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【連載版】裏切られた最強女騎士は、二度目の人生で自由を選ぶ ~私は幸せだけど、元主の王太子は破滅しているみたいです~  作者: shiryu


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第12話 令嬢を救出


 暗闇の中、私は一度も誰にも当たらずに会場を抜けた。


 混乱した群れは、流れが読める。

 その隙間を縫えば、刃を振るわなくても道は開く。


 外気が肌に触れた瞬間、空気が変わった。


 西の庭。会場の中より静かだ。

 灯りはない。けれど真っ暗ではない。


 雲が薄く、星の光が庭の輪郭だけを少し浮かび上がらせていた。

 木々の影。石畳の縁。花壇の黒い盛り上がり。


(……どこだ)


 令嬢を攫った犯人。

 足音は確かにこちらへ向かっていた。


 私は息を殺し、耳を澄ませた。

 そして音がした方向に、視線を動かした。


 ――一瞬だけ。


 右斜め前、木の陰が、不自然に揺れた。

 影が影じゃない。人の形だ。


(あっちだ)


 身体が先に動いた。


 足音を殺しながら、地面を蹴る。

 石畳を踏んでも音を立てない角度で。

 重心を低く、息を浅く。


 木陰を抜けた先に――人影がいた。


 三人……いや、四人だ。

 一人が女性を抱えている。


 小さく暴れている。

 だが手足を縛られているようで、抵抗は大きくならない。


 口には猿轡。声は出せないようだ。


(誘拐しようとしている令嬢か)


 会場を囲う塀の方へ向かっている。

 塀は私の身長より高い。簡単には越えられないはずだ。


 だが、男が二人がかりで令嬢を持ち上げた。


(投げる気か)


 私は一瞬だけ足を止めそうになった。

 投げれば怪我をする。最悪、首が折れて死ぬだろう。


 でも――向こうは躊躇わない。


 男たちは令嬢を塀の上へ押し上げ、外側へ投げた。

 闇に消える白い布の影。


 外側で、何かが受け止めた気配。

 仲間がいるのか、向こう側で受け止めたようだ。


(逃がすわけにはいかない)


 私は気配をさらに薄くした。

 呼吸を止め、心臓の鼓動すら抑える感覚。


 足音を消すために、重心を低くする。


 塀の内側に残っているのは三人。

 外側へ投げた二人と、周囲を見張っていた一人。


 そして今、彼らの注意は「外側」に向いている。

 受け渡しが成功したかどうか、確認している。


(今)


 最短距離で背後に滑り込む。


 剣を抜かない。音が出る。

 私は柄を握り直し、腕を振った。


 ――ごつり。


 一人目の側頭部に柄が入る。

 男は声すら出せず、膝が抜けて倒れた。


 反射で二人目が振り向く。

 目が見開かれる瞬間に、私はすでに次の位置にいる。


 ――ごつり。


 二人目も同じ場所を叩く。

 身体がびくりと跳ね、静かに崩れた。


(終わりだ)


 そう思った瞬間、三人目が息を呑む音がした。


「なっ……!」


 声は小さい。

 だが、驚きだけではない。


 身体がすぐ戦う形になっている。


(素人じゃないな)


 私は柄を振り上げ、同じように側頭部を狙う。


 だが――避けられた。


 完全には避けられていない。肩口が掠る。

 それでも、受け身の速さが違う。


 闇の中で、三人目が短剣を抜いた気配がした。

 金属が擦れる音。空気が変わる。


(やっぱり)


 私は間合いを詰めた。


 短剣の間合いは短い。だが近づけば、相手の腕の角度が窮屈になる。


 刃が横に走る。

 私は身体をわずかに引き、刃先を紙一枚で避けた。


 次の瞬間、肘を叩く。


 ――鈍い音。短剣が落ちる気配。


 三人目が舌打ちした。


「……ちっ」


 私の柄が、今度は顎を狙う。

 顎は意識が飛びやすい。だから警戒される。


 相手は頭を引いた。


 その動きに合わせて、私は踏み込み、肩をぶつける。

 相手の体勢が崩れた。


(今)


 柄を逆手に持ち替え、側頭部へ連続で叩き込む。


 ――ごつり、ごつり。


 三人目は最後に息を吐き、崩れ落ちた。


 私は一拍だけ呼吸をした。

 耳に、自分の心臓の音が戻ってくる。


(……やっぱり、手練れだ)


 素人なら、そもそも二人目の時点で騒いでいる。

 避けることも、応戦することもできない。


 この男は避けた。短剣で反撃までした。

 かなり訓練を受けている。


(つまり、裏にいるのは……)


 考えが浮かびかけたが、今は切る。

 令嬢は外に出された。追わなければ。


 私は倒れた三人を一瞥し、塀へ向かった。


 助走をつけ、手をかけ、軽く登る。

 塀の上から外を見渡す。


 遠くで、馬車の音。

 車輪が石畳を叩く音が規則的に遠ざかっていく。


 闇の中、馬車の影だけが動いている。


(あれだ)


「逃がさない」


 口に出した自分の声が、夜に溶けた。


 私は塀を越え、地面に着地する。

 膝で衝撃を吸収し、そのまま駆けた。


 普通の人間なら追いつけない。

 普通の騎士でも無理だ。


 馬車は速い。馬の脚は人の脚より強い。


 でも――私は魔力で身体を強化している。


 足が地面を蹴るたび、筋肉の奥に熱が走る。

 視界が狭くても、馬車の位置だけは見失わない。


 距離が縮む。

 馬の息遣いが聞こえる。

 御者の小さな舌打ち。

 急ぐために鞭を入れた音。


(間に合う)


 私は最後の踏み込みで速度を上げ、馬車の荷台へ飛んだ。


 空中で身体を丸め、音を立てないように着地する。


 荷台の中は暗い。

 だが、星明かりがわずかに差し込んで、影が分かる。


 寝転んでいる令嬢。

 猿轡を噛まされたまま、縛られたまま。


 そして、その側に男が一人。


「なっ、てめえ、どこから――」


 叫びかけた。

 だがその一瞬が、致命的だった。


 私は躊躇わない。


 剣の柄で側頭部を殴る。


 ――ごつり。


 男は言葉の途中で崩れ落ちた。


 私は令嬢の方を見る。


 彼女の目と、私の目が合う。

 暗闇なのに、目が妙に光って見える。


 恐怖だけじゃない光だ。

 驚きと、何か別の――熱。


 私は唇に指を当てた。


 静かに、という合図。


 令嬢が頷く。


(……冷静だな)


 怯えて暴れると思っていた。

 でも彼女は、状況を理解している。


 そして――なぜか目がきらきらしている。


 なぜだろうか? 恐怖の目ではないようだが。

 今はそれを気にしない。


 私は荷台から御者席の方へ、気配を消したまま移動する。


 御者はまだ気づいていない。

 馬車の揺れで、後ろの音が誤魔化されているのだろう。


 私は背後に立ち、短く息を吐いた。


 ――ごつり。


 柄で殴り、御者を気絶させる。


 身体が前に倒れかけたのを支え、手綱を奪う。

 馬を驚かせないように、声を出さずに合図だけで速度を落とした。


 道の端へ寄せ、馬車を停める。


 車輪の音が止まり、夜が戻ってくる。


(……終わり)


 誘拐犯は無力化した。

 荷台の男。御者。塀の内側にいた三人。


 外側にいた仲間がまだいる可能性はある。

 油断はできない。


(ここに長くいたら、仲間が来る)


 令嬢を安全な場所へ。

 会場へ戻り、保護してもらう。


 そしてこのことを報告し、騎士を連れて戻ってきて、残りを捕まえる。

 それが最善だろう。


 私は荷台へ戻り、しゃがみ込んだ。


 令嬢の目が、私を追っている。

 なぜか、嬉しそうに見えるが……。


 今はそれも置く。


「大丈夫ですか?」


 小声で言う。


 令嬢は必死に頷く。


「今、拘束を解きます」


 まずは猿轡。

 布の結び目を探り、解く。


 外した瞬間、令嬢は小さく咳き込んだ。


「……っ、げほ……」


「大丈夫ですか? 落ち着いて」


 背中をさすろうとしたが、手を止める。

 不用意に触れて驚かせたくない。


 令嬢は咳を落ち着かせ、次に――私を見上げた。


 闇の中でも分かるほど、目が輝いている。


「私の王子様……!」


「……ん?」


 いや、王子じゃなく、ただの騎士だが?




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