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【連載版】裏切られた最強女騎士は、二度目の人生で自由を選ぶ ~私は幸せだけど、元主の王太子は破滅しているみたいです~  作者: shiryu


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第25話 作られた危機?


 城壁までの道は、いつもより遠く感じた。

 馬車は使えない。人が溢れているから。


 私とノアールは、走って城壁へと向かった。

 城壁の近くに着くと、空気が違った。


 夜の冷えの中に、緊張が混じっている。

 門の周りには騎士が集まり、指示が飛び、矢筒が運ばれていた。


「上へ行くぞ」


 ノアールが言う。

 私も頷いて、城壁の階段を駆け上がった。


 上は風が強い。

 髪が頬に張りつき、刺繍の入った袖が揺れた。


 城壁の縁まで行き、外を見下ろす。


「……多いな」


 暗い野の上に、影がうごめいていた。


 目が慣れてくると数が分かる。

 百体以上。


 狼型の魔物、猪のような魔物、二足で走る小型――混ざっている。

 群れというより、寄せ集めだ。


 だが――距離がある。遠い。

 弓を構えた騎士が並び、魔術師が詠唱の準備をしているのに、まだ射程に入らない。


 届かない距離で、魔物が止まっている。


(……おかしい)


 魔物は本能で動く。人や家畜を見れば襲うはず。

 城壁には人間が並んでいて、松明の光もある。


 餌が見えているのに、なぜ止まる。

 ノアールも同じことを考えたらしい。


 隣で眉を寄せ、口に出した。


「なぜあそこに魔物が待機しているんだ?」

「……私もそれを考えていた」


 私は城壁に指を置いたまま言う。

 ノアールは外を睨み、低い声で呟いた。


「自然じゃない」


 私はノアールを見た。


「ノアール。なぜあそこにいると思う?」


 ノアールは少しだけ沈黙し、答える。


「わからないが……操られている可能性があるかもな」

「操る? 魔物を?」

「ああ」


 ノアールは指先で空をなぞるように言った。


「魔法や魔道具で魔物を操ることができる。だが使える魔術師は少ないし、その魔法が込められている魔道具も数が少ない」

「じゃあ、操られていない可能性も――」

「いや」


 ノアールが即座に遮る。


「あれはほぼ確定で操られてる。じゃないと、あそこで止まっている理由がない」


 その言葉が、胸の中で重く落ちた。


(誰かが、意図して集めた。誰かが、意図して止めている)


 誰が。何のために。

 それがわからないのが一番不気味だ。


 ノアールが、ぶつぶつと呟く。


「他国の者か? だが最近の情勢で、こんな形でいきなり攻めるか……」


 ノアールは賢いので、他国との関係や情勢などがわかっている。

 だから答えに辿り着くかもしれないが、私にはわからない。


 ただ――魔物が襲ってきたら、斬る。

 私は剣の柄に触れた。今の格好でも剣は持てる。


 城壁に上がる時に、ここに用意されている予備の剣をもらった。


 いつもの剣でもないし、いつもの格好でもない。


(でも、やる。やれる)


 そう思った瞬間だった。


 下がざわついた。

 城壁の下、外側。


 騎士たちが並び、槍を構え、盾を重ね――その列が乱れる。


「……何だ?」


 ノアールが身を乗り出す。


「誰だ、あれ。どこかの馬鹿貴族か?」


 場違いな服装の者がいた。

 騎士たちの間を、当然のように歩いている。


 護衛が付き、側近が付き、灯りが集まる。


 私は目を凝らした。

 視界が、嫌な形で焦点を結ぶ。


「……アーヴィン」


 口から漏れてしまった。

 漏れた瞬間、自分でも嫌な汗が背に浮く。


 ノアールが、私を見る。


「第一王子?」


 そして、下へ視線を戻す。


「……なぜここに?」


 その疑問は私にもあった。


 緊急事態だ。こんな時、王族は王宮で守られる。

 城壁の外側に出る理由がない。


 たとえ城壁の近くにいたとしても、まず戻るはずだ。


(なのに、いる。しかも外側だ)


 アーヴィンは護衛に囲まれながら、何かを側近と話していた。

 口元を隠していない。灯りの位置も良い。


 私は、視線を細くした。


(……読める)


 回帰前。暗殺の気配を察するために。情報を拾うために。

 私は嫌というほど、こういう技を鍛えた。


 耳ではなく、目で聞く。

 口の動きで言葉を拾う。


 アーヴィンの唇が動く。側近の唇が動く。


『予定通りのようだな』

『そうですね、殿下』

『あれは合図をすれば、こちらに向かってくるのだろう?』

『はい、その手筈になっています』

『ふっ、そうか。これで前に失敗した作戦の挽回ができるというものだ』


 私は、息を止めた。


(……予定通り。合図。作戦の挽回)


 私はノアールへ顔を向けた。


「ノアール、あの魔物の大群はアーヴィン第一王子が操っているらしい」

「は? ……まさか、聞こえたのか? あれだけ離れているのに?」


 ノアールが眉を上げる。

 私は首を振った。


「いや。読唇術だ。口の動きで言っていることがわかる」


 ノアールが一瞬、言葉を失った顔をする。

 そして、呆れたように息を吐いた。


「……なるほど。すごいな」


 特にすごくはない、ただ練習しただけだから。

 私は短く言う。


「アーヴィンは、あれを予定通りと言った。合図で魔物がこちらへ向かう、とも」


 ノアールの目が細くなる。

 彼は下を睨み、舌打ちしそうな顔で言った。


「つまり――第一王子が魔物を呼んだということか」


 声が低い。


「前に魔物掃討作戦の失敗があった。だから、その失敗を払拭するために……実績作りか。迷惑な奴だ」


 私は唇を噛みそうになるのを堪えた。


(まさか……自分の実績のために、王都の外に百体以上集める?)


 普通の発想ではない。


 でも、彼は王子だ。立場があり、焦りもある。

 それを理解はできる。


 理解できるが――許容はできない。


 私は思ってしまう。


(回帰前と違うのは、私が近衛騎士になっていないことだけだ)

(その時は、こんなことをしていなかったはずだ)


 なぜこんなことをしているのか。


 私が近衛にならなかったから、焦ったのか。


 別の何かが崩れているのか。


 いや、今は考えている場合ではない、と頭の中で叱る。


 その時、ノアールの声が、短く鋭く落ちた。


「……来るぞ」


 私は外を見る。

 遠くの黒い群れが――動いた。


 最初は一体が走り出した。


 次に十。次に百。


 波が崩れるように、一斉に王都へ向かって走り出す。


(合図……したようだ)


 目に見えない何かが走ったのか。

 魔法か。魔道具か。


 城壁の上が一気に騒がしくなる。


 弓が引かれ、魔術師の詠唱が始まり、指揮官の声が飛ぶ。

 下でも騎士たちが盾を前へ出し、槍を構える。


 そして――下から、聞こえた。


「騎士達よ、王都を守れ!」


 アーヴィンの声だ。

 よく通る。よく通るが、薄い。


 熱を作っているのに、芯がない。


(自分で呼んでおいて)


 そう思った瞬間、胃が冷える。

 私は深く息を吸って、吐く。


 剣の柄を握る。


 ノアールの横顔を見る。

 彼はもう、戦う顔をしていた。


「リュシア」

「わかっている」


 私は短く答えた。


「止める。全部」


 城壁の外から迫る黒い波。

 城壁の内側で逃げ惑う人々の気配。


 そして、作られた危機。


 私は、足元のドレスの裾を一度だけ持ち上げた。

 そして、躊躇なく破いた。


 王都を、目の前の人々を、守る。


 ――自分が選んだ、この自由を。



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