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白雪姫、美容スパルタな継母から逃げたら全員のキャラが壊れました【コメディ】

作者: ALMA
掲載日:2026/01/16

 王宮の奥、美容ルーム。

 最新鋭の加湿器が静かに吐息を漏らし、ピンクの照明が肌のトーンを美しく見せてくれる。

 その中央には、ゴージャスな金枠のしゃべる鏡が鎮座していた。


 継母はスリッパ姿で、うっとりと問いかける。

「鏡よ鏡、この世でいちばん美しいのは?」


 鏡がふわっと光り、柔らかなオネエ声で答える。

「今日も麗しいわ、マダム……でも最近、白雪姫ちゃんのお肌、ちょっと荒れてきてるのよねぇ」


 継母の動きが止まった。

「えっ!? なにそれ!? 雪ちゃんが!? 肌荒れ!?」


「たぶん寝不足ね。夜ふかししてスマホ見てるわ」


「すわっ大変! 炭酸パック! 美容鍼! ピエール、探してきて!!」


「カァアー!(了解)」


 鏡はぽつりとつぶやいた。

「……愛ねぇ。ちょっと重いけど、愛よねぇ」




 今、白雪姫は逃げている。

 王宮を。いや、もっと正確に言うと、継母の美容スパルタ指導から。


「ちょっと雪ちゃん! まだ炭酸パック途中なんだから! 逃げないで!」


「いやもう無理! 顔ピリピリするし! 目も開かないし!」


 そう叫びながら森へ逃げ込んだ白雪姫。

 動きにくいドレスの裾を引きちぎり、ノーメイクで全力疾走。まさに“姫、疾走中”。


 そしてたどり着いたのは──


「……なにこれ、ちっさ……」

 おとぎ話仕様の、こじんまりとした山小屋だった。


 ノックすると、バタンと勢いよく扉が開いた。

 中から現れたのは、謎のサングラス小人。


「誰でぃ」


「えっ、あ、えっと……道に迷って、その……少しだけ休ませてもらえたら……」


 白雪姫がおずおずと中を覗き込んだ、その時だった。

 彼女の視線が、部屋の隅にある「ホコリの溜まった棚」と「飲みかけの茶碗」に止まる。


 ──ピクリ。

 王宮で叩き込まれた美意識が、無意識に反応してしまった。


「……ちょっと」

「ああん?」


「そこ、汚れてるし、部屋の湿度が低すぎる。あと、その茶碗の放置は雑菌の温床よ。すぐに片付けて」


 自然と放たれた、絶対零度の命令口調。

 サングラス小人がビクリと震えた。


「ま、まさか……(あね)さんッ!!」

「いや誰!?」


 家の中から、さらにゾロゾロと小人たちが登場。どいつもこいつもガラの悪いサングラス着用。だが、なぜか無駄に礼儀正しい。


「姐さん、お初にお目にかかります、帳面の定吉と申します」


「ツッコミのノリ介です。ツッコませてください!」


「影丸っす。暗殺(お掃除)ならお任せを……」


「マジボケの源! 姐さん、俺、姐さんのために生まれてきました!」


「うるせぇよ!!!」


 突如始まる謎の忠誠儀式。

 白雪姫、無言で靴を脱ぎ、なぜかちゃっかり上座のソファに座る。もう疲れた。


「……いやいや、落ち着いて? 私、ただの白雪姫なんですけど」


「その“ただの”が一番怖ェんだよ、姐さん……!」


「えっ?」


「今のダメ出しの鋭さ……あんなドスの利いた声、カタギじゃ出せねぇ」


「えええっ?」


「お肌の白さ、目の切れ長、ナチュラルメイクでこの仕上がり……オーラが違う。アンタ、女王にも王子にもなれた人だ」


「いや、言ってること意味不明……」


「姐さん、オレらのとこでのし上がりましょうや……!」


「だから、どこへ!!」


 こうして白雪姫は、小人──いや、“子分たち”と奇妙な共同生活を始めることになった。




 数日後──


「姐さん、白湯(さゆ)っす。今日はレモンの皮ちょびっと浮かべてます」


「なにそれ気が利きすぎ。……てか、なにこの生活」


 気がつけば、白雪姫は完全に“姐さん”ポジションに定着していた。

 帳面の定吉は、姐さんの肌水分値と食事バランスを記録。

 ノリ介は姐さんのボヤキに秒速でツッコミを入れる。

 源は一日三回、「姐さんって神だよな」と手を合わせている。


(……なんで私、“(あね)さん”なの?)




 その日も、姐さん(白雪姫)は朝からご機嫌だった。

 小人たちが湧き水で沸かした白湯を持って来てくれるし、ノリ介のツッコミが朝の目覚まし代わりになる。


「姐さん、肌の調子、今日も絶好調っすね!」


「当然でしょ。姐さんなめんなよ」


 そんな森のスローライフを楽しんでいた、まさにそのとき。


 ──ギィ……。

 木のきしむ音とともに、小屋の戸がゆっくり開いた。

 そこに立っていたのは──


「……雪ちゃん……? 生きてる……? 肌荒れてない……?」


 ガチの魔女ルック。

 肩にでかいカラス (名前はピエール)を乗せた、白雪姫の継母(ママ)だった。

 だがしかし、開口一番が「肌荒れチェック」。


「……なんで来たの……」


「あなたのお肌のターンオーバーが心配で夜も眠れなかったの!」


 継母の手に握られていたのは、ぴかぴかに光る真っ赤なリンゴ。

 パッケージには、キラキラの文字でこう書かれていた。


 『美眠・美肌・無限ぷるるん』

 『睡眠導入系リンゴ【夜用】』


「これ、新作なの! 睡眠美容に特化したやつ! ピエちゃんもテイスティング済みよ♡」


「カァッ (うなずく)」


「なにその監修スタイル!?」


 白雪姫は一歩下がる。

 継母とカラスが並んでじりじりプレッシャーをかけてくるという、謎すぎる()


「あなた最近、寝れてなかったでしょ? お肌もだけど、心配なのよ……ママ的に」


「ママ的に!?」


「とにかく! 半分だけでもいいから食べて! ピエちゃん、はい応援!」


「カァアア!」 (やたら気合いの入った鳴き声)


「圧がすごい!!」


 でもまあ、せっかく来てくれたし。

 それに、ちょっと寝不足だったのも事実。

 姫はふと、手にしたリンゴを見つめた。


「……ひとくちだけ、ね」


 カプッ。

 ──そして数秒後。


「……スヤァ♡」


 姐さん、崩れ落ちるように就寝。

 周囲の子分たち、全員パニック。


「姐さんが……姐さんがぁぁぁあ!!」


「おいおいおいおい、寝てるぞ!? これ絶対ヤベェやつじゃね!?」


「いや待て、姐さんの顔……めっちゃ潤ってないか?」


「まじで!? えっ、これ効いてんの!? 睡眠エステってやつか!?」


 誰よりも冷静だったのは“帳面の定吉”。

 肌の水分量をスッ……とメモしていた。

「数値的には史上最高です」


「やべぇ、姐さん、史上最高になっちまった……!」




 森をかき分け、一人の男が現れた。

 金のマントをひるがえし、無駄に風を味方につけたその姿は、まるで舞台挨拶に来た俳優のようだった。


 顔面偏差値は、およそ75。そこそこイケてるのに、どこか信用ならない。そんな絶妙なライン。

 王子は懐から手鏡を取り出し、前髪をセットしながら呟いた。


「……この眠れる姫を、僕のキスで目覚めさせる。それが、イケメンに課せられた使命だ……!」


 やたら荘厳な口調でつぶやき、唇を尖らせて手を伸ばす王子。

 その瞬間だった。


「ストォォォップ!!!!」


 七人の子分が一斉に飛び出した。

 サングラスが光る。影丸が静かにナイフを構える。


「は!? ちょ、ちょっと待ってください!? 王子です! 僕、王子なんです!」


「証拠は? てか王子って名乗り得じゃね?」


「出たよ、“王子”って言っときゃ何でもアリだと思ってるやつ!」

 ノリ介がズバッと切り込む。


「だいたい、寝てる女の子にいきなりキスとか、事件だよ事件!!」


「ち、ちがっ……物語ではそうなってるんです! キスで目覚めるのがトレンドなんです!」


 そのときだった。


 ──ばさっ。


 布団がめくれ、白雪姫がむくりと起き上がった。

 目つきはどこまでも冷静で、寝癖だけが妙に荒々しい。


「……寝てる女にキス? なめてんのか」


 その場の空気が凍った。

 王子は引きつった笑顔で固まる。


「え、あ、いや、おはようございます……?」


「ちょ、姐さん起き……」

 言いかけた源を、姐さんは手ひとつで制す。


 姐さんはゆっくりと立ち上がる。

 パジャマ姿のまま、寝ぐせと共に凄まじい威圧感を背負っていた。

 彼女は王子をジロリと見下ろし、吐き捨てるように言った。


「美容成分が浸透してる最中なんだよ。邪魔すんな」


「そっち!?」


「さすが姐さん、ブレねぇ……!」


「い、いや……その、物語の流れで……」


「“流れ”でキスすんな。流されていいのは涙と川だけだ」


 子分たちが「うおおお……」とどよめく。

 ノリ介は感動して鼻をすすっていた。


 姐さんは毛布をまとめて抱えながら、さらに王子を追い詰める。


「“物語だから”って勝手にキスしてくるやつ、全員まとめて通報な」


「こっちはただ寝てただけなんだよ。勝手にドラマ始めんなっての」


 ピエールが「カァッ!」とだけ鳴いた。

 多分、「はい論破」の意。


「つーかさ……寝かしといてくんない? まだパック、半分しか効いてないの」


 そのまま、すたすたと寝床に戻り、すやりと横になる。

 子分たちは自然と敬礼の姿勢を取っていた。


「姐さん……カッケェ……」

「寝顔にまで風格あるって、どういうこと……?」


 王子は膝をつき、小さくなる。

 自分のシナリオが完全に崩壊したことを悟ったのだ。


「……僕、本気で迎えに来たつもりだったのに……何も知らなかったんだな……」


 しん、と静まる小屋。

 王子がしょんぼりと帰ろうとした、その背中に、姐さんの声が飛んだ。


「……アンタが何を知ってるかなんてどうでもいい。でも、知らなかったって気づいたなら──そこからが本当の出番だよ」


 王子、目を見開いて振り返る。


「まず白湯沸かせ。話はそれからだ」


「……はい!」


「返事が小さい! 腹から声出せ!」


「ハイッッ!!」


 しゃがれた火打ち石の音と、小さな湯気。

 その真ん中に、金のマントを畳んでエプロン姿になった“新入り”がひとり加わった。


 こうして今日も、“姐さんと子分たち (+新入りのパシリ)”は、ちょっとずつ人数を増やしながら、森の奥で、静かに騒がしく生きている。



お読みいただき、ありがとうございます!

以前執筆した作品を加筆修正しました!


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