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【連載版】裏切られた最強女騎士は、二度目の人生で自由を選ぶ ~私は幸せだけど、元主の王太子は破滅しているみたいです~  作者: shiryu


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第23話 ルイーゼの目的と狙い


 ルイーゼ・ローディアは、今この瞬間――心の底から思っていた。


(連れてきて正解でしたわ)


 社交界の会場。

 その中心から少し外れた場所で、リュシア・エルフェルトは令嬢たちに囲まれていた。


 囲まれて、戸惑っている。


 ――その戸惑い方も、信じられないくらい魅力的だった。


(いえ、違います。私、何を言っているの)


 ルイーゼは顔に出さず、微笑みを保ったまま、内心で首を振った。

 リュシアのドレス姿は、美しくて、格好良くて、尊い。


(見たかったんですもの)


 正直、それが一番だ。

 今日、社交界にリュシアを連れてきた理由。


 自己満足。純度百の自己満足。


 リュシアの青い髪に合わせて、白と青の刺繍を入れた。

 しかも素材は軽く、動きやすい。

 足捌きが悪くならないよう、裾の広がりと重さの配分を調整させた。


 もちろん、本人は「戦えそうだ」と言っていたが。

 そしてもう一つ、連れてきた理由もある。


(自慢したい)


 これは、もっと正直な感情だ。


 自分のお姉様を、皆に見せたい。

 見せびらかしたい。


(……性格が悪いわね、私)


 わかっている。わかっているのに、止まらない。


 けれど――ルイーゼが今日ここに彼女を連れてきた理由は、自己満足と自慢だけではなかった。


 リュシアは、自分の価値をわかっていない。

 これは、断言できる。


(お姉様は、あまりにも――無自覚ですもの)


 ルイーゼは彼女の情報を集め終わっている。

 騎士団での評判。訓練の記録。武功の詳細。模擬戦の成績。

 勤務態度。上官の評価。下の者の嫉妬。


 それらを全部掬い上げて、なお。


(底が見えませんわ)


 第二騎士団の中では最強。それは確定だ。

 そして第一騎士団の中でも、彼女に勝てる者は数えるほどだろう――そう判断している。


 もし彼女が女でなければ。平民でなければ。

 十八歳にして、王族の近衛騎士になっていてもおかしくない。


 実際、第一王子アーヴィンからスカウトを受けたという話もある。

 もしリュシアがそれを受けていたら。


 本当に彼女は近衛騎士になっていたかもしれない。


(……蹴ってよかったですわ)


 ルイーゼは微笑みの奥で、そう思う。

 アーヴィンは王子の中でも強引で傲慢だ。


 リュシアがアーヴィンの剣になったら、どうなるか。


 簡単に想像がつく。

 誉れの言葉を与えられ、誇りを煽られ、命を削らされる。


 そして使い終わったら――古い剣を捨てるように、見捨てられる。


(そんなの、許せるわけがありません)


 ルイーゼは、胸の奥で静かに思う。表情は変えない。


 だからこそ、今日だ。

 リュシアが社交界に慣れることは大事だと、ルイーゼは思っている。


 強い彼女が、この先活躍しないわけがない。


 活躍すれば、注目される。

 注目されれば、立場が変わる。


 いつか爵位を取る可能性がある。

 騎士が爵位をもらう道は少ない。


 近衛騎士になって功を立てるか、あるいは殉職して名誉として与えられるか。

 けれどリュシアは今、近衛騎士ではない。


 普通の騎士だ。

 だからこそ、別の形で浮かぶ可能性がある。


(お姉様は、いつか絶対に……爵位を取る)


 ルイーゼは確信している。


(だって、私のお姉様だもの)


 本当なら、自分の騎士になってほしい。


 そう思う瞬間は何度もある。

 だが、それは彼女の道を狭める。


 自分の側に縛ることは、ルイーゼの望みではない。


(お姉様の幸せこそ、私の幸せ)


 その結論だけは、揺れない。

 心の底から、そう思っている。


 ――だから、社交界に連れてきた。


 主な理由は自慢と自己満足だ。そこは否定できない。


 でも、彼女の未来のためでもある。

 そして今、予想以上の事態になっていた。


 リュシアは、思った以上に令嬢たちに好かれた。

 好かれた――というより、刺さった。


 令嬢を抱きとめ、貴族令息の手首を捻り、謝罪を引き出したあの一連。


 あれは、社交界の定型から外れている。

 外れているのに、誰も否定できない正しさがあった。


(本当にさすがお姉様……)


 ルイーゼは誇らしく思い――そして同時に思った。


(好かれすぎですわ)


 まさかあれほど格好いいことを、いきなりやるとは。


 今も令嬢たちが、潤んだ瞳でリュシアを見ている。

 リュシア本人は戸惑っている。戸惑っているのに、礼儀正しく受け止めている。


 その姿がまた、刺さる。


(……嫉妬、ですわね)


 ルイーゼは内心で少しだけ歯噛みした。


(私のお姉様なのに)


 ルイーゼは一歩、リュシアの隣へ出た。


 令嬢たちの熱が、さらに上がりかけている。

 今止めないと、たぶんこのまま囲いが完成する。


 ルイーゼは上品に、しかしはっきり言った。


「皆さま。お姉様が困っておりますから、少しは落ち着いてくださいませ」


 令嬢たちが、はっとして肩をすくめた。


「あっ……すみません、ルイーゼ様」

「わ、私たち、つい……」


 リュシアはその様子を見て、落ち着いた声で言う。


「いえ。皆さまが私に興味を持ってくださるのは、嬉しいことです」


 その言葉の温度が、柔らかい。


 社交界の着飾った言葉ではなく、リュシアの言葉。


 令嬢たちが、さらに潤んだ瞳になる。


(……増えた)


 ルイーゼは内心で思う。

 抑えたはずなのに、むしろ火を注いでしまった気がする。


 けれど、同時に満足もある。


(私のお姉様、優しいですもの。そりゃ刺さりますわよね)


 その時だった。


「リュシア?」


 聞き慣れた声。落ち着いた、少し低い声。

 ルイーゼは振り返る前から分かった。


 ノアール・レイモンド。


 宮廷魔術師。伯爵家当主。


 社交界に参加できる立場であり、参加することも当然の男。


(ええ、参加していることは知っていましたわ)


 ルイーゼは情報で把握していた。

 ただ、リュシアには教えていなかった。


 リュシアが目を丸くする。


「ノアールも参加していたのか」


 ノアールは苦笑して肩をすくめた。


「ああ。参加していたが……まさかリュシアも、なんて」


 その視線が、リュシアのドレスに一瞬止まる。

 目の動きが僅かに遅れる。


 そしてすぐに戻る。


(わかりやすいですわね、ノアール様)


 ルイーゼは内心でそう思う。

 リュシアが真面目に言った。


「ルイーゼ様が招待してくださったんだ」

「そうなのか……」


 ノアールがルイーゼへ視線を移す。

 ルイーゼは微笑んだ。


 社交界の微笑みではなく、少しだけ素の温度を混ぜて。


 前に彼へ小さく呟いたことがある。


『お二人の邪魔はしませんのでご安心を』


 それは真実だ。ルイーゼは邪魔をするつもりはない。

 ノアールがリュシアを好いているのは、情報でも知っていたし、今の反応を見ればさらに確信できる。


 リュシアは、正直わからない。


 でも、ノアールへの好感は確実にある。


(お姉様、あなた、友達と言う割には……)


 胸の奥が少しだけ熱くなる。

 それが嬉しいのか、悔しいのか、ルイーゼ自身にも判別がつかない。


 令嬢たちは、ノアールを見て一瞬ざわついた。

 伯爵家当主が近づけば、注目が集まる。


 けれど今、注目の中心は別にある。


 リュシアだ。


(……本当に、さすがお姉様)


 ルイーゼは内心で繰り返す。

 そして、そのタイミングで会場に曲が流れ始めた。


 ダンスの曲だ。

 会話の波が少し引き、空間が中心へ寄っていく。


 踊りたい者が、相手を探し始める空気。


 ルイーゼの胸が、一瞬だけきゅっとなる。


(本当なら――お姉様のファーストダンス、私が踊りたい)


 練習もした。手も取った。

 でも、ここは――違う。


(お姉様は、私の玩具じゃない)


 自分の胸に釘を打つように、ルイーゼは思う。

 自慢したい、見せびらかしたい、独り占めしたい。


 そんな感情があるのは事実だ。

 でも、それを正面から貫けば、お姉様の道を狭める。


 ルイーゼは息を整え、いつもの笑顔で言った。


「ノアール様。ぜひ、リュシア様のお相手を」


 ノアールが目を見開いた。

 一瞬、本当に言葉を失った顔になる。


 そして、ゆっくり頷いた。


「……いいのか?」


 ノアールがルイーゼの耳元で小さな声で問いかける。

 ルイーゼは微笑みで返す。


「ええ。お姉様は、きっと嬉しいはずですわ」


 ノアールは小さく頷くと一歩進み、リュシアへ手を差し出した。


「リュシア。踊ってくれないか」


 リュシアが、僅かに固まる。

 視線が迷う。そして、ルイーゼを見る。


 その視線に、ルイーゼの胸が少しだけ温かくなる。


(約束、覚えていてくださったのね)


 躊躇したのだろう。自分と踊る約束をしたから。

 その思いだけで、ルイーゼには十分だった。


 ルイーゼは小さく頷き、柔らかく言った。


「ぜひ踊ってきてください。私はその後で構いませんわ」


 リュシアが少しだけ眉を寄せた。


「……いいのですか」

「ええ」


 ルイーゼは笑う。大丈夫だと、笑顔で伝える。

 リュシアは頷いた。


 そして、真面目な顔で言う。


「わかりました。あとで必ず、踊りましょう」


 その言葉が、ルイーゼの胸をきゅっと締めた。


(ずるい……お姉様のそういうところ、ずるいですわ)


 でも、顔には出さない。

 ノアールがリュシアを導き、会場の中心へ向かう。


 人の輪が自然に開く。視線が集まる。

 そして二人は踊り始めた。


 美しい踊りだった。滑らかで、無駄がなく、呼吸が合っている。


 ノアールは相手を立てるタイプだ。

 リュシアは――相手を置いていかない。


 あの練習の時と同じだ。相手に合わせる。

 強く引かない、置いていかない。


(……綺麗)


 ルイーゼは、胸の奥で呟く。


 本当は譲りたくない。


 悪い男だったら、絶対に譲らなかった。

 でもノアールは、悪い男ではない。


 少なくとも、リュシアを剣として扱う男ではない。

 彼女を幸せにできそうな男性の第一候補。


 ルイーゼは、そう判断している。


(お姉様が幸せなら、問題ありません)


 そう、何度も自分に言い聞かせる。

 それでも胸の奥に、ちくりとしたものが残る。


(……ほんの少しだけ、嫉妬しますけれど)


 ルイーゼはその感情を、紅茶のように飲み込んだ。


 そして――会場の中心で踊る二人を見つめながら、微笑みを崩さないまま思う。


(私のお姉様は、きっとこれからもっと遠くへ行く)

(だから、今は――見送り役でいい)


 その覚悟が、今夜のドレスの刺繍みたいに、胸の内側で静かに光っていた。




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正しい押し活!ご令嬢も幸せになってほしい(^^)
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