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【連載版】裏切られた最強女騎士は、二度目の人生で自由を選ぶ ~私は幸せだけど、元主の王太子は破滅しているみたいです~  作者: shiryu


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第26話 討伐作戦の指揮


 第一王子アーヴィンは、焦っていた。

 焦りという言葉では足りないほどに、胸の内は焼けていた。


 魔物掃討作戦の失敗。

 あの一件が、すべての始まりだった。


 あの日から、何もかもが狂った。


 父王の視線は冷えた。

 弟たちは隠そうともせずに嘲った。


 社交界では、言葉を飾りながらも失敗をなぞられる。


 期待外れ。王太子の器ではない。


 そんな言葉が、見えない刃のように四方から飛んでくる。


(……あれさえなければ)


 アーヴィンは何度も思った。


 最初の汚名。最初の失点。

 それが、あの魔物討伐作戦だ。


 ならば、答えは単純だった。


 もう一度、魔物討伐作戦を成功させればいい。

 失敗を上書きするほどの戦果を出せばいい。


 そうすれば、すべては元に戻る。

 いや、元に戻すしかない。


 だが、現実はそう簡単ではなかった。


 前に失敗した作戦の後、似たような規模の討伐案件は他の王子側に回された。

 逆にアーヴィンには、もう同規模の指揮権はなかなか下りない。


 わざわざ第一王子に任せようとする者は少なかった。


(なら、作ればいい)


 魔物がいないなら、用意すればいい。

 討伐の場がないなら、作ればいい。


 王都が危機に陥れば、その場で自分が先頭に立てばいい。


 危機を作り、救う。

 それが一番早い。


 アーヴィンは、国庫の中に保管されている魔道具のことを知っていた。


 魔物を操る類の、危険な品。

 正規に使われることなど、ほとんどない。


 だからこそ、逆に管理が甘い部分がある。


 それを知っているのは、王族という立場と、彼自身が裏で情報を集めてきたからだ。


 盗み出すのは、難しくなかった。

 いや、難しくはあったのだろう。


 だがアーヴィンは、自分の周囲に

 「難しいことをどうにかするための人間」を置いてきた。


 金で動く者。

 弱みを握った者。


 忠誠ではなく恐怖で従う者。


 そういう者を使えば、国庫の奥から一つ魔道具を消すことくらい、できないことではない。


 そして――成功した。


 魔道具は使えた。

 魔物は集められた。


 王都の外、少し離れた位置に百体ほどの魔物を集め、待機させることにも成功した。


(百体程度なら、問題ない)


 アーヴィンはそう判断していた。


 百や二百で王都が落ちるわけがない。


 騎士はいる。

 魔術師もいる。

 弓隊もいる。


 しかも今回は、足元の悪い沼地ではない。


 視界も開けている。

 地形も悪くない。


 前回の失敗の一番の理由は足場だった。


 ならば今回は、同じ轍は踏まない。


 魔道具で遠くに待機させておき、

 合図と同時に王都へ向かわせる。


 その前線に自分が立ち、堂々と指揮を執る。


 そして騎士たちに勝利をもたらす。


 完璧だった。


 少なくとも、アーヴィンにはそう思えた。


 だから今――


 彼は王都の城壁外、騎士たちの前に立っていた。


 夜風が外套を揺らす。

 魔物の群れが遠くで蠢いている。


 背後には騎士たちの気配。


 前には、自分の作った舞台。


(これで、取り返せる)


 前の失敗も。

 失った支持も。


 すべて。


「予定通りのようだな」

「そうですね、殿下」

「あれは合図をすれば、こちらに向かってくるのだろう?」

「はい、その手筈になっています」

「ふっ、そうか。これで前に失敗した作戦の挽回ができるというものだ」


 近くにいた騎士たちには聞こえないように喋る。


 だが王子が前線に立っているという事実だけで、

 場の空気は強張っていた。


 本来ここを任されていた指揮官の騎士が一歩前に出る。


 年配で、傷の多い男だった。


 王子に礼を尽くしながらも、その目は不安を隠していない。


「殿下。念のため申し上げますが、前線は魔物を引きつけてから対処するのが――」

「黙れ」


 アーヴィンは即座に言った。


 その声に、騎士の言葉が止まる。


「俺がここにいる意味がわからないのか?」

「……」

「目の前に敵がいる。なら、突き崩す。それだけだ」

「しかし、まだ距離を――」

「俺の言うことが聞けないのか?」


 その一言で、騎士は口を閉ざした。


 周囲の空気が重くなる。


 だがアーヴィンは気づかない。

 いや、気づいても気にしない。


 今必要なのは結果だけだ。


 そして――


 魔物が走り出した。


 闇の中で、黒い波が王都へ迫る。


 牙を剥き、土を蹴り、

 唸り声を上げながら一気に距離を詰めてくる。


 アーヴィンは剣を抜き、高く掲げた。


「騎士達よ、王都を守れ! 迎え撃て!」


 その声に、前線の騎士たちが一瞬迷う。


 本来の指示と違う。


 いつもなら引きつけ、陣を保ち、

 盾と槍で受けてから後衛が削る。


 だが王子自ら命じた。


 従うしかない。


「突撃!」


 アーヴィンが叫び、騎士たちが前へ出る。


 盾が動き、槍が突き出され、列が前へ流れる。


 最初は、うまくいった。


 先頭の狼型が槍で貫かれる。

 猪のような魔物の首が斬られる。


 小型の群れは盾に弾かれ、踏み潰される。


 夜の草原に血が散り、咆哮が途切れていく。


 アーヴィンはその光景に、口元を歪めた。


「ほら見ろ」


 満足げに言う。


「俺の指揮でいいじゃないか。ふん、簡単だな」


 だが――


 崩れ始めた。


 前に出たことで、騎士たちの隊列が伸びた。


 横並びだったはずの壁が、波打つ。


 突撃の速度が違う。

 踏み込みの強さも違う。


 前へ出る者。

 出遅れる者。

 魔物を深追いする者。


 綺麗な線が、あっという間に崩れていく。


 魔物はただ前から来るだけではなかった。


 横へ流れ、回り込み、騎士の脇を抜ける。


 群れの奥から別の種が飛び出し、混戦に噛みつく。


「うわっ!?」

「後ろだ! 後ろ!」

「隊列を戻せ!」

「くっ! すぐには戻れない!」


 悲鳴が混じり始める。


 騎士たちが、ばらばらになっていく。


 本来、引きつけていれば良かった。


 その場で待ち、前から来る敵だけを処理できた。


 後衛の弓と魔術も活きた。


 だが今は前へ出てしまったせいで、

 敵も味方も入り混じる。


 槍が振れない。

 盾が壁にならない。


 魔物に背を取られた騎士が、

 叫ぶ間もなく喉を裂かれた。


 混乱は一気に広がった。


「な、なんなんだ!?」


 アーヴィンが怒鳴る。


「なんでこんなに弱いんだ、騎士達は!」


 前線は崩れている。

 叫び声が増えている。


 アーヴィンはさらに叫んだ。


「弓騎士や魔術師は何をしている! 後ろは何のためにいるんだ!」


 だが矢は飛ばない。

 魔法も撃たれない。


「なぜ矢や魔法を撃たない!?」


 本来の指揮官の騎士が低く答える。


「魔物と騎士が混戦しています。下手に撃てば同士討ちになります」


「同士討ちになるから撃たないだと!?」


 アーヴィンの声が裏返る。


「そんなの甘えだ! しっかり狙って撃てばいい!」


 そして――


「同士討ちになったところで、弱い者が死ぬだけだろう!」


 沈黙が落ちた。


 騎士たちの視線が、アーヴィンに集まる。


 侮蔑の視線だった。


 その時。


 魔物が一匹、列を抜けた。


 一直線にアーヴィンへ飛びかかる。


「ひぃ!?」


 アーヴィンは尻餅をついた。


(死ぬ……!)


 だが――


 魔物は届かなかった。


 刃が閃く。

 魔物の身体が、空中でずれる。


 次の瞬間、真っ二つになって地面に落ちた。

 血が弧を描く。


 アーヴィンは呆然と顔を上げた。


「ご無事ですか?」


 女の声だった。


 そこに立っていたのは――


 ドレスの裾を破り、動ける形に変えた女騎士。


 青い髪が風に揺れ、血を払ったばかりの剣を持つ。

 蒼い瞳。


 リュシア・エルフェルト。


 かつて自分が誘い、断られた女騎士が――


 今、アーヴィンの前に立っていた。




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性格悪くて無能。良いところなし。
無様に失禁でもしてれば良いのに
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