しい人!」
コニーが母親に不審者を示して説明する。
「あらあら、確かに怪しいわぁ。ここにいるはずのない人ですものねぇ。何してらっしゃるんですか王子様?」
Sideポチ
ポチは都から村に戻って、また身体がひとまわり大きくなった。コニーを背中に乗せることができるくらいの大きさである。しかし、コニーを乗せてはまだ飛ぶことができない。
「早く空のお散歩したいね」
とコニーにねだられたので、ポチはこれから一段と練習するつもりである。
火を吹くのは格段に上手くなった。青い竜のおかげで、コツをつかんだのだ。その甲斐あって、コニー一家は炭焼き仕事が楽になった。役に立ててポチとしても満足である。
本日のコニーとの散歩の途中で引っ掛けた不審者は、なんとお城の王子様であった。
王子様はコニーの兄の親友で、相談したいことがあってやってきたらしい。
この事実を聞き出すまでに、実に一時間を要した。なんでも王子様は、極度の対人恐怖症らしい。そんな性格でよく王子様家業をやっていられるなとポチは変に感心してしまった。
対人恐怖症の王子様は、今もこコニーたちから五メートルほど離れて立っている。これが、王子様が他人と接する時の適正距離らしい。
その距離を保とうとするならば、当然家の中での会話は無理である。その上王子様が小声でボソボソ話すおかげで会話がし辛い。そんな王子様とどうやって会話するかというと、王子様とコニーたちの間を、ポチがメッセンジャーよろしく行ったり来たりするのである。人間は怖いが動物は平気なようである。いや、動物ではなくポチはれっきとした竜であるのだが。
最近の運動不足もあってか、行ったり来たりの繰り返しで、少々疲れてしまったポチであった。
お久しぶりの「迷子の竜」であります。「都に行く」の続きになります。どうぞお楽しみください!