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【連載版】裏切られた最強女騎士は、二度目の人生で自由を選ぶ ~私は幸せだけど、元主の王太子は破滅しているみたいです~  作者: shiryu


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第22話 社交界に参加者として



 社交界当日。


 私はルイーゼ嬢と共に、会場へ向かう馬車の中にいた。


 座席は柔らかく、揺れも少ない。


(……本当に来てしまったな)


 そう思って窓の外を見る。


 夜の王都は明るい。街灯の光が石畳を撫で、行き交う馬車の車輪が静かに音を立てる。


 そして目的地が近づくほど、馬車の数も増えていった。


 馬車が停まる。


「着きましたわ」


 ルイーゼ嬢が楽しそうに言う。


 扉が開き、先にルイーゼ嬢が降りる。


 私は彼女に続いて外に出て――外気に触れた瞬間、無意識に周囲の気配を探ってしまった。


(……護衛騎士の癖だな)


 護衛として来たのではないのに。


 馬車から降り立った私は、会場を見上げた。


「……小さいと聞いていたのですが」


 思わず口に出る。


 ルイーゼ嬢がきょとんとしてから、すぐに笑う。


「小さいですわよ?」

「……私の感覚で言えば、大きいです」


 建物は立派だった。


 外壁は明るい石。窓は大きく、内側の灯りが外へ漏れている。


 入口には花が飾られ、赤い絨毯が敷かれている。


 人の数も多い。馬車が列を作り、護衛の影が壁際に並ぶ。


(王族が参加しないだけ、という大きさか)


 私はようやく理解した。


(そういえば、ルイーゼ嬢は侯爵令嬢だった。彼女が参加する社交界が、小さいわけがない)


 自分の認識の甘さに、今さら気づく。


 だがもう遅い。


 そして私は、身にまとっているものを改めて意識した。


 ドレス。ルイーゼ嬢が用意した社交界用のものだ。


 白と青を基調とした刺繍が鮮やかに入っている。


 私の髪色に合わせた――そう言われた時は、なぜそこまで、と本気で思った。


 豪華で派手だ、目立ってしまう。


 だが意外と素材は軽く、足捌きも悪くない。


 前に貰ったタイトなドレスよりずっと動きやすい。


(これなら戦えそうだ)


 そう口にした瞬間のことも覚えている。


『戦わないでください』


 ルイーゼ嬢はにこやかに、しかし即断でそう言った。


 その言い方が妙に怖くて、私は「……はい」としか返せなかった。


 会場前で立ち止まってしまっていたのだろう。


 ルイーゼ嬢が私を見上げ、少しだけ声を落とす。


「緊張しますか?」

「……少しだけ」


 正直に言うと、ルイーゼ嬢は嬉しそうに笑った。


「大丈夫ですわ。私がいますもの」


(それが一番、緊張の原因でもあるのだが)


 とは言えない。


 私たちは会場へ入った。


 中は、やはり煌びやかだった。


 天井から吊るされた灯りが柔らかく光り、床は磨かれている。


 楽団の演奏が、会話の波を邪魔しない程度に流れていた。


(……来たことはある)


 ただし、警備として。


 端に立ち、壁際から目を配り、誰が誰と話しているかを確認していた。


 思わず周囲を見渡してしまう。


 その動きが面白いのか、ルイーゼ嬢は横でずっと笑顔だった。


(……楽しそうだな)


 私が緊張しているのが、わかっていながら。


 すると、すぐに令嬢たちが寄ってきた。


 三人。みんな、年齢は私たちと近そうだ。


 髪も飾りも手入れが行き届いていて、歩き方が軽い。


「ルイーゼ様、ご機嫌よう」

「ご機嫌よう、皆さま」


 挨拶の速度が違う。


 言葉が滑らかすぎて、私はついていけない。


 ルイーゼ嬢は彼女たちと二言三言交わした後、私に視線を向けた。


「ご紹介しますわ。こちら、リュシア・エルフェルト様です」


 私は反射で背筋を伸ばし、胸に手を置いて頭を下げた。


「初めまして、リュシア・エルフェルトと申します」


 騎士式の礼だった。


 令嬢の礼ではない。私は今さら気づいたが、もう遅い。


 三人の令嬢が目を瞬かせた。


「えっと、貴族令嬢には見えませんが……」


 その言葉が、少しだけ刺さる。


 刺さるが、事実だ。


「はい。第二騎士団に所属しております」


 私が淡々と答えると、三人の表情が微妙に引いた。


「……騎士の方が?」

「なぜここに?」


 そうなるのは分かっていた。


 わかっていたが、実際に言われると居心地が悪い。


 だがルイーゼ嬢が、何でもないことのように笑う。


「私が招待しましたの」


 三人が、気まずそうに視線を揺らした。


「……そう、ですか。ルイーゼ様が……」


 納得はしていない、でも逆らえない、といった感じだ。


 侯爵令嬢の「招待しました」は、強い。


(私はここにいていいのか)


 答えは出ないまま、会話が続きそうになる。


 だが私は、話題に参加できない。


 貴族の雑談には、知らない単語と知らない名前が多すぎる。


 私は視線を外し、会場の端を見た。


 テーブルが並んでいる。その上に軽食がずらりと並んでいた。


 手でつまめるもの。小さなパイ、串刺し、焼き菓子。


 だが、ほとんど手が付けられていない。


 貴族たちは会話に夢中で、食べない。


 特に令嬢は食べない。


 警備の時、食べているところを見た記憶がない。


(……もったいない)


 回帰する前は、そういうものだと思っていた。


 だが今は違う。


 残すのはもったいない、という感覚が先に来る。


 しかも社交会の食事だ、美味しいに決まっている。


 私はルイーゼ嬢へ小声で言った。


「ルイーゼ様、あちらに行って食べても?」


 三人の令嬢が同時に反応した。


「……食事?」

「この場で……?」


 まるで信じられないものを見る目だ。


 私は少しだけ首を傾げる。


(そんなに不思議か?)


 ルイーゼ嬢は、にっこりした。


「はい、行きましょう」


 その即答に、三人がさらに固まる。


 私たちはテーブルへ移動した。


 近づくと香りが濃くなる。焼き立ての匂い。甘い匂い。


 私は迷いなく一つ取って口に入れた。


「……美味しい」


 思わず頬が緩む。


 柔らかい。塩気と甘さのバランスが良い。


 これが放置されているのは本当にもったいない。


 ルイーゼ嬢が、私の顔を見て幸せそうに目を細めた。


「ふふっ。さすがお姉様……私も食べても?」

「はい。私が止めることはありませんよ」


 私が言うと、ルイーゼ嬢は嬉しそうに小さな菓子をつまみ、口に運んだ。


 三人の令嬢が青ざめたように見える。


「えっ、まさかルイーゼ様も……」

「どういうこと……」


 不思議がっている理由がよくわからない。


 ただ、食べているだけだ。


 私は彼女たちに、素直に言った。


「お三人は食べませんか?」


 三人は揃って首を振った。


「わ、私たちはちょっと……」

「今は……」


 遠慮というより、恐怖に近い引きつりがある。


 その時だった。


 三人のうちの一人が、一歩後ずさった。


 その令嬢の背が、誰かにぶつかった。


「あっ……」


 声が小さく漏れ、身体が傾く。倒れそうになる。


 私は反射で動いた。


 距離を詰め、腰に腕を回し、支える。


 抱きとめる形になった。


(……近い)


 顔が近づいた。覗き込むようになってしまう。


 私はすぐに言った。


「大丈夫ですか」


 令嬢は目を見開き、次に恥ずかしそうに視線を逸らした。


「は、はい……大丈夫です」

「お怪我は?」

「あ、ありません」

「ならよかったです」


 私は彼女をしっかり立たせ、腕を離す。


 令嬢はなぜか潤んだ瞳で私を見ていた。


(……何だ、その目は)


 だが今はそれより、原因だ。


 私は振り返った。


 ぶつかった相手――若い貴族令息が立っていた。


 令嬢と当たったことで体勢を崩したのではなく、むしろ足元を気にしていない雰囲気。


 私は落ち着いた声で言う。


「そこの男性」


 男が不機嫌そうに振り返る。


「はい?」

「ご令嬢に身体が当たりました。謝罪を」


 男は眉を吊り上げた。


「はぁ? なぜ俺が」

「あなたが不注意で、ご令嬢のドレスを踏んだからです。謝罪を」


 私の言葉に、男の顔が赤くなる。


「なんだと……!」


 彼が一歩近づいて、私を威圧するように睨んでくる。


 私はその視線を受けてもたじろがない。


「なんで俺が謝らないといけないんだ!? あぁ!?」

「耳が遠いのですか? お若く見えますが」

「っ、お前! 舐めてるのか!?」


 逆上し、手を出そうとした。


 私はその手首を取った。


 取って、捻る。最小限の力で、最大限痛い角度へ。


「っ!? いっ、てててっ……!」


 男が声を上げる。


 周囲の視線が集まり始める気配がした。


 社交界のざわめきが、少しだけ止まる。


 私は淡々と言う。


「正当防衛ですが、何か言うことは?」


 男が歯を食いしばる。


「な、なんなんだお前は!」


 私は手首を捻ったまま答えた。


「第二騎士団所属の、リュシアです」


 男の目が揺れる。


「第二騎士団!? なんでそんな奴が参加してんだよ!」

「私が招待したので」


 ルイーゼ嬢がすっと前へ出た。


 笑顔だった。


 でも、その笑顔はいつも私に見せる笑みとは違う、社交界の笑顔だ。


 温度が低い、刃物みたいに整っている。


「ロ、ローディア侯爵令嬢……!」


 男の顔色が変わった。


 私はもう一度言う。


「謝罪は?」


 男は口を開けて閉じ、ようやく絞り出した。


「……わ、わかったよ!」


 私は手を離す。


 男は手首を押さえながら、令嬢の方へ向き直った。


「その……ご令嬢のドレスを踏んでしまい、申し訳ありませんでした……」


 令嬢は小さく頷き、謝罪を受け取った。


 男は一度だけ私を睨みつける。


 だが侯爵令嬢の前でそれ以上はできないのだろう。


 足早に去っていった。


 私は令嬢へ向き直った。


「あの謝罪で大丈夫でしたか?」


 令嬢は潤んだ瞳のまま、笑顔になる。


「はい! ありがとうございました、リュシア様!」


 もう二人の令嬢も、なぜか頬を赤くして言った。


「とてもカッコよかったです……!」

「男性に対してあの勇ましい立ち姿……とても素敵でした!」


 私は一瞬、返す言葉を失った。


(……さっきまで、引いていませんでしたか)


 視線の熱量が違う。


 変な視線であることは変わらない気がする。


 ただ、方向性が変わった。


 私は息を吐いて、無難に言った。


「……ありがとうございます。こういうのを生業にしているので」


 今は仕事ではないが、こういう場ではそれが一番安全な言い方だと思った。


「確かに、騎士と申しておりましたものね」

「自分よりも強く大きい男性に立ち向うなんて……すごいです!」

「ぜひお話を聞かせてください!」


 なんだか三人の令嬢の熱量がすごくなったな。


 ルイーゼ嬢が、隣で小さく呟いた。


「ふふっ。さすが私のお姉様ですわ」


 嬉しそうだ。誇らしそうでもある。


 見せびらかす顔も混じっている気がした。



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― 新着の感想 ―
すごい、ナチュラルにジェントルマンなドレス着た美女(本業:騎士)って、普通に男性よりモテそう。
あららら。トップスターになりつつありますね。
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