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【連載版】裏切られた最強女騎士は、二度目の人生で自由を選ぶ ~私は幸せだけど、元主の王太子は破滅しているみたいです~  作者: shiryu


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第30話 知らないことを知りながら


 表彰式のあとの社交界も、ようやく終わった。


 疲れはした。けれど、悪い時間ではなかった。

 会場を出ると、夜気が肌に触れた。


 昼間より冷えているはずなのに、室内に長くいたあとだからか、その冷たさが心地いい。


(……今日は、本当にいろいろあったな)


 私は会場の灯りを背にして、家へ向かって歩き出した。


 馬車を使うほどの距離ではない。

 むしろ今は、少しだけ歩いて頭を冷やしたかった。

 石畳を踏む音が、夜の通りに小さく響く。


 社交界帰りの馬車はまだ通っているが、少し道を外れると人通りはまばらだった。

 しばらく歩いたところで、背後から足音が近づいてきた。


「リュシア」


 聞き慣れた声、振り向くとノアールがいた。

 きちんとした社交用の服装のままだが、さっきまでの会場の中にいた時より、少しだけ肩の力が抜けて見える。

 彼は私に追いつくと、当然のように言った。


「家まで送る」

「一人で帰れるけど」

「知ってるよ」


 あっさり返される。


「でも、送る」

「……そうか」


 私は少しだけ息を吐いてから、素直に頷いた。


「じゃあ、行こうか」

「ああ」


 そうして私たちは、夜道を並んで歩いた。

 しばらくは、どちらもあまり喋らなかった。

 沈黙が気まずいわけではない。むしろ落ち着く。


 横にノアールがいるだけで、さっきまで会場で張っていた気が少しずつほどけていくのがわかった。


(……不思議だな)


 ルイーゼといると、賑やかで、明るくて、振り回される。


 でもノアールといると静かなのに、落ち着く。

 無理に何かを言わなくていい空気がある。

 私がそんなことを考えていると、ノアールが横目でこちらを見た。


「疲れたか?」

「少し、な」

「少し、ですむのがリュシアらしいな」

「……実際はかなり疲れた、の間違いかもしれない」


 私が正直に言うと、ノアールが小さく笑った。


「だろうな。今日はやたらと囲まれてたし」

「ああ、予想外だった」

「主に令嬢たちに」

「……あれは、どう対応するのが正解なんだ?」

「俺に聞くな」

「貴族だろう?」

「貴族だからって、令嬢に囲まれる側の気持ちは分からない」


 少しだけ呆れたような声。

 それが可笑しくて、私はほんの少しだけ口元を緩めた。


「ノアールでも分からないことはあるんだな」

「そりゃあるだろ」

「万能そうに見えるが」

「初めて言われたな、それ」


 ノアールが笑う。

 そのやり取りだけで、胸の奥が少し温かくなる。

 会場ではずっと、気を張っていた。


 でも今は、そういうことを考えなくていい。

 私たちはそのまま歩き続け、やがて私の家の前に着いた。

 ノアールが手伝ってくれて、住むと決めた家だ。


「着いたな」

「ああ」


 私は立ち止まり、ノアールの方を向いた。


 私は少しだけ迷ってから、胸の奥にずっとあった問いを口にした。


「ノアール」

「ん?」


「今回も、いろいろ助けられた」


 私がそう言うと、ノアールは小さく肩をすくめる。


「別に、大したことはしてない」

「している」


 私は首を振った。


「家を探す時もそうだったし、引っ越しの時も、社交界の時も。今日だってそうだ。……送ってくれているのも」


 言葉にしてみると、本当にいろいろ助けられている。

 いつの間にか、私の生活の中にノアールがいるのが当たり前みたいになっていた。

 だから、ずっと少し不思議だった。


「ノアール。なぜ、こんなに助けてくれる?」


 夜の通りが、静かになる。

 ノアールはすぐには答えなかった。


 視線を少し逸らして、また私を見る。

 その沈黙が、妙に長く感じた。


「……今さらだな」


 ノアールは小さく息を吐いた。


「まあ、いいか」


 そして、あっさりと言った。


「君が好きだからだ」


 その言葉は、まっすぐだった。

 冗談でも、からかいでもない声。


 一瞬、私は何も言えなかった。


(……好き)


 その言葉が胸の中でゆっくり広がる。


 嫌な感じはしない。むしろ、胸の奥がじんわり温かくなった。

 だから私は、考え込まずに、そのまま言った。


「私も好きだ」


 ノアールの目が、わずかに揺れた。

 一瞬だけ、何かを期待したような顔。

 でも私は、そのまま続けた。


「友達として、大事だから」


 次の瞬間、ノアールの肩から力が抜けた。


「……ああ」


 小さく息を吐く。


「そっちの意味でか」


 苦笑に近い笑いだった。


「まあ……そうだよな。リュシアだし」

「何だ、それは」

「いや、なんでもない」


 ノアールは額を軽く押さえて、空を見上げた。


「……でもまあ、そうか。友達としてでも好きなら、悪くない」


 そう言って笑う。


 少しだけ力の抜けた笑いだったけれど、無理に明るくしている感じではなかった。

 私はそれを見て、少し考える。


(友達として、好き)


 それは本当だ。

 ノアールといると落ち着く。隣にいても、変に気を使わなくていい。

 褒められると、嬉しい。一緒にいると、胸の奥が温かくなる。


 それはきっと、ルイーゼに対して思うのと同じ「好き」だ。


(……でも)


 ふと、思う。


 ルイーゼといると、賑やかで、明るくて、楽しい。

 ノアールといると、静かで、落ち着いて、安心する。

 どちらも好きだ。


 でも、同じ「好き」なのに、少しだけ違う気がする。


(……なんだろう、この違い)


 うまく言葉にできない。


 でも、嫌な違いではない。

 むしろ、少しだけ不思議で、少しだけ気になる。

 ノアールが、こちらを見た。


「どうした?」

「……いや」


 私は小さく首を振る。


「少し考えていた」

「珍しいな」

「そうか?」

「リュシアは考えるより先に動くタイプだろ」

「それは否定できない」


 私が言うと、ノアールが少し笑った。


 その笑顔を見ると、やっぱり胸が少し温かくなる。


(……この感じ)


 ルイーゼといる時とは、少し違う。


 でも、それが何なのかは、まだわからない。

 私の家の前に、静かな夜が広がっている。

 私は扉の前に立ち、鍵に手をかける。


 でも、すぐには開けなかった。


「ノアール」

「ん?」


「好きだと言ってくれて、ありがとう」


 そう言うと、ノアールは少しだけ驚いた顔をした。


「……それを真顔で言うのは、ずるいな」

「そうか?」

「そうだ」


 小さく笑う。その空気が、やっぱり落ち着く。


 私は扉を開ける前に、もう一度だけ思った。


(友達として、好き)


 それは間違いない。


 でも――それだけじゃない気もする。

 ルイーゼへの好きと、ノアールへの好き。

 同じだと思う。でも、どこか違う。


(……いつか、わかるのだろうか)


 今はまだ、言葉にできない。

 でも、もしそれがわかる日が来るなら。


 その時の自分は、きっと今より少しだけ、いろんなことを知っているのだろう。

 私は小さく息を吐いて、扉を開けた。

 家の中の静かな空気が、迎えてくれる。


「……ただいま」


 一人で呟いてから、思わず口角が上がる。

 私の二度目の人生は、まだ続いている。


 知らないことを、少しずつ知りながら。



ひとまず、本作の1章は完結です!

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

カッコいい女性を書くのが好きなので、楽しく書けて幸せでした!

皆様も楽しんでいただけたら幸いです。


面白かったら本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!

ブックマークもしていただくとさらに嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
とても楽しいお話でした。主人公はじめそれぞれのキャラが立っていて素晴らしいです。続編を楽しみにしております。
一章完結おめでとうございます! ノアールの「君が好きだからだ」に脳内で祝い楽器が鳴り響きましたが、リシュアの彼女らしい返しに『ですよねー』っておもいながら楽器を片付けましたw 色々変化しても変わら…
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