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【連載版】裏切られた最強女騎士は、二度目の人生で自由を選ぶ ~私は幸せだけど、元主の王太子は破滅しているみたいです~  作者: shiryu


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第11話 社交界での事件


 その日の夕方。

 貴族街の巡回を終えた私は、そのまま社交界――大きな会場の警備に回された。


 鎧は最低限。動きやすい格好。

 剣はいつも通り腰にある。


(……この仕事も、回帰前はやっていたな)


 まだ第一王子の近衛騎士になる前。

 第二騎士団にいた頃、こういう会場の警備は当たり前に回ってきた。


 貴族たちが集まる場は、表向きは華やかだ。

 けれど中身は――綺麗な言葉と笑顔の裏で、いくらでも刃が飛ぶ。


 近衛騎士になってからは、警備の仕事はしなくなった。

 アーヴィンの背後に立ち、彼の影を守るだけ。


 会場を守るのではなく、王子を守る。

 あの頃の私は、それが「誇り」だと信じていた。


 会場に到着し、配置の確認が始まる。

 私は自然と、入口や通路、非常口の位置を目で追った。


 そして――違和感。


(……少ない)


 騎士の数が明らかに少ない。

 この規模なら、第一騎士団が数名は必ず入る。

 王族も来るのだから尚更だ。


 なのに、見える範囲にいるのは第二騎士団ばかり。


 周りの騎士たちは緊張している。

 高位貴族も王族もいて、背筋が固くなっている。


 それでも――どこか油断が混じっているのが分かった。


(何も起こらないだろう、って顔だ)


 大きい会場だから警備がしっかりしている、と騎士が勝手に思っている。

 人数が少ないことに気づいていないか、気づいても「上が決めた配置だから」と受け入れているか。


 私は周囲を見渡し、指揮を取っているらしい騎士を探した。

 けれど、誰が指揮官なのか分からない。


 それに今の私は、偉い立場でもない。

 忠告したところで――聞いてもらえるかは怪しい。


(なら、私は私で動く)


 油断しない。何があっても遅れないように。

 気を張っておく。


 経験が、肌で言っている。


(こういう時は、何かが起こる)


 五年間、アーヴィンの近衛騎士をやって、嫌というほど見てきたから。


 そして、社交界が始まった。


 会場は眩しいほど華やかだった。

 高い天井。大きなシャンデリア。

 音楽が流れ、笑い声が混じる。


 私の持ち場は会場の東側。

 入口寄りの内側で、出入りを監視する位置。


 貴族たちが行き交い、香水と酒と花の匂いが重なる。

 子爵以上の当主、令息や令嬢。

 高位貴族も多く、王族もいる。


 私は視線を動かしながら、ふと――胸の奥が引っかかった。


(……この会場)


 見覚えがある。

 はっきり「これだ」と言えるほどではない。

 でも、嫌な記憶の匂いがする。


(私が何かを覚えているってことは……)


 事件があった場所かもしれない。

 そういう記憶だけは、身体に残る。


 そして、その答えのように――視界の端に、あの男が映った。


 第一王子、アーヴィン・レグナード。

 回帰前の元主。


 あの人の背後に立っていた自分を、私はもう「過去の他人」みたいに感じる。


 アーヴィンの周りには見覚えのある側近たち。

 そして見覚えのない近衛騎士。


(……後ろにいるのが、私じゃない)


 当たり前のはずなのに、奇妙な感覚がする。


 けれど――もう関係のない話だ。

 私は第二騎士団の騎士で、警備の一部。

 彼の剣ではない。


 そう思って、視線を戻しかけた時。

 アーヴィンの表情が目に入った。


 側近と小声で話しながら――口元だけ笑っている。

 目が笑っていない。

 薄い喜びの形だけを貼り付けた顔。


(……あの顔)


 回帰前に何度も見た。

 あの顔の後に出る命令は、決まって過激だった。


 暗殺。侵入。脅迫。

 アーヴィン自身が手を汚さなくても、必ず誰かが動く。

 そして動くのは――私だった。


(……今回も、何か狙ってる)


 私の喉が少し乾いた。

 けれど私は持ち場を離れない。

 今は警備の仕事だ。


 社交界は、しばらく穏やかに進んだ。

 音楽に合わせて踊る者たち。


 終わりが近づく空気が漂い始めた頃。

 事件は、突然起きた。


 ――灯りが消えた。


 一瞬で、会場が暗闇に沈む。

 会場の中の光が消えるだけで、ここまで真っ黒になるのかと驚くほどだった。


「きゃっ!」

「何が起きた!?」

「灯りを! 誰か灯りを!」


 悲鳴と叫び声。床を踏む音。誰かが転ぶ音。

 混乱が波のように広がる。


 騎士たちも騒いでいるのが分かった。


「明かりをつけろ!」

「配置を崩すな! 王族から離れるな!」


 声は飛ぶ。

 だが、統制は取れていない。


(……やっぱり)


 私は一度、目を閉じた。

 この暗闇なら、目は役に立たない。


 なら、頼るのは耳だ。


 呼吸を整え、聴覚に集中する。

 布が擦れる音。靴の音。宝石が揺れる音。


 その中に――一瞬だけ、妙な音が混じった。


「きゃぁ……っ――」


 叫ぼうとした声が、途中で潰れる音。


(……口を塞がれた)


 令嬢だ。声が細い。

 驚きで声が上がりかけた瞬間に、誰かに押し潰された。


 暗闇で、そんなことが自然に起こるはずがない。

 転んで口を打った音じゃない。

 布でも手でもいい、口元を塞がれた音だった。


(誘拐……?)


 次に聞こえたのは、走る足音。

 会場の西側――庭へ向かう方向。


 暗闇の中、ただ無暗に走っているのではない。

 迷いがない足音だ、狙いがある。


 会場が暗いから、皆は混乱している。

 その中で「目的地へ向かう足音」だけが、浮いて聞こえる。


(あいつだ)


 灯りを消した主犯。あるいは、主犯の一人。


 持ち場から離れることになる。

 本来なら、勝手に動くべきじゃない。


 でも――誰も気づいていない。

 この暗闇の中で、あの足音を追えるのは私だけだ。


(私が行くしかない)


 そう思った瞬間。


「む、娘は!? 私の娘はどこだ!?」


 男の叫び声が響いた。

 喉が裂けそうな必死の声。


 そして――その声を聞いた瞬間、記憶が弾けた。


(……回帰前の事件)


 そうだ。社交界で誘拐事件が起きた。

 私はその場にいた。

 あの時も、今と同じ声を聞いた。


 今の声は父親だ。娘を探して叫んでいた。


 私は動こうとした。助けに行こうとした。

 ――でも止められた。


『お前は俺の剣だろ。離れるな』


 アーヴィンの当たり前のように命令する声。

 私は従った。

 近衛騎士だから。王子の剣だから。


 その後、その令嬢がどうなったか――私は知らない。

 助けられたかもしれない。

 その心残りだけが残った。


(……今なら)


 今は、止める者がいない。

 私はアーヴィンの剣じゃない。近衛騎士じゃない。

 自由だから。


(私は、行く)


 私は人込みの中へ踏み込んだ。

 人は多くいるが、混乱している貴族達の誰かに当たって遅れるなんてことはない。


 全員の呼吸、足音がわかるので、その間を抜けるように駆ける。

 そして、庭へ向かう足音を追う。


 暗闇の中で、私の中の感覚が冴えていく。

 剣を握る手が熱い。

 呼吸は冷たい。


(今度こそ)


 回帰前の後悔を、ここで終わらせる。


 私は混乱の海を切り裂くように走った。



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